君を知るということ

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番外編 剝がれた仮面

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「…気がつかないとでも思ったか?」

放課後、凪が先生に呼ばれて不在のためにできた二人の時間。
静寂を打ち破る翔也の声は、酷く冷ややかだった。
いつもと違う態度に、激しく動揺が浮き出る。

「俺、馬鹿だからさ、言ってくれなきゃわかんないだよ。何か湊に嫌われるようなことしたか?」

「…してないよ。」

彼に僕は相応しくない。
そんな気持ちで距離を取っていたのに。

「だったら何で突き放すんだよ。」

「…突き放してなんか」

「もう嘘はやめろ!」

こちらの反応が許せなかったのか、翔也の表情は歪んでいる。
縋りつくように訴える悲痛な本音。
目に張られた薄い水の膜は、少しの衝撃で簡単に破られてしまいそうだ。

「…友達じゃなかったのかよ。」

(…最悪だ)

一番恐れていた事を起こしてしまった。
良かれと思っていた行為は、ただの独りよがり。
こんな時、何て声をかければいいのだろう。
「友達」だと肯定するべきか、それとも僕も本当の気持ちを伝えるべきか。

「…ごめんね。本当は、ずっと言わないつもりだった。」

心臓の音がやけにはっきりと聞こえる。
自分がこちら側の立場になるのは初めてだ。

「…もう僕は翔也を友達として見れない。」

「やっぱり、もう俺なんか。」

「違うよ。…君が好きだから。」

その言葉の意味が飲み込めないのか、翔也は黙ったまま口を噤んだ。

「僕にとって翔也はずっと、ヒーローみたいに優しくて、いつも元気で、…憧れだった。
でも、一緒にいればいるほど、どんどん好きになって、…君の一番になりたいって思うようになった。」

君という光さえ覆ってしまう自身の黒い心。
周りの人間にさえ嫉妬して、行動に移せない。
結局、僕は変われてなんかいなかった。
昔と同じ、弱虫で、流されて生きるだけ。
演じていた誰からも好かれる生徒。
一番好きな人がそれを望まないのなら、もうこの仮面も剥がしてしまおう。

「…無理だっていうのはわかってる。だから、最後にいい?」

震える身体を優しく、背後から包む。

「ありがとう。もう一度僕に出会ってくれて。」

「…もう一度?」

目を大きく瞬かせる翔也に頷き、「今のは忘れて。」と笑ってみせる。

「…ごめん。お前のこと、なんにも知らなかった。…なのに勝手に。」

「謝る必要なんてないよ。」

掴もうとした手は振りほどかれ、翔也は踵を返して飛び出した。
僕はただ、立ちつくしたまま、その場から動けなかった。

(…こんなはず、じゃなかったのにな)

今さらもう遅い。

「…凪、戻ってたんだ。」

「…話しかけられる空気じゃないだろ。」

ドアの前で溜息をつく凪に、鞄を手渡す。
これから部活なのに、道具を全て忘れたら元も子もない。

「…自分で行かなくていいのか?」

「今はちょっと。…多分、凪の方がわかってあげられると思う。」

「…後で連絡する。」

「ありがとね。」

「…俺の時はあんなに応援してきたくせに。」

「それは、二人は最初から両想いだったから。」

「行けばいいんだろ」とやや投げやりに、鞄を受け取ると凪は教室を出ていった。
告白の難しさ、それは自分が当事者になって初めて理解できた。





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