君を知るということ

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番外編 悩めるジェラシー

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「中間試験の個票返すぞ。出席番号順に取りに来い。」

五月中旬に行われた中間試験から約一週間、開放感に包まれていた教室からは「今回はマジで自信ある!」という期待から「…終わった。」などと落胆する声まで、まさに十人十色といった反応が湧き起こった。
六限のロングホームルームは名目上は『進路指導』なのだが、成績の振り返りと進路希望調査書を書く以外は半ば休み時間のようなもので、担任の広尾先生から個票とプリントを受け取った生徒が次々と話に花を咲かせている。

「こんな順位初めて獲った!」

意気揚々と成績を開示する翔也は280人中の96位。
一年生の時は下から数えた方が早かったから随分な進歩だ。

「湊は?」

「僕は12位だったよ。10番以内目指してたんだけどね。」

「…なんか、これで喜んでる俺が惨めになるから辞めろ。」

得意科目である古文ではトップに近い点数が取れたものの、数学や物理が足を引っ張ってしまった。
僕の順位を聞いて不満げに口を尖らせる翔也に「クッキーありがとね。美味しかったよ。」お礼を返す。
たちまち戻った笑顔に不覚にも可愛いと思ってしまう。
このあいだの事をまだ気にしていたようで、ちゃんとお詫びがしたかったらしい。
好きな子からの手作りのお菓子まで貰って嬉しくない男がいるのだろうか。

「凪はどうだった?」

三人では最後に呼ばれた凪の点数は、入院明けとは信じられない程。
僕とは対照的に理系科目を得意とし、全体でも3位。

「医学部志望なんだってな。」

「今度、一緒に勉強会しねえ?数学教えてくれよ。」

「…俺でよければ。」

(…医学部、か)

クラスメイト達も褒め称えるが、本人がちやほやされ慣れていないせいで、しどろもどろな対応。
逆にその飾らない態度が好感を集めているのかもしれない。
将来やりたい事も決まっているようで、凪の調査書には有名国公立大学の名前がびっしりと連なっている。
何もビジョンが見えていない僕は、気づけば置いていかれていた。

「大人気だな、俺の家庭教師様は。」

「…家庭教師になった覚えはない。」

「凪先生!」と茶化されている凪は意外とまんざらでもなかったりする。
実際、広尾先生にも「東をこれからもよろしくな。」なんて、すっかりお墨付きを頂いていたし。

「てか、最近千歳と東って仲良いよな。」

「確かに。昨日も二人で帰ってたよね?」

(…二人で)

部活に所属している二人なら一緒に帰る事があっても不思議じゃない。
それに凪には本命の相手がいる。
何も起こるはずはないのに、心に陰りが差す。

「こいつが方面逆なのに、バス停まで送るって聞かなくて。」

「本当は寮まで付いていきてえけど。痴漢にあってないか心配だし。」

「千歳ってよく見ると可愛い顔してるし、ありそうだよな。」

「…いや、ねえから。」

翔也にとって僕は大勢の中の一人。
でも、周りから見たら凪は他の人とは違う。
三人で友達、それを最初に崩そうとしたのは僕だ。
二人の間に恋愛感情は存在しない、分かっているはずなのに辛くなるのは「一番」を取られたから。

「佐川君、この後用事ある?」

「…う、うん。大丈夫。」

女子に声をかけられても上の空。
何とか返事をして凪と翔也に「部活あるでしょ?また明日ね。」とチャイムと同時に教室を去る。

(…今日の僕、変だな)

嬉しくなったり、悲しくなったり。
恋とはどうして、こうも簡単に気持ちを振り回してしまうのだろうか。

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