君を知るということ

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第三者 another

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「凪の弁当って、自分で作ってんの?」

四限の後に与えられる昼休み、各々が机を寄せグループになる。
俺の昼食を覗き込む翔也の弁当箱には、食べ盛りの高校生らしく大盛りの白米と、母親が作るというおかずが敷き詰められていた。

「購買使うより安上がりなんだよ。」

生活費については児童相談所から援助を受けているが、節約するに越したことはない。
朝と夜は食堂で提供されるから、自分で用意するのは一食分だけ。
土日に作り置きしていた物とパックの白米を電子レンジで温めて詰める。
料理は嫌いじゃないし、一応学校にも購買のパンはあるが、月単位で考えるとこちらの方がコスパが良いのだ。

「湊は?」

「委員会で呼ばれてるらしい。さっき出てった。」

昼休み中は放送で呼び出されたり、招集をかけられたりすることも珍しくない。
委員会に所属している湊も例に漏れず、手早くパンを食べ終えるとすぐに行ってしまった。

(…渡すなら今か)

弁当箱を仕舞い、鞄の中から取り出すのは映画のチケット。
前に寮の先輩に「余ったからやるよ。」と貰ったはいいが既に龍一との先約があった。
期限はゴールデンウイーク最終日まで。
俺は期限内に行けそうにないし、二人で出かける口実でも作ってやろう。

「貰っていいのか?」

「湊誘って行ってこいよ。俺は先約あるから。」

「先約って、神崎さんと?」

「…そんなところだ。」

カタログギフトから二人で選んだ一泊二日の小旅行。
東京から特急で約二時間半、かの有名な群馬県の草津温泉。
スマホで検索をかけてみると古き良き温泉街の画像がずらりと並んだ。

「すげー日本って感じ。」

「感想がアバウト過ぎだろ。」

「お前は初めて日本に来た外国人か」と内心ツッコミを入れたくなる。
どこか懐かしさを覚える情緒溢れる街を見ると、何となく言いたいことは分かった。

「楽しみだろ?」

「…まあ」

「恥ずかしがらなくていいって。神崎さんも同じだと思うぜ。」

普段会える機会が少ないからこそ、気持ちが隠し切れず浮ついてしまう。
計画を立てる時、龍一が「俺が喜んでくれるならって、随分嬉しいことを言ってくれるな。」と優しい声で返すのだから。
「わくわくする」という感情を初めて理解した気がする。

「ただいま。」

「お疲れ。」

ガラガラと音が鳴り、教室のドアが開く。
会議を終えた湊が戻ってきたようだ。

「凪が映画のチケットくれてさ、一緒に行かね?」

翔也は意気揚々と近づきチケットを渡す。
受け取った湊は、真意を察したように俺に目配せをした。

「ありがとね。」

「…余っても仕方ないだろ。」

当の本人はデートに誘われた気でいるが、肝心な翔也は鈍感だ。
あいつが意識さえすれば、この二人がくっつくのにそう時間はかからなそうにも見えるが。

「上手くやれよ。」

「分かってる。凪も楽しんでね。」

浮かれているのはお互い様。
裏打ちされた秘密の作戦に、チャイムが昼休みの終了を告げた。




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