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take 2
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「餌やりやってみませんか?」
エスカレーターで二階に上がると、塩素特有の匂いが鼻を刺す。
中央にプールが置かれ、水槽による隔たりが無い。
列に従って歩いていると、清掃をしていた女性職員に声をかけられた。
「食いつき凄いな。」
「人懐っこくて、全然怖がらない。」
専用のカップに入った小魚がペンギンの餌だ。
尾びれを持ち上げて嘴に近づけると一瞬で無くなる。
「触ってみる?」と女性職員に提案され、翼と腹を撫でると嬉しそうに身体を震わせた。
硬い翼とは対照的に腹は羽毛なので柔らかい。
「…スライムみてえ。」
「よくそんなの触れるな。」
隣にあった「ふれあい広場」と宣伝されたスペースには、ヒトデやナマコをはじめとした棘皮動物が浅めのプールに展示されている。
目の前のナマコを持ち上げるとヌルっとした独特の感触。
隣を覗くと眉間に皺を寄せた龍一に気づく。
何故か頑なにプールに手を入れようとしない。
「ナマコって食べれるらしい。そこに書いてある。」
「…追い打ちをかけるな。」
テロップを指さすと龍一の表情が引きつる。
どうやら子供の頃に家族で海に行った時、大量のナマコを抱えた律さんに追い回されたことがトラウマとして根強く残っているらしい。
意外な苦手な物につい吹き出してしまう。
(確かに、律さんならやりそう。)
「ほら、次行くぞ。」
さっさと離れたいのか、龍一は半ばやけくそだ。
病院じゃ完璧だと、看護学生にもてはやされている彼の怖がる姿を知っているのが俺だけだと思うと、些か気分が良かった。
「祭でもやってんのか?」
「限定のイベントだって。」
移動した広場には、屋台のように区切られた出店が立ち並ぶ。
金魚すくいやヨーヨー釣り。さながら縁日のようだ。
俺達が向かった先は射的場。
射的といっても使うのはコルク弾ではなく、赤外線を利用したレーザーライフル。
銃から発信されたセンサーが的に当たるとポイントが入り、その合計に応じて景品が貰えるというシステムになっている。
(…当たらねえ)
銃身を固定しようとすると逆に照準が合わない。
四苦八苦している俺の様子を見た龍一が後方からのしかかる。
「手に力は入れなくていい。肩と脇でしっかり支えろ。」
「…分かった。」
言われた通りに構え直す。
的と発射口が一直線になったのを確認し、トリガーに指をかけた。
「上手いじゃん。コツを掴めば後は一緒だ。」
見事に命中したことを示すように、ランプが赤く光る。
俺が撃ち終わると龍一は慣れた様子で自分の分を準備し、「…見てろよ」と小さく呟いてから狙いを定めた。
(全弾命中!?)
次々と点灯するランプとモニターに表示されるポイント。
最後の一発を当てると「Perfect」と映る金色のエフェクト。
周囲の客からも続々と注目を集め、「すげー!」などと歓喜の声が上がる。
昔「サバゲー」とやらを趣味でやっていたらしく、狙撃には自信があるという。
「おめでとうございます!」と景品を受け取った龍一が手に抱えていたのは、70㎝ぐらいのぬいぐるみだった。
「今日の礼だ。貰ってくれ。」
「…ありがと。もちもちしてて、可愛い。」
マシュマロのような生地に、愛らしさを感じさせる瞳。
よく見るとさっきのペンギンにそっくりだ。
ぬいぐるみを抱き寄せるとシャッターチャンスを捉えた音が鳴る。
「確かに、可愛いな。」
「仕返し」とばかりに龍一は笑ってスマホをかざす。
カメラの方向は明らかに俺を指していた。
「ちょっと、消せよ。」
「俺しか見ねえよ。」
「そういう問題じゃない!」
スマホを奪い取ろうとしても、身長差のせいで出来ない。
結局、俺は龍一にからかわれっぱなしになってしまうのであった。
エスカレーターで二階に上がると、塩素特有の匂いが鼻を刺す。
中央にプールが置かれ、水槽による隔たりが無い。
列に従って歩いていると、清掃をしていた女性職員に声をかけられた。
「食いつき凄いな。」
「人懐っこくて、全然怖がらない。」
専用のカップに入った小魚がペンギンの餌だ。
尾びれを持ち上げて嘴に近づけると一瞬で無くなる。
「触ってみる?」と女性職員に提案され、翼と腹を撫でると嬉しそうに身体を震わせた。
硬い翼とは対照的に腹は羽毛なので柔らかい。
「…スライムみてえ。」
「よくそんなの触れるな。」
隣にあった「ふれあい広場」と宣伝されたスペースには、ヒトデやナマコをはじめとした棘皮動物が浅めのプールに展示されている。
目の前のナマコを持ち上げるとヌルっとした独特の感触。
隣を覗くと眉間に皺を寄せた龍一に気づく。
何故か頑なにプールに手を入れようとしない。
「ナマコって食べれるらしい。そこに書いてある。」
「…追い打ちをかけるな。」
テロップを指さすと龍一の表情が引きつる。
どうやら子供の頃に家族で海に行った時、大量のナマコを抱えた律さんに追い回されたことがトラウマとして根強く残っているらしい。
意外な苦手な物につい吹き出してしまう。
(確かに、律さんならやりそう。)
「ほら、次行くぞ。」
さっさと離れたいのか、龍一は半ばやけくそだ。
病院じゃ完璧だと、看護学生にもてはやされている彼の怖がる姿を知っているのが俺だけだと思うと、些か気分が良かった。
「祭でもやってんのか?」
「限定のイベントだって。」
移動した広場には、屋台のように区切られた出店が立ち並ぶ。
金魚すくいやヨーヨー釣り。さながら縁日のようだ。
俺達が向かった先は射的場。
射的といっても使うのはコルク弾ではなく、赤外線を利用したレーザーライフル。
銃から発信されたセンサーが的に当たるとポイントが入り、その合計に応じて景品が貰えるというシステムになっている。
(…当たらねえ)
銃身を固定しようとすると逆に照準が合わない。
四苦八苦している俺の様子を見た龍一が後方からのしかかる。
「手に力は入れなくていい。肩と脇でしっかり支えろ。」
「…分かった。」
言われた通りに構え直す。
的と発射口が一直線になったのを確認し、トリガーに指をかけた。
「上手いじゃん。コツを掴めば後は一緒だ。」
見事に命中したことを示すように、ランプが赤く光る。
俺が撃ち終わると龍一は慣れた様子で自分の分を準備し、「…見てろよ」と小さく呟いてから狙いを定めた。
(全弾命中!?)
次々と点灯するランプとモニターに表示されるポイント。
最後の一発を当てると「Perfect」と映る金色のエフェクト。
周囲の客からも続々と注目を集め、「すげー!」などと歓喜の声が上がる。
昔「サバゲー」とやらを趣味でやっていたらしく、狙撃には自信があるという。
「おめでとうございます!」と景品を受け取った龍一が手に抱えていたのは、70㎝ぐらいのぬいぐるみだった。
「今日の礼だ。貰ってくれ。」
「…ありがと。もちもちしてて、可愛い。」
マシュマロのような生地に、愛らしさを感じさせる瞳。
よく見るとさっきのペンギンにそっくりだ。
ぬいぐるみを抱き寄せるとシャッターチャンスを捉えた音が鳴る。
「確かに、可愛いな。」
「仕返し」とばかりに龍一は笑ってスマホをかざす。
カメラの方向は明らかに俺を指していた。
「ちょっと、消せよ。」
「俺しか見ねえよ。」
「そういう問題じゃない!」
スマホを奪い取ろうとしても、身長差のせいで出来ない。
結局、俺は龍一にからかわれっぱなしになってしまうのであった。
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