君を知るということ

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運命

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心地よい風が頬を掠め、目を覚ます。
柔らかい水色の空に、綿菓子のような雲。
ここが夢の中であると理解するのにそう時間はかからなかった。

「気がついたか?」

差し伸べられた手を掴むと寝そべっていた身体を起こされる。
俺をこの空間に呼び出した張本人、溌剌とした表情には確かな見覚えがあった。

(…この人が、律さん)

神崎先生の親友であり、10年前にこの世を去った。
話に聞いた通りの優しそうな人だ。

「俺のこと知ってる?」

「律さんで間違いないですよね。」

「年下だし、堅苦しいのはなしな。俺もタメでいい?」

神崎先生とまではいかないが背は高く、年下とは到底思えない。
敬語で話されても違和感がありそうだし、お互いタメ語で構わないと承諾した。

「龍一のことをよろしくって、伝えにきたんだ。」

「…俺に?」

幼馴染の親友が知り合って数ヶ月の俺に頼んでいいことなのか。
疑問は浮かぶが、いつ覚めてしまうかも分からないからとりあえず耳を傾ける。

「龍一はよく言えば弱みを見せない、悪く言えば一人よがりなんだ。…俺が居なくなったことに勝手に責任を感じてる。」

「本当は楽にさせてやりたかった。虐められる俺は龍一には必要ないって思い込んでた。」と律さんは話す。
自分は死んだ方がいいというのは建前で、本当は己の存在を肯定してほしかった。
望まれて生きたかった。

かつての俺と重なっていく過去、二人の間で共鳴する。

「君はちゃんと逃げれた。そして、龍一に生きる意味をくれた。」

俺があの人の生きる意味。
承認欲求に近い感情、どんな言葉よりも自尊心を満たしてくれる。

「…俺は、何もしてない。」

「謙遜するなよ。それとも、ツンデレってやつか?」

真剣な雰囲気が一瞬で打ち壊された。
茶化すように吹き出す律さんは、周りの同級生と大差ない。


「冗談はこのぐらいで、さっきの続き。」

俺への頼みは二つ。
いつも通りにこれからも接すること。
近いうちにあるという「大事な話」を聞くこと。

「大事な話?」

「俺から言えるのはそれだけ。龍一が自分から言わないと意味がねえからな。」

何故、未来を知っているのか。
そもそも故人と対話が出来ている時点でおかしいのだが、夢に一々理屈で考えたところで時間を無駄に浪費するだけなので辞めておこう。

「君と龍一って運命って感じがする。」

『運命』人間の意志に関係なくやってくる巡り。
また、それらを与える力を指す。
天の導き、どちらかといえば天界の方の人間である律さんが会わせた訳ではないらしい。
呪いたい人生に降りかざされた奇跡、最早「ありえない」の一言では言い表せる代物ではなかった。

「やっぱ君に頼んでよかった。」

現実に戻される時が来たか。
感謝を告げる律さんに「俺も会えてよかった」と返す。

「最後に教えとく。このあいだ、バレンタインだったろ?」

突然の話題変更に思考が停止しかける。

「龍一さ、本命チョコは全部断ってたんだ。彼女もいないのに。この意味分かるか?」

首を傾げた俺に「答え合わせは現実リアルでな」と残して律さんは消えてしまった。








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