33 / 88
相思相愛
しおりを挟む
「分かった。俺の方でも調べとくな。」
タブレットの画面向こう側には担任の広尾先生がいる。
前に送った調査書を基にして、オンラインで進路相談を兼ねた二者面談の最中だ。
「ありがとうございます。」
「医学部なんて立派な目標だな。俺も出来るだけのサポートはするから頼りにしろよ。」
とんとん拍子に面談は進み、寮から通いやすい大学や返済不要の奨学金まで紹介してもらった。
具体的な目標が定まるとモチベーションが高まる気がする。
「面談終わった?」
「さっきな。大学について話してきた。」
自習用にパーテンションで区切られたスペースから、四人掛けの座席に戻る。
葵は百科事典を開き、天体の写真を眺めていた。
『彗星』本体の大きさが数㎞から数十㎞ぐらいの小さな天体。
その成分は約八割が氷。他二割が二酸化炭素などのガス類。
地球で観測されたばかりの頃は厄災、不吉の象徴と捉えられ、1910年の『ハレー彗星』で酸素がなくなるとデマが広がったのは有名な話の一つだ。
「来週、晴れるって亅
「よかった。後は雲がなければいいけど。亅
降水確率からして雨は降らない予報だと伝えると、葵はほっとした様子で本の写真へと目線を下ろした。
青白い尾をまとい、弧を描く天体。今回観測できる星が次に見られるのは、5万年後と言われている。
人類の寿命からすれば途方もない数字だが、億単位の歴史を持つ宇宙の視点から考えれば一瞬と同義なのだろう。
最近、神崎先生が何かに思い詰めた顔をしているのを良く見かける。
気晴らしにでもなればと誘ったところ、二つ返事で了承が得られた。
「初めてだな。凪から誘ってくれたの。」
受け身でしか物事に向き合ってこなかった俺が、自分で考えて行動した。
背中を押してくれたのも全部あの人のおかげだ。
「こういうのをそーしそーあいって言うんだよね?」
「…は?」
小学生特有の覚えたての言葉、発音が微妙だったけど確かに相思相愛と聞き取れた。
「龍一先生が断る訳ないじゃん。」
相思相愛を辞書で引くと「男女が仲睦まじい様子」を指す。
お互いが慕い合い愛し合うという意味がある。
一方的な片想いが恋であるなら、両想いが愛なのか。
職員の人が「どうぞ」とおやつを持って来てくれた。
鈴カステラを口に運ぶ。ふわふわとした食感とカステラ特有の卵の風味。
「一応言っとくけど、相思相愛はあくまで男女の話だからな。」
「好きならそれでもいいじゃん。」
あっけらかんとした口調で正論を否定した。
子供は時に大人よりも鋭く物を言う。
純粋だからこそ見える世界があるのだろう。
「楽しみにしてる。」
脳内でくり返しされる声。
悩みの原因が分からなくとも何か力になりたかった。
「雨、止んだ?」
窓の外に目を向ける。
厚い雲の隙間を縫うように日の光がそっと差し込んでいる。
心の中までもが洗われた気分だ。
彗星という名の口実
交錯する想いがやがで明らかとなる。
タブレットの画面向こう側には担任の広尾先生がいる。
前に送った調査書を基にして、オンラインで進路相談を兼ねた二者面談の最中だ。
「ありがとうございます。」
「医学部なんて立派な目標だな。俺も出来るだけのサポートはするから頼りにしろよ。」
とんとん拍子に面談は進み、寮から通いやすい大学や返済不要の奨学金まで紹介してもらった。
具体的な目標が定まるとモチベーションが高まる気がする。
「面談終わった?」
「さっきな。大学について話してきた。」
自習用にパーテンションで区切られたスペースから、四人掛けの座席に戻る。
葵は百科事典を開き、天体の写真を眺めていた。
『彗星』本体の大きさが数㎞から数十㎞ぐらいの小さな天体。
その成分は約八割が氷。他二割が二酸化炭素などのガス類。
地球で観測されたばかりの頃は厄災、不吉の象徴と捉えられ、1910年の『ハレー彗星』で酸素がなくなるとデマが広がったのは有名な話の一つだ。
「来週、晴れるって亅
「よかった。後は雲がなければいいけど。亅
降水確率からして雨は降らない予報だと伝えると、葵はほっとした様子で本の写真へと目線を下ろした。
青白い尾をまとい、弧を描く天体。今回観測できる星が次に見られるのは、5万年後と言われている。
人類の寿命からすれば途方もない数字だが、億単位の歴史を持つ宇宙の視点から考えれば一瞬と同義なのだろう。
最近、神崎先生が何かに思い詰めた顔をしているのを良く見かける。
気晴らしにでもなればと誘ったところ、二つ返事で了承が得られた。
「初めてだな。凪から誘ってくれたの。」
受け身でしか物事に向き合ってこなかった俺が、自分で考えて行動した。
背中を押してくれたのも全部あの人のおかげだ。
「こういうのをそーしそーあいって言うんだよね?」
「…は?」
小学生特有の覚えたての言葉、発音が微妙だったけど確かに相思相愛と聞き取れた。
「龍一先生が断る訳ないじゃん。」
相思相愛を辞書で引くと「男女が仲睦まじい様子」を指す。
お互いが慕い合い愛し合うという意味がある。
一方的な片想いが恋であるなら、両想いが愛なのか。
職員の人が「どうぞ」とおやつを持って来てくれた。
鈴カステラを口に運ぶ。ふわふわとした食感とカステラ特有の卵の風味。
「一応言っとくけど、相思相愛はあくまで男女の話だからな。」
「好きならそれでもいいじゃん。」
あっけらかんとした口調で正論を否定した。
子供は時に大人よりも鋭く物を言う。
純粋だからこそ見える世界があるのだろう。
「楽しみにしてる。」
脳内でくり返しされる声。
悩みの原因が分からなくとも何か力になりたかった。
「雨、止んだ?」
窓の外に目を向ける。
厚い雲の隙間を縫うように日の光がそっと差し込んでいる。
心の中までもが洗われた気分だ。
彗星という名の口実
交錯する想いがやがで明らかとなる。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
ご飯中トイレに行ってはいけないと厳しく躾けられた中学生
こじらせた処女
BL
志之(しの)は小さい頃、同じ園の友達の家でお漏らしをしてしまった。その出来事をきっかけに元々神経質な母の教育が常軌を逸して厳しくなってしまった。
特に、トイレに関するルールの中に、「ご飯中はトイレに行ってはいけない」というものがあった。端から見るとその異常さにはすぐに気づくのだが、その教育を半ば洗脳のような形で受けていた志之は、その異常さには気づかないまま、中学生になってしまった。
そんなある日、母方の祖母が病気をしてしまい、母は介護に向かわなくてはならなくなってしまう。父は単身赴任でおらず、その間未成年1人にするのは良くない。そう思った母親は就活も済ませ、暇になった大学生の兄、志貴(しき)を下宿先から呼び戻し、一緒に同居させる運びとなった。
志貴は高校生の時から寮生活を送っていたため、志之と兄弟関係にありながらも、長く一緒には居ない。そのため、2人の間にはどこかよそよそしさがあった。
同居生活が始まった、とある夕食中、志之はトイレを済ませるのを忘れたことに気がついて…?
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる