君を知るということ

レコード

文字の大きさ
上 下
22 / 88

思い出作り

しおりを挟む
「大分回復してきたね。遅くとも春には学校に復帰できるよ。」

診察室、レントゲンで撮影された画像を指差しながら主治医は俺にそう告げた。
モノクロの画面には治りかけのひびが写っている。
骨折がくっつくまでには部位にもよるが平均して4~6週間、完全に癒合するには2,3ヶ月かかるらしい。

「あの、退院したら俺はどうなりますか?」

祖父母は既に他界しているし、親戚とも禄に顔を合わせたこともない。
一人暮らしするにしても金銭面に生活設計、やることは山積みだ。
アルバイトだって探す必要があるだろうし、そうなれば定時制への転校も考えなければいけないだろうか。

「今後については、また児童相談所の方と相談になるけど、高校生の一人暮らしは経済的にも安全的にもお勧めしないよ。神崎君だって反対するだろうしね。」

「神崎先生が?」

「彼にとって、凪君はもう放っておけない存在なんだよ。
君はまだ子供だ。こういう時ぐらい大人に任せておきなさい。」

(…早く大人になりたてえな)

今はまだ一人では生きられないこと、それはこの入院生活で痛いほど実感しているはずだ。
自分の幼さがもどかしくてたまらない。



「お前、自分の写真は撮らないのか?」

診察が終わって、数日前にプレゼントとして貰ったカメラで撮った写真を神崎先生と一緒に眺める。
空や鳥、部屋の外から見える景色に院内学級の子供達。カメラを構えるといつもの景色がより鮮明に見える気がして、つい夢中になってしまい枚数はトータルで100枚ぐらいあった。
元々、性に合っていたのか先生は俺の趣向をよく理解していると思う。

「あんまり、自撮りとかしたことなくて。」

教室の端で女子のグループが加工アプリを使って自撮りしているのは見たことがあるが、俺は映えるような顔じゃないから撮っても別に面白くもないのだが。

「最初の一枚、一緒に撮るか。」

デジカメを内側のモードに切り替えて小さな画面に二人分の顔が入る。
黒一色のボディに付いているボタンを押すとぼやけていたピントが合った。

「表情硬いぞ。もっと笑えよ。」

意識的に口角を上げようとすれば逆にそれが仇になってしまう。
表情筋が硬いのは先生と触れ合っているせいもあるだろう。

(…こう、近くで見ると結構かっこいいな)

邪な思考を振りほどくように画面に集中する。
ファインダーが降り、カシャっと心地良い音が鳴った。

「今度、印刷しといてやるよ。これだけあればアルバムも作れそうだな。」

主治医の言葉が本当なら先生にとって俺は『特別』になれるのだろうか。

満足そうに写真を見る彼の横顔。

この先のことはまだ分からない。
だけど、今までの人生の分まで思い出が出来る気がする。

俺はそう確かめるようカメラを軽く握りしめた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒鳴り声が怖くて学校から帰ってしまった男子高校生

こじらせた処女
BL
過去の虐待のトラウマから、怒鳴られると動悸がしてしまう子が過呼吸を起こす話

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

ご飯中トイレに行ってはいけないと厳しく躾けられた中学生

こじらせた処女
BL
 志之(しの)は小さい頃、同じ園の友達の家でお漏らしをしてしまった。その出来事をきっかけに元々神経質な母の教育が常軌を逸して厳しくなってしまった。  特に、トイレに関するルールの中に、「ご飯中はトイレに行ってはいけない」というものがあった。端から見るとその異常さにはすぐに気づくのだが、その教育を半ば洗脳のような形で受けていた志之は、その異常さには気づかないまま、中学生になってしまった。  そんなある日、母方の祖母が病気をしてしまい、母は介護に向かわなくてはならなくなってしまう。父は単身赴任でおらず、その間未成年1人にするのは良くない。そう思った母親は就活も済ませ、暇になった大学生の兄、志貴(しき)を下宿先から呼び戻し、一緒に同居させる運びとなった。 志貴は高校生の時から寮生活を送っていたため、志之と兄弟関係にありながらも、長く一緒には居ない。そのため、2人の間にはどこかよそよそしさがあった。 同居生活が始まった、とある夕食中、志之はトイレを済ませるのを忘れたことに気がついて…?

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

笑って誤魔化してるうちに溜め込んでしまう人

こじらせた処女
BL
颯(はやて)(27)×榊(さかき)(24) おねしょが治らない榊の余裕が無くなっていく話。

処理中です...