君を知るということ

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あの人がいない日

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ギプスの上から器具でしっかりと固定された右脚。
杖を腕で挟み、脇を圧迫しないように指が2、3本入るぐらいの隙間を空ける。
足は前に出しすぎず、杖は身体から15センチ離す。頭では解っていても実際に動かすのは難しい。

思ってた以上に体力が衰えているためかバランスを保つだけでも神経を使う。
ふらつく上半身を支えようと手首に力を込めたが、耐え切れずに倒れてしまった。

「大丈夫?」

「…はい」

父親に殴られた痛みに比べればこのぐらい全然平気だ。
立ち上がって再び足を前へと運びだす。

とある日曜の昼下がり。俺はリハビリルームにて理学療法士の指導のもと松葉杖を使った歩行訓練を受けていた。

1時間半程の練習で基本的な動作と手すりを使った移動は出来るようになったが、速度はかなり遅く段差のある道を歩けるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

「今日はここまでにしようか。お疲れさま。」

「ありがとうございました。」

訓練が終わってしまえば今日はもう特にやることはない。
院内学級も日曜はなく、部屋からも出られないだろう。


「さっき担任の先生から連絡があったの。そしたら、顔を見て少しお話がしたいって。」

部屋に戻って健康チェックの途中、いつも違い看護士がタブレット端末を持ってきていることに気づいた。
テレビ電話を起動し、背景には見慣れた職員室が映る。

「久しぶりだな、千歳。」

声の主は紛れもなく広尾先生だ。

「…最初に謝らせてくれ。俺がもっと早く気づければ良かったのに。」

謝る必要などない。広尾先生が警察に通報してくれたからこそ今の俺がいる。

「…俺は感謝しています。院内学級の手続きや単位の履修、全部先生がやってくれたと聞きました。
俺が学校に戻れるように。」

「良くなってるみたいで安心した。佐川と東もお前に会いたがってたからな。面会できんのはいつだって。」

入院して以来翔也と湊とは(携帯が家にある以上、仕方ないのだが)一切の連絡を取っていなかった。
苦笑しながらも「今はゆっくり休めよ。俺も千歳が戻って来るの待ってるからな。」と先生は言った。

通話が終わると看護士はタブレットを持って退出する。


(…今日は神崎先生も休みだっけ)

一人きりになった302号室は驚くほど静かだ。

熱を出して魘された時も、一緒に食事をしている時も神崎先生は傍にいてくれて、それが段々当たり前かのようになっていた。

(寂しい、…それとも)

今日だってリハビリもしてさっきまでは電話していたし、一人で過ごしていた訳でもない。

たった一晩だけ、明日になればまた会える。

(なのに、何で)

心にちらつく霧のようなざわめき、それを鎮めるがごとく俺はベットのスプリングに身を投げ出した。











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