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Final Chapter 傲慢の人
第71話 最終決戦開幕
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「はぁ!?」
黒時の発した言葉に、栄作は素っ頓狂な声を上げた。悪魔が人間。その発言は、栄作でなかろうと、気の抜けた声を上げるしかなかっただろう。
だがしかし、だからと言って黒時が間違っているというわけではなかった。黒時は極めて冷静に、この世界の真実を見抜き、暴いていたのである。
「く、黒時、さすがにそれは間違ってる――」
『否』
栄作の言葉を遮るように、ルシファーが言を発する。
『汝の言う通りである。だが、明確には人間ではない。我等は、人間の中身が収束されて出来た存在だ』
「中身ってのは、魂、みたいなものか?」
『その解釈は受け取り手の自由だろう』
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 魂が集まったのがお前らなら、他の人たちは死
んでるってことか?」
『否。死んではいない。ただ、気付いておらぬだけだ。己の魂が、別の魂と混ざり合い形を成していることにな。己の視点でしか世界が見えておらぬ者には、【真の世界】が見えておらぬのだ」
「選ばれた俺たちだけ、別の視点で世界が見えているってことか」
己の視点でのみ見た世界では、神の視点から見る世界など見えるはずがなかった。
世界に生きる全ての人間が、本当の世界を知らず、黒に染まった世界を知らず、【真の世界】を知らなかった。
「神はどうして、この世界を俺たちに見せたんだ?」
選ばれた人間だけが、神の視点を得ることができた。
黒時以外は、直接的に選ばれたわけではないのだろうけれど、ならば、何故黒時は選ばれたのか。
神は何故、新たな世界の創造を人間に託したのか、黒時は納得できなかった。世界を新しく変えたいのなら、自分で変えてしまえば済む話なのである。
わざわざ汚れた原因である人間を選んで、黒く濁った【真の世界】を見せる必要などないはずなのだ。
『知らぬ。言ったであろう、我もまた汝等と同様に神の掌の上の存在であると。我はただ、人間の集合体として、汝等と闘うまで』
「闘って、どうする?」
『知る必要などない』
「…………」
黒時は解っていた。人間の集合体である悪魔、その正体が。神が何故、悪魔という存在と自分たちを闘わせるのか。
黒時は理解して、思った。なるほどどうやら、やはり悪魔的な存在はこちらサイドであったのだ、と。世界を破滅させる魔王は自分たちなのだ、と。
悪魔が世界を救う勇者。
なんとも面白い話である。どうせなら、自分も勇者役をやってみたいものだ、と黒時は思った。
しかし、もう遅い。もう、止まれない。六体の勇者を殺し、残る勇者は一体となった。
最後の一体を殺し、そして――魔王になる。世界を破滅させ、新たな世界を描く魔王になる。
「…………」
――けれど。
黒時には新たな世界など、最早どうでもよかった。別に描けなくても、世界があるならそれでいいと思っていた。
だから。
だからもし、描きたい世界がある者がいるのなら、それを描いてみてもいいと、黒時はそう思っていた。
黒時は、いまだ泣き崩れている一人の少女にゆっくりと歩み寄り、声をかける。
「彩香、最後の闘いだ。手伝ってくれ」
「ひっ、、ぐす、、いやぁ、もう、いや、また死んじゃう、皆死んじゃう、彩香も死んじゃう、、闘いたくないよぉ――!!」
手で顔を覆い、泣き叫ぶ彩香。黒時はそんな彼女の頭にそっと優しく手を置いた。
「皆、生き返る」
「え?」
鳴き声が止み、崩れた少女の顔が少年を見上げる。
「妬美も、駄紋も、瑠野も、怜奈も、ついでに怒髪も、皆、生き返る。生き返らせることができる。あいつを殺せば、できるんだ」
「…………」
「彩香、俺を信じてくれ」
新たな世界を描く。
それはつまり、換言すれば、自分の思い通りの世界を創れるということである。既に黒時は自分の描く世界など捨て去りどうでもよくなっていた。
だったら、死んだ皆を生き返らせて、もとの世界を創る。それでもいい、と黒時は思った。仲間が死んだことで泣き崩れる少女がいるのなら、新たな世界は、なにも変わらない世界でもいいではないか、とそう思ったのだ。
「……黒時、先輩」
少女の目に、再び力が宿っていく。頭を覆う大きな手と優しい声によって心は癒され、頼もしい言葉に勇気づけられていく。
そしてなにより、灰ヶ原黒時という存在感、それが何者にも代えることができない安堵感を彼女の中に与えていた。
「よーし、黒時先輩、さっさとあいつを殺しちゃいましょう! そして、皆を生き返らせるんです!」
勢いよく立ち上がり、彩香は右の拳を握り締めながら意気込んだ。彼女のそんな姿に、黒時も力づけられる。
「栄作!」
「おうよ!」
残された一体の悪魔。残された三人の人間。
対峙する巨大な一体と、矮小な三人。
最後の闘いが――始まった。
黒時の発した言葉に、栄作は素っ頓狂な声を上げた。悪魔が人間。その発言は、栄作でなかろうと、気の抜けた声を上げるしかなかっただろう。
だがしかし、だからと言って黒時が間違っているというわけではなかった。黒時は極めて冷静に、この世界の真実を見抜き、暴いていたのである。
「く、黒時、さすがにそれは間違ってる――」
『否』
栄作の言葉を遮るように、ルシファーが言を発する。
『汝の言う通りである。だが、明確には人間ではない。我等は、人間の中身が収束されて出来た存在だ』
「中身ってのは、魂、みたいなものか?」
『その解釈は受け取り手の自由だろう』
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 魂が集まったのがお前らなら、他の人たちは死
んでるってことか?」
『否。死んではいない。ただ、気付いておらぬだけだ。己の魂が、別の魂と混ざり合い形を成していることにな。己の視点でしか世界が見えておらぬ者には、【真の世界】が見えておらぬのだ」
「選ばれた俺たちだけ、別の視点で世界が見えているってことか」
己の視点でのみ見た世界では、神の視点から見る世界など見えるはずがなかった。
世界に生きる全ての人間が、本当の世界を知らず、黒に染まった世界を知らず、【真の世界】を知らなかった。
「神はどうして、この世界を俺たちに見せたんだ?」
選ばれた人間だけが、神の視点を得ることができた。
黒時以外は、直接的に選ばれたわけではないのだろうけれど、ならば、何故黒時は選ばれたのか。
神は何故、新たな世界の創造を人間に託したのか、黒時は納得できなかった。世界を新しく変えたいのなら、自分で変えてしまえば済む話なのである。
わざわざ汚れた原因である人間を選んで、黒く濁った【真の世界】を見せる必要などないはずなのだ。
『知らぬ。言ったであろう、我もまた汝等と同様に神の掌の上の存在であると。我はただ、人間の集合体として、汝等と闘うまで』
「闘って、どうする?」
『知る必要などない』
「…………」
黒時は解っていた。人間の集合体である悪魔、その正体が。神が何故、悪魔という存在と自分たちを闘わせるのか。
黒時は理解して、思った。なるほどどうやら、やはり悪魔的な存在はこちらサイドであったのだ、と。世界を破滅させる魔王は自分たちなのだ、と。
悪魔が世界を救う勇者。
なんとも面白い話である。どうせなら、自分も勇者役をやってみたいものだ、と黒時は思った。
しかし、もう遅い。もう、止まれない。六体の勇者を殺し、残る勇者は一体となった。
最後の一体を殺し、そして――魔王になる。世界を破滅させ、新たな世界を描く魔王になる。
「…………」
――けれど。
黒時には新たな世界など、最早どうでもよかった。別に描けなくても、世界があるならそれでいいと思っていた。
だから。
だからもし、描きたい世界がある者がいるのなら、それを描いてみてもいいと、黒時はそう思っていた。
黒時は、いまだ泣き崩れている一人の少女にゆっくりと歩み寄り、声をかける。
「彩香、最後の闘いだ。手伝ってくれ」
「ひっ、、ぐす、、いやぁ、もう、いや、また死んじゃう、皆死んじゃう、彩香も死んじゃう、、闘いたくないよぉ――!!」
手で顔を覆い、泣き叫ぶ彩香。黒時はそんな彼女の頭にそっと優しく手を置いた。
「皆、生き返る」
「え?」
鳴き声が止み、崩れた少女の顔が少年を見上げる。
「妬美も、駄紋も、瑠野も、怜奈も、ついでに怒髪も、皆、生き返る。生き返らせることができる。あいつを殺せば、できるんだ」
「…………」
「彩香、俺を信じてくれ」
新たな世界を描く。
それはつまり、換言すれば、自分の思い通りの世界を創れるということである。既に黒時は自分の描く世界など捨て去りどうでもよくなっていた。
だったら、死んだ皆を生き返らせて、もとの世界を創る。それでもいい、と黒時は思った。仲間が死んだことで泣き崩れる少女がいるのなら、新たな世界は、なにも変わらない世界でもいいではないか、とそう思ったのだ。
「……黒時、先輩」
少女の目に、再び力が宿っていく。頭を覆う大きな手と優しい声によって心は癒され、頼もしい言葉に勇気づけられていく。
そしてなにより、灰ヶ原黒時という存在感、それが何者にも代えることができない安堵感を彼女の中に与えていた。
「よーし、黒時先輩、さっさとあいつを殺しちゃいましょう! そして、皆を生き返らせるんです!」
勢いよく立ち上がり、彩香は右の拳を握り締めながら意気込んだ。彼女のそんな姿に、黒時も力づけられる。
「栄作!」
「おうよ!」
残された一体の悪魔。残された三人の人間。
対峙する巨大な一体と、矮小な三人。
最後の闘いが――始まった。
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