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Chapter6 憤怒の髪
第65話 怒髪天突
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怒髪天突。
彼は短気である。
なんて言うと、彼を知る人間は一斉に首を傾げることだろう。
怒りっぽい、という面では確かに短気であると言えるのだろうけれど、彼の場合、短い、ではいまいちしっくりこないのだ。
短いよりも短い。言うなれば、刹那。
何かを感じた瞬間に怒り、怒った瞬間にそれは外界へと噴出される。それが、彼の常なのだ。通常なのだ。
ゆえに、怒髪天突が怒っていない状態を、誰も知らないのである。
しかし、なにも産まれたときからそうであったわけではない。
産声は怒号なんかではなく、普通の赤ん坊と同じであったし、幼少期はよく笑う子供でもあった。
そんな彼が己の本質に気付き、それに寄り添って生きるようになったのは、中学一年生の頃からだった。
中学に入学した怒髪天突。
半年が過ぎた頃、彼は――いじめられていた。
机は彫刻刀で傷つけられ、靴箱には生ゴミが毎日入れてあったし、挙句の果てには、配られた給食の中に大量の虫が混入されていたこともあった。
誰かに声をかけても逃げられ、学校では常に一人で行動していたのだが、協調性がない、という理由で教師から指導を受けたこともあった。
味方が一人もいない学校生活、そんな地獄のような日々を彼は二年間過ごした。
そして、耐え切れなくなったその瞬間、己の本質である憤怒に気付いたのである。
ふつふつと沸き立つ怒り、それは、怒髪天突の身体を覆いつくして、彼に二度目の産声を上げさせた。
その後、怒髪は気付けばパトカーの中にいた。
後部座席に座り、両端に屈強な警察官二人が自分を抑えつけるようにして座っていた。
本人は後で知ったことだが、己の本質に気付いた怒髪は、教師や生徒、男や女など関係なく、その時校内にいた人間、三百人を半殺しにしたのである。
詳細は分からないが、報道によれば一人の男が、一人ずつ、まるで罰を与えるかのように、拳で顔面を殴りつけていった、とのことだった。
パトカーで連行されていた怒髪は、なにが起きているのか理解できてはいなかったが、それでもおとなしくすることなどなく、車両内でも怒りに身を任せ暴れた。
結果、パトカーは激しい蛇行運転の後、横転。
その隙をついて怒髪は逃げ出し、街の中に消えて行った。
それから五年。
幾度となく暴れ続けていた怒髪も、疲れを感じていた。
もう死んでしまおうか、そんなことを考えてしまうほどに衰弱しきっていた。
しかし。
彼は見た。見てしまった。
ある日、たまたま街を歩いていると、街頭テレビが視界に入った。
普段ならば気にもせず、そのまま通り過ぎていたのだが、その日だけは違い、彼はつい足を止めた。
そこに映っていたのは――自分の両親だった。
実家を背景にして父親と母親が二人並び、イタンビューを受けていた。
内容は、【指名手配犯の息子について】というものだった。なんてことを聞いているのだ、と怒りを感じながらも、怒髪は両親の言葉を待った。
そして両親が放った言葉は――
「あの子、まだ生きてるんですか?」
だった。
それ以後、怒髪は疲れを感じることなどなくなり、怒り続けていられるようになった。
彼は短気である。
なんて言うと、彼を知る人間は一斉に首を傾げることだろう。
怒りっぽい、という面では確かに短気であると言えるのだろうけれど、彼の場合、短い、ではいまいちしっくりこないのだ。
短いよりも短い。言うなれば、刹那。
何かを感じた瞬間に怒り、怒った瞬間にそれは外界へと噴出される。それが、彼の常なのだ。通常なのだ。
ゆえに、怒髪天突が怒っていない状態を、誰も知らないのである。
しかし、なにも産まれたときからそうであったわけではない。
産声は怒号なんかではなく、普通の赤ん坊と同じであったし、幼少期はよく笑う子供でもあった。
そんな彼が己の本質に気付き、それに寄り添って生きるようになったのは、中学一年生の頃からだった。
中学に入学した怒髪天突。
半年が過ぎた頃、彼は――いじめられていた。
机は彫刻刀で傷つけられ、靴箱には生ゴミが毎日入れてあったし、挙句の果てには、配られた給食の中に大量の虫が混入されていたこともあった。
誰かに声をかけても逃げられ、学校では常に一人で行動していたのだが、協調性がない、という理由で教師から指導を受けたこともあった。
味方が一人もいない学校生活、そんな地獄のような日々を彼は二年間過ごした。
そして、耐え切れなくなったその瞬間、己の本質である憤怒に気付いたのである。
ふつふつと沸き立つ怒り、それは、怒髪天突の身体を覆いつくして、彼に二度目の産声を上げさせた。
その後、怒髪は気付けばパトカーの中にいた。
後部座席に座り、両端に屈強な警察官二人が自分を抑えつけるようにして座っていた。
本人は後で知ったことだが、己の本質に気付いた怒髪は、教師や生徒、男や女など関係なく、その時校内にいた人間、三百人を半殺しにしたのである。
詳細は分からないが、報道によれば一人の男が、一人ずつ、まるで罰を与えるかのように、拳で顔面を殴りつけていった、とのことだった。
パトカーで連行されていた怒髪は、なにが起きているのか理解できてはいなかったが、それでもおとなしくすることなどなく、車両内でも怒りに身を任せ暴れた。
結果、パトカーは激しい蛇行運転の後、横転。
その隙をついて怒髪は逃げ出し、街の中に消えて行った。
それから五年。
幾度となく暴れ続けていた怒髪も、疲れを感じていた。
もう死んでしまおうか、そんなことを考えてしまうほどに衰弱しきっていた。
しかし。
彼は見た。見てしまった。
ある日、たまたま街を歩いていると、街頭テレビが視界に入った。
普段ならば気にもせず、そのまま通り過ぎていたのだが、その日だけは違い、彼はつい足を止めた。
そこに映っていたのは――自分の両親だった。
実家を背景にして父親と母親が二人並び、イタンビューを受けていた。
内容は、【指名手配犯の息子について】というものだった。なんてことを聞いているのだ、と怒りを感じながらも、怒髪は両親の言葉を待った。
そして両親が放った言葉は――
「あの子、まだ生きてるんですか?」
だった。
それ以後、怒髪は疲れを感じることなどなくなり、怒り続けていられるようになった。
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