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Chapter4 怠惰の脚
第49話 怠気瑠野
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怠気瑠野。
彼女は、二十二年間生きてきて、一度も何かを成し遂げたことがない。
いや、これでは語弊がある。
まるでことを行ったがやり遂げれなかったように聞こえてしまったが、実際はそうではなく、【何かをする】という段階すら彼女は乗り越えることができなかった。
動きたくない。
常にこの重い思いが瑠野の頭の中を満たしていた。充満している。
しかしながら、動きたくないから動かなくていいということが通じるほど世の中は甘くはない。
したくなくてもやらなくてはならないこともあるし、疲れ切っていても動き続けなければならないこともある。怠け続けることなどできやしないのが世の中だ――が。
怠気瑠野は違った。
根本的に違った。
彼女の場合、したくないことはしたくないことで、イコールやらなくていいことなのだった。
社会の中に生きる人間の定義から外れていた。
人間の社会の中で生きようとするから怠けることができないのだということを、彼女は本能的に理解していたのだ。
だから社会からはみだし、その外で生きることにした。
外にいれば働かなくてもいいし、面倒な人付き合いもしなくていい。腹が減れば適当にコンビニなどから食べ物を取って来て食べればいい。
たまに小奇麗な格好をした中年が近寄ってきて、ベッドの上で寝ているだけでお金をくれるので、もしも金が入用になっても困らない。
好きなことだけをして、嫌なことはやらない。
だらけて怠けて思うがままに――。
世界が変貌した後も彼女のそのスタンスは変わらなかった。
突然空が暗くなり、辺りには黒い人影が出現し、当惑したもののなんだか関わると面倒な感じがしたので、丁度近くにあった国際ホテルで寝転がることにした。
目が覚めたら元の世界に戻っているだろうか、なんてことは一切考えず、ただ眠たかったから寝た。
そしていくらか時が過ぎて部屋が揺れるほどの轟音に気付いた瑠野はエレベーターを降り、黒時たちと出会ったのである。
ここから先は、瑠野にとっても意外だった。
はみだし者だった自分、社会の外にいた自分が、この世界の中心、いわばこの世界における唯一の社会とも言える黒時たちの枠の中に入ることとなったのだ。
実際には申請があったわけでもないし、自分もそれを承諾した覚えもないのだが、なんだか流れによってそうなっていた。
流れに逆らうことも出来たのだろうが、やはりなによりも彼女が優先すべき事項は動かないということである。
たまに流されても戻ることはなく、その場で座り続ける。
それが彼女の基本の姿勢だ。
基本であって、だからこそ崩すべきものではなかった。立ち上がり、流れに身を任せるべきではなかった。
たった一人の少女のせいで。
星井彩香という存在のせいで、瑠野の重い想いは崩されたのだ。
久しぶりだった。あんなに大声をあげたのは。久しぶりだった。あんなに怒ったのは。久しぶりだった。誰かと喧嘩したのは。
久しぶりだった――心が動いたのは。
心が動けば、自然と身体も動いてしまう。
なんと単純なつくりをしているのだろう。けれど、瑠野はその時思ったのだ――気持ちがいい、と。
動いて、巡り巡る時の中で生きるのは、なんて気持ちいいのだろう、と。
星井彩香。
まだ酒も飲めない少女だが、瑠野は彩香といるともっと楽しく生きていられる気がする、とそう感じていた。だから一緒に走って、逃げて――。
少刻後、後悔した。
動いたことに後悔した。
死の瀬戸際に立って逃げ続けることのどこが楽しいのだ。これから先もずっと息を切らして、吐きそうになりながら走り続けなけれればならないのか。
冗談じゃない。これなら、やっぱり動かずに怠けて座っている方がずっと楽だ。瑠野はそう思った。
思って。道の真ん中に座っていることにした。
彼女は、二十二年間生きてきて、一度も何かを成し遂げたことがない。
いや、これでは語弊がある。
まるでことを行ったがやり遂げれなかったように聞こえてしまったが、実際はそうではなく、【何かをする】という段階すら彼女は乗り越えることができなかった。
動きたくない。
常にこの重い思いが瑠野の頭の中を満たしていた。充満している。
しかしながら、動きたくないから動かなくていいということが通じるほど世の中は甘くはない。
したくなくてもやらなくてはならないこともあるし、疲れ切っていても動き続けなければならないこともある。怠け続けることなどできやしないのが世の中だ――が。
怠気瑠野は違った。
根本的に違った。
彼女の場合、したくないことはしたくないことで、イコールやらなくていいことなのだった。
社会の中に生きる人間の定義から外れていた。
人間の社会の中で生きようとするから怠けることができないのだということを、彼女は本能的に理解していたのだ。
だから社会からはみだし、その外で生きることにした。
外にいれば働かなくてもいいし、面倒な人付き合いもしなくていい。腹が減れば適当にコンビニなどから食べ物を取って来て食べればいい。
たまに小奇麗な格好をした中年が近寄ってきて、ベッドの上で寝ているだけでお金をくれるので、もしも金が入用になっても困らない。
好きなことだけをして、嫌なことはやらない。
だらけて怠けて思うがままに――。
世界が変貌した後も彼女のそのスタンスは変わらなかった。
突然空が暗くなり、辺りには黒い人影が出現し、当惑したもののなんだか関わると面倒な感じがしたので、丁度近くにあった国際ホテルで寝転がることにした。
目が覚めたら元の世界に戻っているだろうか、なんてことは一切考えず、ただ眠たかったから寝た。
そしていくらか時が過ぎて部屋が揺れるほどの轟音に気付いた瑠野はエレベーターを降り、黒時たちと出会ったのである。
ここから先は、瑠野にとっても意外だった。
はみだし者だった自分、社会の外にいた自分が、この世界の中心、いわばこの世界における唯一の社会とも言える黒時たちの枠の中に入ることとなったのだ。
実際には申請があったわけでもないし、自分もそれを承諾した覚えもないのだが、なんだか流れによってそうなっていた。
流れに逆らうことも出来たのだろうが、やはりなによりも彼女が優先すべき事項は動かないということである。
たまに流されても戻ることはなく、その場で座り続ける。
それが彼女の基本の姿勢だ。
基本であって、だからこそ崩すべきものではなかった。立ち上がり、流れに身を任せるべきではなかった。
たった一人の少女のせいで。
星井彩香という存在のせいで、瑠野の重い想いは崩されたのだ。
久しぶりだった。あんなに大声をあげたのは。久しぶりだった。あんなに怒ったのは。久しぶりだった。誰かと喧嘩したのは。
久しぶりだった――心が動いたのは。
心が動けば、自然と身体も動いてしまう。
なんと単純なつくりをしているのだろう。けれど、瑠野はその時思ったのだ――気持ちがいい、と。
動いて、巡り巡る時の中で生きるのは、なんて気持ちいいのだろう、と。
星井彩香。
まだ酒も飲めない少女だが、瑠野は彩香といるともっと楽しく生きていられる気がする、とそう感じていた。だから一緒に走って、逃げて――。
少刻後、後悔した。
動いたことに後悔した。
死の瀬戸際に立って逃げ続けることのどこが楽しいのだ。これから先もずっと息を切らして、吐きそうになりながら走り続けなけれればならないのか。
冗談じゃない。これなら、やっぱり動かずに怠けて座っている方がずっと楽だ。瑠野はそう思った。
思って。道の真ん中に座っていることにした。
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