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Chapter4 怠惰の脚
第45話 二体の追跡者
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走り出したベルフェゴールチーター。
逃げる三人は、最早捕まったも同然である。世界最速の動物なのだから、同じ動物である人間が逃げ切れるわけがないのだ。
数秒後、悪魔の目が三人の後姿を捉えた。
このまま一気に追いつき飛びつき、一人ずつ殺してやろう。ベルフェゴールは、きっとそう思っているに違いない。
しかし。
それは未遂に終わる。
いや、これからの先のことは分からないが、とにかく今の時点では未遂に終わった。ある乱入者によって――。
「あいつらは俺の獲物だ。消えろクズ」
ベルフェゴールと彩香たちの間に割り込むようにして、突如空から降って現れたその者は、真っ赤な髪をしたあの暴漢だった。
髪のみならず顔も同様に赤く、その表情は金剛力の像を想起させる。
『オ、オマエ、ナンノ、ツ――』
ベルフェゴールが口を開いていることに構うことなく、暴漢は右足でベルフェゴールの身体を蹴り上げた。
この男はただの人間、であるはずなのだが、蹴飛ばされたベルフェゴールはその姿が見えなくなるほどに遥か後方へと飛ばされていき、その姿をこの場から消した。
明らかに人間業ではなかった。
彩香たちも異変に気付いて足を止め、振り返った。
視線の先に立っていた暴漢を見て、駄紋は脅え、彩香は顔を歪め、そして瑠野は平然とした顔で言った。
「あれ? あいつ怒髪じゃん」
「あいつのこと知ってんの?」
「知ってるよ。怒髪天突。はみだし者の間では結構有名なんだよね。すぐキれる危ない奴って」
その危なさは既に体験している。
だからこそ駄紋は身体を震わせて脅えているのだ。まあ、彩香と瑠野の喧嘩を目にしていた時よりはましだが。
それにしても、三人は解せなかった。
彼は一体どのようにして現われ、何をしたのだろうか。
見ればベルフェゴールの姿がなくなっているし、もしや、あの男が殺したのだろうか。
彩香の頭の中で色々と駆け巡る。
しかし、いくら考えてみたところで答えはでそうにない。ならば取るべき行動は一つである。
いくら危ない男だといっても彼も同じ人間だ、会話をすることぐらいできるだろう。それに、もしかしたら味方になってくれるかもしれない。
こんな世界なのだ、味方は一人でも多い方がいいに決まっている。
彩香の足が怒髪に向けて進みはじめる――が。
「待って。なんか変だよ、あいつ」
「変って?」
彩香は目をこらしてよく見てみる。
そして気付いた。
若干距離があったため見えなかったのだろうか、怒髪の身体から黒い蒸気が噴き出していることに。
彼の身体を覆うようしにて噴き出している黒い蒸気。
見ていると気分が悪くなるこの感じを、三人とも知っていた。瑠野はついっさっき知ったばかりだがこの気分の悪さは、奴らと対峙した時と同じであった。
「あ、悪魔?」
と、彩香が呟いた瞬間、怒髪の身体が動き始めた。三人に向かって走り出したのである。
逃走劇再開。
幸い、走るスピードは成人男性とさほど変わりはなく、ベルフェゴールの時のように数秒で距離が縮まることはなかったが、いい加減三人ともスタミナが持ちそうになかった。
「も、もう僕無理だよぉ」
「何言ってんの、子豚ちゃん! 止まったら、たぶん殺されるよ。ほら、瑠野さんもしっかり走って!」
「アタシも限界だってぇ。ねえ、彩香おぶってよ」
「ふざけんな! 肩貸してあげてるだけでもありがたく思えっての!」
徐々に縮まっていく三人と怒髪の距離。
彼が何故追いかけてくるのかは正直判然とはしていないが、それでも逃げるのを止めるわけにはいかない。
殺されるかもしれない、という懸念が消えない限り走り続ける他ないのだ。
「彩香、このままじゃ追いつかれるよ。どうすんの?」
「どうすんのって言われても、走る以外にないよ」
「でも、逃げ切れないでしょ」
「うん、無理。だから、逃げながら向かってるの」
「どこに?」
「ラブホテル街。黒時先輩のいるところに」
やがて、後方から聞こえてくる音が増えた。
チーターの姿をしたベルフェゴールが追いついたのだ。先程はベルフェゴールを邪魔者のように蹴飛ばした怒髪だったが、今回は彩香たちを優先しているのか、相手にすることなく走り続ける。
絶望。
三人の頭にその言葉が浮んだと同時に、希望、という言葉も湧き出した。
視線の先に、目的地であるラブホ街が映ったのである。黒時がいる希望の地に辿り着いたのである。
逃げる三人は、最早捕まったも同然である。世界最速の動物なのだから、同じ動物である人間が逃げ切れるわけがないのだ。
数秒後、悪魔の目が三人の後姿を捉えた。
このまま一気に追いつき飛びつき、一人ずつ殺してやろう。ベルフェゴールは、きっとそう思っているに違いない。
しかし。
それは未遂に終わる。
いや、これからの先のことは分からないが、とにかく今の時点では未遂に終わった。ある乱入者によって――。
「あいつらは俺の獲物だ。消えろクズ」
ベルフェゴールと彩香たちの間に割り込むようにして、突如空から降って現れたその者は、真っ赤な髪をしたあの暴漢だった。
髪のみならず顔も同様に赤く、その表情は金剛力の像を想起させる。
『オ、オマエ、ナンノ、ツ――』
ベルフェゴールが口を開いていることに構うことなく、暴漢は右足でベルフェゴールの身体を蹴り上げた。
この男はただの人間、であるはずなのだが、蹴飛ばされたベルフェゴールはその姿が見えなくなるほどに遥か後方へと飛ばされていき、その姿をこの場から消した。
明らかに人間業ではなかった。
彩香たちも異変に気付いて足を止め、振り返った。
視線の先に立っていた暴漢を見て、駄紋は脅え、彩香は顔を歪め、そして瑠野は平然とした顔で言った。
「あれ? あいつ怒髪じゃん」
「あいつのこと知ってんの?」
「知ってるよ。怒髪天突。はみだし者の間では結構有名なんだよね。すぐキれる危ない奴って」
その危なさは既に体験している。
だからこそ駄紋は身体を震わせて脅えているのだ。まあ、彩香と瑠野の喧嘩を目にしていた時よりはましだが。
それにしても、三人は解せなかった。
彼は一体どのようにして現われ、何をしたのだろうか。
見ればベルフェゴールの姿がなくなっているし、もしや、あの男が殺したのだろうか。
彩香の頭の中で色々と駆け巡る。
しかし、いくら考えてみたところで答えはでそうにない。ならば取るべき行動は一つである。
いくら危ない男だといっても彼も同じ人間だ、会話をすることぐらいできるだろう。それに、もしかしたら味方になってくれるかもしれない。
こんな世界なのだ、味方は一人でも多い方がいいに決まっている。
彩香の足が怒髪に向けて進みはじめる――が。
「待って。なんか変だよ、あいつ」
「変って?」
彩香は目をこらしてよく見てみる。
そして気付いた。
若干距離があったため見えなかったのだろうか、怒髪の身体から黒い蒸気が噴き出していることに。
彼の身体を覆うようしにて噴き出している黒い蒸気。
見ていると気分が悪くなるこの感じを、三人とも知っていた。瑠野はついっさっき知ったばかりだがこの気分の悪さは、奴らと対峙した時と同じであった。
「あ、悪魔?」
と、彩香が呟いた瞬間、怒髪の身体が動き始めた。三人に向かって走り出したのである。
逃走劇再開。
幸い、走るスピードは成人男性とさほど変わりはなく、ベルフェゴールの時のように数秒で距離が縮まることはなかったが、いい加減三人ともスタミナが持ちそうになかった。
「も、もう僕無理だよぉ」
「何言ってんの、子豚ちゃん! 止まったら、たぶん殺されるよ。ほら、瑠野さんもしっかり走って!」
「アタシも限界だってぇ。ねえ、彩香おぶってよ」
「ふざけんな! 肩貸してあげてるだけでもありがたく思えっての!」
徐々に縮まっていく三人と怒髪の距離。
彼が何故追いかけてくるのかは正直判然とはしていないが、それでも逃げるのを止めるわけにはいかない。
殺されるかもしれない、という懸念が消えない限り走り続ける他ないのだ。
「彩香、このままじゃ追いつかれるよ。どうすんの?」
「どうすんのって言われても、走る以外にないよ」
「でも、逃げ切れないでしょ」
「うん、無理。だから、逃げながら向かってるの」
「どこに?」
「ラブホテル街。黒時先輩のいるところに」
やがて、後方から聞こえてくる音が増えた。
チーターの姿をしたベルフェゴールが追いついたのだ。先程はベルフェゴールを邪魔者のように蹴飛ばした怒髪だったが、今回は彩香たちを優先しているのか、相手にすることなく走り続ける。
絶望。
三人の頭にその言葉が浮んだと同時に、希望、という言葉も湧き出した。
視線の先に、目的地であるラブホ街が映ったのである。黒時がいる希望の地に辿り着いたのである。
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