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Chapter2 暴食の腹
第29話 二つ目のコア
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黒時は笑いが止まらなかった。
美しく、そして面白い。
人間の本質の姿を見るのは本当に愉快でならない。我慢していた笑声が一気に噴出してしまう。
ぬめった粘膜の袋の中で、奇妙な笑い声が木霊していた。
駄紋の腹の口が大きく開いた。
開いた口は横の壁、即ちベルゼブブの胃に勢い良くかぶりつき、噛み千切り、そして飲み込んだ。その動作を何度も何度も繰り返していく。
真っ黒な血を大量にかぶりながら、駄紋は恍惚とした表情でベルセブブの身体を体内から喰らっていく。
「おいしいなぁ、おいしいなぁ。あははは、もっともっと食べたぁぁい!」
ベルゼブブの内臓にかぶりつきながら叫ぶ駄紋。普段の温厚で気弱そうな彼からは想像もできないような姿だった。
黒時の耳に駄紋のものとは別の叫び声が聞こえてきた。
栄作たちが襲われている可能性もありえそうだが、恐らくそうではない。体内を喰われているのだ、悪魔といえど苦しくないはずがないのだ。
この悲痛に満ちた叫び声は、苦しさと痛みのあまり悶えているあの悪魔のものだろう。
ベルゼブブの胃が喰われ、そして内臓も喰らわれ肉も喰らわれていく。
それらを喰らっている者は望印蜀駄紋という人間なわけで、つまり全て彼の体内に入っているはずなのだがどう処理されているのだろう、などと黒時は牧歌的なことを考えながら、駄紋の後を追っていく。
そしてやがて――光が届いた。
ベルゼブブの身体を食い破り体内から脱出したのである。
思えばこの脱出方法も、既に何処かの物語の中にあったような気もする脱出方法だった。
「駄紋!? と……、黒時!」
ベルゼブブの泣き叫ぶ声の中に栄作の声が聞こえた。
驚きと喜びが入り混じった、そんな声だった。
相変わらず騒がしい奴だ、と黒時は思うが、栄作の反応はいたって普通であって何もおかしくはない。
むしろ、平然とした顔で悪魔の腹から飛び出してくる者の方が普通ではないのだ。
「きゃあぁぁ――! こ、子豚ちゃん、もしかしてあいつ食べてんの?」
ベルゼブブの腹から飛び出し、飛び散り散らばった肉片の中で駄紋は、ぐちゃぐちゃと、ベルゼブブの肉を咀嚼しながら彩香に応えた。
「星井さんも、食べる?」
「いるかぁ!」
彩香は駄紋の側から逃げるようにして走り距離を取る。たとえ駄紋の食べている肉がA5ランクの牛肉だと言われても食べる気など起きはしなかっただろう。
「まさか駄紋君も食べられていたとは……。でもよく無事だったね、二人とも」
「駄紋のおかげだ。そちらも問題なかったか?」
「ああ、君たちのおかげでね。危うく食べられそうだったけど、突然苦しみだして
奴の動きが止まったんだ」
「そうか」
黒時の抑揚のない返事。まったく感情がこもっていないと言ってもいい。
まあ、外の人間がどれだけ傷つこうがどうでもよかったのだからそうなっても仕方ない。死んでさえいなければ、それでいいのだ。
「じゃあ」
と言って、黒時は後ろを降り向く。
そこには身体中が血に塗れ、肉体の数箇所を失った悪魔が寝そべっていた。いまだ大口を開けており、奴の【喰らう】という執念もここまでくると敬服してしまいそうになる。
だから――黒時は敬意を払った。
そんな悪魔に、ふさわしい最後をもって――。
「駄紋」
「ん?」
「あれ、全部食べていいよ」
黒時は指を差す。
駄紋の目が、その指の先を辿っていく。
指し示す場所にあったものは、とても大きな肉塊。
鮮度も良く、脂の乗ってそうなおいしそうな肉塊。
あんなにも。あんなにもおいしそうなもの。
駄紋の目は、まるでお菓子を与えた子供のように輝いて、そして――
「いただきまぁーーーーす!」
食べずには――いられなかった。
駄紋の開いた腹は、ベルゼブブの瀕死の身体に喰らいつき、やがてその身体全てを食べつくした。
ベルゼブブのコアごと、である。
しかし、問題はない。
どのような形であれ、コアは器に注がれて、その中身を満たしていくのだ。今まさに、望印蜀駄紋という器に、ベルゼブブという暴食のコアが注がれ、満たされたのである。
黒い血の海と化したホテルのエントランス。
その中で佇む五人の人間。
そこに――チン、という聞き慣れた音が響いた。
聞きなれてはいるが、あまりに奇妙。
あまりに異様。
このタイミングではそう言わざるを得なかった。何故ならその音は――エレベーターの到着音だったのだから。
「なんだかうるさいと思って来てみたら……、どーいう状況なワケ?」
美しく、そして面白い。
人間の本質の姿を見るのは本当に愉快でならない。我慢していた笑声が一気に噴出してしまう。
ぬめった粘膜の袋の中で、奇妙な笑い声が木霊していた。
駄紋の腹の口が大きく開いた。
開いた口は横の壁、即ちベルゼブブの胃に勢い良くかぶりつき、噛み千切り、そして飲み込んだ。その動作を何度も何度も繰り返していく。
真っ黒な血を大量にかぶりながら、駄紋は恍惚とした表情でベルセブブの身体を体内から喰らっていく。
「おいしいなぁ、おいしいなぁ。あははは、もっともっと食べたぁぁい!」
ベルゼブブの内臓にかぶりつきながら叫ぶ駄紋。普段の温厚で気弱そうな彼からは想像もできないような姿だった。
黒時の耳に駄紋のものとは別の叫び声が聞こえてきた。
栄作たちが襲われている可能性もありえそうだが、恐らくそうではない。体内を喰われているのだ、悪魔といえど苦しくないはずがないのだ。
この悲痛に満ちた叫び声は、苦しさと痛みのあまり悶えているあの悪魔のものだろう。
ベルゼブブの胃が喰われ、そして内臓も喰らわれ肉も喰らわれていく。
それらを喰らっている者は望印蜀駄紋という人間なわけで、つまり全て彼の体内に入っているはずなのだがどう処理されているのだろう、などと黒時は牧歌的なことを考えながら、駄紋の後を追っていく。
そしてやがて――光が届いた。
ベルゼブブの身体を食い破り体内から脱出したのである。
思えばこの脱出方法も、既に何処かの物語の中にあったような気もする脱出方法だった。
「駄紋!? と……、黒時!」
ベルゼブブの泣き叫ぶ声の中に栄作の声が聞こえた。
驚きと喜びが入り混じった、そんな声だった。
相変わらず騒がしい奴だ、と黒時は思うが、栄作の反応はいたって普通であって何もおかしくはない。
むしろ、平然とした顔で悪魔の腹から飛び出してくる者の方が普通ではないのだ。
「きゃあぁぁ――! こ、子豚ちゃん、もしかしてあいつ食べてんの?」
ベルゼブブの腹から飛び出し、飛び散り散らばった肉片の中で駄紋は、ぐちゃぐちゃと、ベルゼブブの肉を咀嚼しながら彩香に応えた。
「星井さんも、食べる?」
「いるかぁ!」
彩香は駄紋の側から逃げるようにして走り距離を取る。たとえ駄紋の食べている肉がA5ランクの牛肉だと言われても食べる気など起きはしなかっただろう。
「まさか駄紋君も食べられていたとは……。でもよく無事だったね、二人とも」
「駄紋のおかげだ。そちらも問題なかったか?」
「ああ、君たちのおかげでね。危うく食べられそうだったけど、突然苦しみだして
奴の動きが止まったんだ」
「そうか」
黒時の抑揚のない返事。まったく感情がこもっていないと言ってもいい。
まあ、外の人間がどれだけ傷つこうがどうでもよかったのだからそうなっても仕方ない。死んでさえいなければ、それでいいのだ。
「じゃあ」
と言って、黒時は後ろを降り向く。
そこには身体中が血に塗れ、肉体の数箇所を失った悪魔が寝そべっていた。いまだ大口を開けており、奴の【喰らう】という執念もここまでくると敬服してしまいそうになる。
だから――黒時は敬意を払った。
そんな悪魔に、ふさわしい最後をもって――。
「駄紋」
「ん?」
「あれ、全部食べていいよ」
黒時は指を差す。
駄紋の目が、その指の先を辿っていく。
指し示す場所にあったものは、とても大きな肉塊。
鮮度も良く、脂の乗ってそうなおいしそうな肉塊。
あんなにも。あんなにもおいしそうなもの。
駄紋の目は、まるでお菓子を与えた子供のように輝いて、そして――
「いただきまぁーーーーす!」
食べずには――いられなかった。
駄紋の開いた腹は、ベルゼブブの瀕死の身体に喰らいつき、やがてその身体全てを食べつくした。
ベルゼブブのコアごと、である。
しかし、問題はない。
どのような形であれ、コアは器に注がれて、その中身を満たしていくのだ。今まさに、望印蜀駄紋という器に、ベルゼブブという暴食のコアが注がれ、満たされたのである。
黒い血の海と化したホテルのエントランス。
その中で佇む五人の人間。
そこに――チン、という聞き慣れた音が響いた。
聞きなれてはいるが、あまりに奇妙。
あまりに異様。
このタイミングではそう言わざるを得なかった。何故ならその音は――エレベーターの到着音だったのだから。
「なんだかうるさいと思って来てみたら……、どーいう状況なワケ?」
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