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第22話 神薙塔矢③-1
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マジックを貰いに行くと言って、日渡は教室を出て行った。俺は、マジックを入れ忘れてくれた先生に感謝しなくてはいけないだろう。一旦一人になって、冷静さを取り戻す必要があったのだから。
教室で他のメンバーを待っている時、ふと鳴ったLINEグループの通知。それは、橘の途中参加と、遠藤の欠席を告げる悲報の音だった。
悲報を受けた俺は、今からここにやって来るのは日渡ただ一人、という事実に当惑していた。どうすればいい? これから一緒に作業を行うわけで、となれば一切会話なしで事を進めるのはいささか難しいものがある。だがしかし、俺と日渡が二人だけの空間でお互いがお互いに向けた言葉を発するなんてことは、もう十年ほど起きていない。最近の絡みですら奇跡のようなものなのだ。
どうすればいい。どうすればいい。
俺は足りない脳をフル回転させた。そして、気付く。そうだ、昨日の内に作業内容は決めてある。ならば、会話などせずとも各々が黙然と自分のペースで作業を進めればいいんだ。二人でいる空気に耐えることさえ出来れば、なんとかなる。ある程度進んだら片づけを初めて、そうしたらきっと、日渡も俺に倣って帰り支度を始めるはずだ。
よし。と、俺は胸を撫で下ろして日渡が来るのを待った。
そしてしばらくして、少し遅いような気がするなと思い扉の外に目を向けると、扉のすりガラスの部分に一つの人影があるのが見えた。十中八九、日渡だろう。
日渡が入って来ることに身構えながら、扉が開くのを待った。だがしかし、数分経っても入ってくる気配がない。もしかして、別人か? ただあの場所で誰かと待ち合わせをしている人っていう可能性も……ある、のか?
いや、そうか。昨日のグループLINEの中で、日渡と橘が作業に使う道具類を持ってくることになっていた。だが橘は遅れての参加となり、つまり日渡一人が道具類を取りに行ったことになる。
「――馬鹿野郎」
自分に言ったのか、日渡に言ったのか。そんなに重たい物はないだろうが、量があればそれなりに重たくはなるだろう。日渡が周囲の女子より背が高めだからといって、それに比例して腕力があるわけでもない。道具を持ちながら扉を開けるなんて行為は、相当な腕力が必要になる。
俺は。気まずさを隠れ蓑にして、一人の女子に重荷を背負わせていた。
日渡ではなく橘だったならきっと、俺は一緒に職員室へ行っていたはずだ。二人で道具を運び、二人で教室へ入り、二人で作業を開始したはずだ。日渡だったから。彼女だったからこそ、俺は――。
「…………」
扉を開けると、そこには予想通り、道具類が入った段ボールを抱えている日渡がいた。
どうして頼ってくれなかった。LINEで伝えてくれたらよかったのに。俺から言うべきだったか? 重たかっただろ、ありがとう。
言いたい言葉がつらつらと頭の中に浮かび上がってくる。だがそれらは、浮かぶだけでそこから流れ動いて行こうとはしない。じっと、その場に居座り続けるだけだ。
俺は日渡に何も言葉をかけずに、彼女の手から段ボールを取った。男の俺でもちょっと重いなと感じるそれを持って、俺は踵を返す。日渡が俺の後をついて来ているのかどうかは、背中に眼がついているわけでもないので分からなかった。
教室で他のメンバーを待っている時、ふと鳴ったLINEグループの通知。それは、橘の途中参加と、遠藤の欠席を告げる悲報の音だった。
悲報を受けた俺は、今からここにやって来るのは日渡ただ一人、という事実に当惑していた。どうすればいい? これから一緒に作業を行うわけで、となれば一切会話なしで事を進めるのはいささか難しいものがある。だがしかし、俺と日渡が二人だけの空間でお互いがお互いに向けた言葉を発するなんてことは、もう十年ほど起きていない。最近の絡みですら奇跡のようなものなのだ。
どうすればいい。どうすればいい。
俺は足りない脳をフル回転させた。そして、気付く。そうだ、昨日の内に作業内容は決めてある。ならば、会話などせずとも各々が黙然と自分のペースで作業を進めればいいんだ。二人でいる空気に耐えることさえ出来れば、なんとかなる。ある程度進んだら片づけを初めて、そうしたらきっと、日渡も俺に倣って帰り支度を始めるはずだ。
よし。と、俺は胸を撫で下ろして日渡が来るのを待った。
そしてしばらくして、少し遅いような気がするなと思い扉の外に目を向けると、扉のすりガラスの部分に一つの人影があるのが見えた。十中八九、日渡だろう。
日渡が入って来ることに身構えながら、扉が開くのを待った。だがしかし、数分経っても入ってくる気配がない。もしかして、別人か? ただあの場所で誰かと待ち合わせをしている人っていう可能性も……ある、のか?
いや、そうか。昨日のグループLINEの中で、日渡と橘が作業に使う道具類を持ってくることになっていた。だが橘は遅れての参加となり、つまり日渡一人が道具類を取りに行ったことになる。
「――馬鹿野郎」
自分に言ったのか、日渡に言ったのか。そんなに重たい物はないだろうが、量があればそれなりに重たくはなるだろう。日渡が周囲の女子より背が高めだからといって、それに比例して腕力があるわけでもない。道具を持ちながら扉を開けるなんて行為は、相当な腕力が必要になる。
俺は。気まずさを隠れ蓑にして、一人の女子に重荷を背負わせていた。
日渡ではなく橘だったならきっと、俺は一緒に職員室へ行っていたはずだ。二人で道具を運び、二人で教室へ入り、二人で作業を開始したはずだ。日渡だったから。彼女だったからこそ、俺は――。
「…………」
扉を開けると、そこには予想通り、道具類が入った段ボールを抱えている日渡がいた。
どうして頼ってくれなかった。LINEで伝えてくれたらよかったのに。俺から言うべきだったか? 重たかっただろ、ありがとう。
言いたい言葉がつらつらと頭の中に浮かび上がってくる。だがそれらは、浮かぶだけでそこから流れ動いて行こうとはしない。じっと、その場に居座り続けるだけだ。
俺は日渡に何も言葉をかけずに、彼女の手から段ボールを取った。男の俺でもちょっと重いなと感じるそれを持って、俺は踵を返す。日渡が俺の後をついて来ているのかどうかは、背中に眼がついているわけでもないので分からなかった。
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