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第16話 神薙塔矢②-5
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まさか、もう一人天才奇才の類がいたとは。風船の中に紙吹雪なんてことはままあるだろうが、まさかメッセージカードとは。紙吹雪だと受け取ったところで何の面白みもないが、自分たちへあてたメッセージが書いてあると言うのなら、受け取る面白さがある。
「確か、小学校の実験でやった気がするんだが、油を塗れば風船を時間差で割ることが出来たはずだ。空に飛ばした風船が、上空を舞って割れる。そして、その中から新入生に向けてのメッセージカードが現れる。インパクトもあるし、歓迎している意思を伝えるためにも十分な演出だと思う。俺一人じゃ絶対に出てこなかった発想だ。ありがとう、二人とも」
お礼の言葉を言うと、遠藤は照れくさそうに、そして日渡は目を丸くし、顔を赤くしていた。なんだ、その反応は。つられて顔が火照ってしまいそうになるのを防ぐため、俺は後ろを向いて懸命に頭を振った。
「すごいね、瑠璃。私、なんにも浮かばなかったよ」
「小さい頃に空を飛ぶ風船を見上げてて、もし、あの風船から何かメッセージが届いたら、素敵だな、なんて思ってたから」
身体の向きを皆の方に戻すと、恥ずかし気に話す日渡と目があった。普段ならもしも目があったとしても、日渡の方から瞬時に目を逸らしているのだが、何故だか彼女は目を逸らさず、じっとこちらを見つめていた。
だから俺は思わず、いつもとは逆に俺の方から目を逸らすことにした。日渡の言う小さい頃に見上げた風船、そしてメッセージ。それはどうにも、俺に伝えることがあるだろ、と言っているようで。
ならば俺も言ってやる。簡単に伝えることが出来ないから、あの日からずっと苦しみ続けているんだ。今すぐにでも伝えられるなら、苦労していない。どうだ、分かったか。
まったくもって情けない胸中である。
「よし。じゃあ私、学年主任の先生に道具とか揃えてもらえるか聞いてくるよ」
「橘、俺が行くよ。皆に手伝ってもらってる立場だからな、それぐらいは俺がやらないと」
「いやいや神薙君。ここはこの花音ちゃんに任せてもらおうか」
「おお。なんだかすごい自信だな」
「大事なのは、先生に道具、そして作業中のお菓子を提供してもらうこと」
「お菓子は初耳だな。普通に考えて無理だろ」
「そう、だからこそ。このあざと可愛い花音ちゃんが光るのさ。神薙君はきっと、事務的な態度でお願いするはず。でも、私は違うよ。媚びて媚びて、あざとさ全開で先生の心を溶かし切ってやるのさ!」
先生の心を溶かす必要性はどこに? 必要な道具さえ揃えば、俺としては何も問題ないのだが。桜蘭祭で使用する、って言えば逡巡することなく許可してくれるだろうし。でも、今のハイテンションの橘にそれを言っても、聞いてくれないんだろうな。
「というわけで、行くよ瑠璃!」
「――え!? 私も!?」
「そりゃあそうでしょ。一人よりも二人の方が、成功率は上がるでしょ!」
「あ、あざといとか、私出来ない……」
日渡の言葉を待たず、橘は日渡の腕を掴んで強制連行していった。……あざとい日渡。いや、考えるな。何も、考えるな。無心だ無心。
「確か、小学校の実験でやった気がするんだが、油を塗れば風船を時間差で割ることが出来たはずだ。空に飛ばした風船が、上空を舞って割れる。そして、その中から新入生に向けてのメッセージカードが現れる。インパクトもあるし、歓迎している意思を伝えるためにも十分な演出だと思う。俺一人じゃ絶対に出てこなかった発想だ。ありがとう、二人とも」
お礼の言葉を言うと、遠藤は照れくさそうに、そして日渡は目を丸くし、顔を赤くしていた。なんだ、その反応は。つられて顔が火照ってしまいそうになるのを防ぐため、俺は後ろを向いて懸命に頭を振った。
「すごいね、瑠璃。私、なんにも浮かばなかったよ」
「小さい頃に空を飛ぶ風船を見上げてて、もし、あの風船から何かメッセージが届いたら、素敵だな、なんて思ってたから」
身体の向きを皆の方に戻すと、恥ずかし気に話す日渡と目があった。普段ならもしも目があったとしても、日渡の方から瞬時に目を逸らしているのだが、何故だか彼女は目を逸らさず、じっとこちらを見つめていた。
だから俺は思わず、いつもとは逆に俺の方から目を逸らすことにした。日渡の言う小さい頃に見上げた風船、そしてメッセージ。それはどうにも、俺に伝えることがあるだろ、と言っているようで。
ならば俺も言ってやる。簡単に伝えることが出来ないから、あの日からずっと苦しみ続けているんだ。今すぐにでも伝えられるなら、苦労していない。どうだ、分かったか。
まったくもって情けない胸中である。
「よし。じゃあ私、学年主任の先生に道具とか揃えてもらえるか聞いてくるよ」
「橘、俺が行くよ。皆に手伝ってもらってる立場だからな、それぐらいは俺がやらないと」
「いやいや神薙君。ここはこの花音ちゃんに任せてもらおうか」
「おお。なんだかすごい自信だな」
「大事なのは、先生に道具、そして作業中のお菓子を提供してもらうこと」
「お菓子は初耳だな。普通に考えて無理だろ」
「そう、だからこそ。このあざと可愛い花音ちゃんが光るのさ。神薙君はきっと、事務的な態度でお願いするはず。でも、私は違うよ。媚びて媚びて、あざとさ全開で先生の心を溶かし切ってやるのさ!」
先生の心を溶かす必要性はどこに? 必要な道具さえ揃えば、俺としては何も問題ないのだが。桜蘭祭で使用する、って言えば逡巡することなく許可してくれるだろうし。でも、今のハイテンションの橘にそれを言っても、聞いてくれないんだろうな。
「というわけで、行くよ瑠璃!」
「――え!? 私も!?」
「そりゃあそうでしょ。一人よりも二人の方が、成功率は上がるでしょ!」
「あ、あざといとか、私出来ない……」
日渡の言葉を待たず、橘は日渡の腕を掴んで強制連行していった。……あざとい日渡。いや、考えるな。何も、考えるな。無心だ無心。
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