上 下
14 / 22

第14話 神薙塔矢②-3

しおりを挟む
「ほら、悠太君。自己紹介自己紹介」

「あ、そうですよね。すいません。二年三組遠藤えんどう悠太ゆうたです。これからお世話になります」

 お世話になるのはこっちの方だ。ふむ。臆病でなよなよした奴かと思ったが、礼節はわきまえているようだし、発言すべきタイミングでは先程みたいなおどおどした様子もなくしっかりと発音している。無駄に騒ぐようなタイプでもなさそうだし、断然橘よりも好感が持てるな。慣れない先輩たちの前で緊張しているというのもあるだろうが。

 日渡や遠藤が橘によって半ば無理矢理俺の手伝いをさせられるていうのは分かったが、なおさら何故橘が手伝いを申し込んできたのかが分からない。何か理由があるのかもしれないし、ただの気まぐれなのかもしれない。橘なら全然後者の方がありそうな気もする。

 ともあれ、橘のことは橘にしか分からないわけで、俺も別段そこを詮索しようとは思ってはいない。せっかく手伝ってくれると言っているのに、詮索したことで橘の気が変わってやっぱり止めるなんて言い出したら、俺の課題はどうなるというのだ。期限もあとわずかで、具体的な行動予定もたてられていないんだぞ。いやでも、止めてくれた方が日渡と関わる必要もなくなるわけだし、
そっちの方が精神的にいいのかもしれないな。うーん……。

「よーし、それじゃ悠太君のことも紹介できたことだし、案を詰めていこうか!」

「日渡はいないようだが、いいのか?」

 ……一応。一応、準備の一員に入っているわけなのだから、いない状況で話を進めていいものなのかを確認をしておく。日渡がどうだとかそんなことではなく、単純にメンバー内でハブにするのはよくないよね、という話だ。

「瑠璃は何か用事があるんだってさ。やること指示してくれたらやるから、自分抜きで色々決めていいよって言ってた」

 そりゃあ気まずいよな……。本当に用事があって来ていない可能性も十分にあるだろうが、でもまあ、普通に考えて俺と一緒にいるのが苦痛なのだろう。俺だって、そうだし。日渡が側にいるだけでずっとそわそわしてしまう。心が全く落ち着かない。別に橘でもうるさくて落ち着かないのだが。

「……じゃあ、日渡抜きで進めるか」

 胸中にもやもやとした何かが浮かんでいるのが分かったが、それが何なのかまでは分からなかった。まさか、日渡がいないことを残念がっているわけでもないだろうし。…………。

 ああ、もう。いない奴のことをあれこれ考えても意味がないだろ。むしろ、いた方が体調に悪影響なのだから、いない方が良いに決まっている。日渡がこの場にいないことを、喜ぶべきだ。

――と。内側のもやもやを払いのけるためにか、様々な思案を繰り広げていると、廊下側から屋上へと続く扉が開いた。位置的には、橘たちの背後になる。

 扉を押してその奥から現れたのは、背が高く艶やかな黒髪をした、目つきの鋭い女子だった。走って来たのだろうか、息が切れて額から汗が流れている。

「はあはあ、ごめん。やっぱり、私も混ぜて」

 橘は当然のように「もちろん」と言って日渡を俺たちの輪の中に招き入れた。その口振りは、用事があったはずの友人に向けたにしては、戸惑いもなく、もとよりここに来るのを知っていたかのようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...