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 というのも、ハージェスとモルガナの間には、もちろん愛情もあるだろうが、それよりも手を取る利点の方が多かったのだ。ハージェスにとっては不満のある婚約者リュシエルを切れる上に、何かとたてついてくる弟の最愛の人を奪ったという優越感も満たせる最高の人選がモルガナであり、モルガナもまた、憎きベクレル侯爵家のリュシエルから婚約者を奪え、かつ第二王子の妃より、将来の王妃という立場の方が魅力的だ。

「だからって、あんまりなやり方ですけれど……」
「私も兄がそこまで馬鹿だとは思わなかった」

 はあ、と誰からともなくため息が漏れる。

「……けれど、考えようによってはリュシー。君は自由になったということだ」
「自由?」

 クロードの言葉にリュシエルがキョトンとすると、エドガーも力強く同意した。

「そうだよリュシー。もうお前はあんな男に煩わされる必要はないんだ。これからは好きな催しにだけ参加すればいいし、結婚だって、好きな男とできるようになる。どう見ても非があるのは向こうだし、誰もお前を責めたりはしないよ」

 労るような兄の言葉を聞いて、リュシエルの胸が高鳴る。

「好きな人と結婚……?」

 つい、知らず目がクロードの方を見てしまう。リュシエルにとっては大変喜ばしいことに、彼もまた、婚約者がいない状態に戻ったということに今さらながら気がついたのだ。

(もしかしたら、もしかしてだけれど、私とクロード殿下が結婚できる未来もあるんじゃ……?)

 そんな将来を想像して一瞬ソワソワしたが、すぐにその気持ちは萎んだ。鏡に写った自分の姿を見てしまったせいだ。
 どんなに浮かれても、彼女が“スナギツネ令嬢“と呼ばれる残念な容姿は変わらない。

 クロードがいくらリュシエルに優しいと言っても、それはあくまで彼が幼なじみだからであって、恋愛感情からではない。先ほどは動揺からか、珍しく「そんな女」などという汚い言葉を使っていたが、それまではリュシエルが羨むほどモルガナを大事にしていたのだ。今リュシエルが結婚をお願いすれば、兄であるハージェスがやらかした負い目もあり、もしかしたら優しいクロードはうなずいてくれるかもしれない。だが……。

(そんなのって、あんまりだと思うわ……)

 婚約者を兄に寝取られ、代わりに不器量な幼なじみを押し付けられたら、たまったものではないだろう。
 
 リュシエルは「はあ」と諦めのため息をついた。

「私には、できないと思います……」

 せっかく励まそうとしてくれている二人には申し訳ないが、それがリュシエルの正直な気持ちだった。
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