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突きつけられた現実
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知夏とはこのままでいい、今まで通り過ごせば問題ない。
バイトを終え、ヤツとの蟠りがなくなったとすっきりした気持ちで歩く。
10月も半ば、夜中の帰路は肌身に凍みるぐらい寒くなっている。
ただ澄み切った夜空と月だけはきれいに輝いていた。
早く風呂に入って寝ろうと足だけは急いでいた。
見慣れた門扉が現れ、いつものように開けて玄関に向かうはずだった。
何気に手をかけ開こうとしたが、ガチャリと音がして開かない。
月明かりを頼りに確認するとそこには鎖が掛けられ、開けられないようになっていた。
「何だよ、これ?」
仕方なく門扉を乗り越えて玄関へと向かう。
その途中に”管理予定地”という看板が目に入る。
疑問を抱きながら慌てて持ち慣れた鍵を回す。
何度差し込もうにも鍵が開かない。
どうやら摩り替わってるようだ。
「くっそう」
ドアを叩くと裏の方へ回った。
中に入るためと庭から室内へと続くサッシに手を掛ける。
当たり前だが開く訳ない。普段から鍵を掛けてるからだ。
こうなったらと手荒な手段だがサッシを壊そうとした。
庭にある適当な石を握り、ガラスへとぶつける。
ガンガンと叩いたが、防犯ガラスを使っているためびくともしなかった。
冷静になって考えると警備面をしっかりしてたはずだ。
仮に中に入れたとしても不審者進入として装置が起動するんだった。
「ちくしょう!」
自分の家なのに入れないなんて!!
ヤツは今月までは所有権があるといっていた。
なのに何の前触れもなく、あの女が手を回したんだ。
アイツ、どこまでやれば気が済むんだ!?
俺は庭先に座り込むと愕然とした。
いつかはこんな日が来るんだろうとヤツの話から予想はしていた。
だけどそれはまだ数週間先のことでそれまでにどうにかすればいいと思っていた。
それが今、現実となって突きつけられた。
生活スペースを全て失うってのはこういうことなんだ、と。
これまで威圧的に金を稼いでたヤツに反抗していた割には随分と甘えていたんだと悟る。
ヤツがいなくなっても貰った多少の金はあったし、眠る場所もあった。
それが、この目の前にある家が、本当に他人のものになってしまうんだ、と。
不意に甦ってくる家での思い出。過ごした時間。
その全てが本当に消えてなくなるんだという実感。
悔しくて何度も地面を叩く。
しばらく経ってから脳裏にヤツの言葉が過ぎる。
『婚約をすれば家も会社も失わなくて済む』―――と。
「何考えてんだ、俺は!!」
否定するように首を振り、自身を戒めるかのように頬を叩く。
真夜中、風がないのに気温が低い。シンとした寒さが身に凍みる。
こんなところにいるからだ! と立ち上がる。
だけど悲しいかな、知り合いなんていやしない。
困った時に助けてくれる人物など現れるわけなんてない。
行き場のない俺は深夜営業のファミレスにいた。
室内にいるのがこんなに温かかったとは、とドリンクバーのマグカップを握り締める。
ポケットには約1万円のわずかな金。
もうすぐバイト代が入ってくるがその金額はたかがしれている。
働いて寝るだけの生活はあの家があったからできたこと。
住む場所がなくなれば全ては自分の稼ぎでまかなわなければならない。
仮にアパートを借りたとしても俺は本当に知夏を支えることができるのか?
突きつけられた現実にただただ戸惑うばかりだった。
バイトを終え、ヤツとの蟠りがなくなったとすっきりした気持ちで歩く。
10月も半ば、夜中の帰路は肌身に凍みるぐらい寒くなっている。
ただ澄み切った夜空と月だけはきれいに輝いていた。
早く風呂に入って寝ろうと足だけは急いでいた。
見慣れた門扉が現れ、いつものように開けて玄関に向かうはずだった。
何気に手をかけ開こうとしたが、ガチャリと音がして開かない。
月明かりを頼りに確認するとそこには鎖が掛けられ、開けられないようになっていた。
「何だよ、これ?」
仕方なく門扉を乗り越えて玄関へと向かう。
その途中に”管理予定地”という看板が目に入る。
疑問を抱きながら慌てて持ち慣れた鍵を回す。
何度差し込もうにも鍵が開かない。
どうやら摩り替わってるようだ。
「くっそう」
ドアを叩くと裏の方へ回った。
中に入るためと庭から室内へと続くサッシに手を掛ける。
当たり前だが開く訳ない。普段から鍵を掛けてるからだ。
こうなったらと手荒な手段だがサッシを壊そうとした。
庭にある適当な石を握り、ガラスへとぶつける。
ガンガンと叩いたが、防犯ガラスを使っているためびくともしなかった。
冷静になって考えると警備面をしっかりしてたはずだ。
仮に中に入れたとしても不審者進入として装置が起動するんだった。
「ちくしょう!」
自分の家なのに入れないなんて!!
ヤツは今月までは所有権があるといっていた。
なのに何の前触れもなく、あの女が手を回したんだ。
アイツ、どこまでやれば気が済むんだ!?
俺は庭先に座り込むと愕然とした。
いつかはこんな日が来るんだろうとヤツの話から予想はしていた。
だけどそれはまだ数週間先のことでそれまでにどうにかすればいいと思っていた。
それが今、現実となって突きつけられた。
生活スペースを全て失うってのはこういうことなんだ、と。
これまで威圧的に金を稼いでたヤツに反抗していた割には随分と甘えていたんだと悟る。
ヤツがいなくなっても貰った多少の金はあったし、眠る場所もあった。
それが、この目の前にある家が、本当に他人のものになってしまうんだ、と。
不意に甦ってくる家での思い出。過ごした時間。
その全てが本当に消えてなくなるんだという実感。
悔しくて何度も地面を叩く。
しばらく経ってから脳裏にヤツの言葉が過ぎる。
『婚約をすれば家も会社も失わなくて済む』―――と。
「何考えてんだ、俺は!!」
否定するように首を振り、自身を戒めるかのように頬を叩く。
真夜中、風がないのに気温が低い。シンとした寒さが身に凍みる。
こんなところにいるからだ! と立ち上がる。
だけど悲しいかな、知り合いなんていやしない。
困った時に助けてくれる人物など現れるわけなんてない。
行き場のない俺は深夜営業のファミレスにいた。
室内にいるのがこんなに温かかったとは、とドリンクバーのマグカップを握り締める。
ポケットには約1万円のわずかな金。
もうすぐバイト代が入ってくるがその金額はたかがしれている。
働いて寝るだけの生活はあの家があったからできたこと。
住む場所がなくなれば全ては自分の稼ぎでまかなわなければならない。
仮にアパートを借りたとしても俺は本当に知夏を支えることができるのか?
突きつけられた現実にただただ戸惑うばかりだった。
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