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永眠侍女、犠牲と化す
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「セシリア様、素敵ですわ!」
マーデリンの紹介で仕立てている仮縫いドレスの試着中である。
もちろん部屋には私と針子たちの数名がいるのみで閑散としていた。
式は私の誕生日に近い深まる秋頃に決まり、残すところ4カ月もない。
けれどマーデリンのおかげで準備に目途がつきつつあった。
嫌がらせもなく揉め事もない環境下、順調に進んでいくこの時間が怖いくらいだ。
だけど物語も山場を迎える頃へと近づきつつある。今はもう既に夏期休暇中。
当然ブランディンやアーデンも屋敷に滞在しているはずなのに静か過ぎている。
それは私が来客対応でウロウロしているにも拘らず、ひと気がないような嵐の前の静けさを想像させた。
「では手直しが終わりましたらお持ちいたしますので」
ようやく仮縫いが終わり、一段落着いた頃、いつものように無言の侍女から手紙を預かった。
宛て名はアーデン。紋章からして王家のものだと分かる。
アーデンは剣術鍛錬以外で自室から出ることなく、読書をしている様子だ。
私が必要以上に話しかけなくなった分、そうして過ごすようになっている。
届ければすぐに開封し、立ち去ろうとする私を引き留めた。
「王女殿下からだ」
アーデンはその手紙を渡し、読むように促された。
内容は来週末に迎えるアーデンの誕生祝いを直接届けたいとのこと。
大変だと私は慌てて各方面へと連絡に走る。これは公式扱いとなる来訪だ。
今までアーデンの誕生日パーティなど開いたことがない。
毎年二人で静かに、だけど何か一つだけ特別に食べるものを用意した程度で過ごしていた。
そんな細やかな誕生日に王女殿下が来訪となるといつものようにとはいかなくなる。
贈り物の受領だけにしろ、質素過ぎる雰囲気は体裁的にまずいだろう。
体面上、内輪のパーティーで簡素に祝っているという態が必要だ。
対外的に例えゲストを招かなくても親族内でひっそりと行なわれていると思わせるためにも。
この太陽姫の訪問は学園入学を果たした公爵家の一人が蔑ろにされているという噂を払しょくする意味もあるのかもしれない。
婚約騒動がきっかけとしてあの言葉通り公爵家の極端な状況を改善しようとして動いてくれているのだ。
アーデンの立場を保つためにもマーデリン自ら行動を起こしている。
多少ズレた形とはいえ太陽姫がアーデンのためにと小説通りの流れを組んでいると改めて感じた。
ただ、マーデリンが誕生日を祝うという物語は存在しない。小説ではその翌日にブランディンからの急を有する招致で呪いをかけられそうになるのだから。
もしかすると私が存在することで多少の歪みをずっと生じさせ続けていた?
これまで様々な裏の流れに驚きつつも小説通りにコトが進んでいる。
けれどそれはイレギュラーな私が入り込んだことでズレながらも表の流れができていたようにも見えた。
先日見かけた怪しげな様子のブランディン。姿を隠すようにして何かの行動を起こしていたと予想できる。
ここでピンとくるのは例の呪術しかない。思い通りにならないマーデリンを傀儡にするという代物。
勘違いであってほしいと思うものの、客観的にみればそうもいってられない。
ここ最近の太陽姫はブランディンにとって不快な行動を起こしているように見えるだろう。
私の婚姻準備の手助けやアーデンと関わっていることなどいくらでもありそうだ。
だからこそ、あの日、禁忌を手に入れたかもしれないという不確定な判断でしかないが。
どういう形であれ、呪いは必然的に起こるようになっているのかもしれない。
どんなに歪んだとしても小説の流れに抗えない何かが存在していて物語が進んでいるように見えてるからだ。
そして今回の誕生日訪問。小説ではマーデリンがタウンハウスに来ることによってブランディンが行動を仕掛けていた。
考えられるとしたらアーデンの誕生日に何かが起こるかもしれない。
そう判断せざるを得ないのは今までの経験からだった。
マーデリンの紹介で仕立てている仮縫いドレスの試着中である。
もちろん部屋には私と針子たちの数名がいるのみで閑散としていた。
式は私の誕生日に近い深まる秋頃に決まり、残すところ4カ月もない。
けれどマーデリンのおかげで準備に目途がつきつつあった。
嫌がらせもなく揉め事もない環境下、順調に進んでいくこの時間が怖いくらいだ。
だけど物語も山場を迎える頃へと近づきつつある。今はもう既に夏期休暇中。
当然ブランディンやアーデンも屋敷に滞在しているはずなのに静か過ぎている。
それは私が来客対応でウロウロしているにも拘らず、ひと気がないような嵐の前の静けさを想像させた。
「では手直しが終わりましたらお持ちいたしますので」
ようやく仮縫いが終わり、一段落着いた頃、いつものように無言の侍女から手紙を預かった。
宛て名はアーデン。紋章からして王家のものだと分かる。
アーデンは剣術鍛錬以外で自室から出ることなく、読書をしている様子だ。
私が必要以上に話しかけなくなった分、そうして過ごすようになっている。
届ければすぐに開封し、立ち去ろうとする私を引き留めた。
「王女殿下からだ」
アーデンはその手紙を渡し、読むように促された。
内容は来週末に迎えるアーデンの誕生祝いを直接届けたいとのこと。
大変だと私は慌てて各方面へと連絡に走る。これは公式扱いとなる来訪だ。
今までアーデンの誕生日パーティなど開いたことがない。
毎年二人で静かに、だけど何か一つだけ特別に食べるものを用意した程度で過ごしていた。
そんな細やかな誕生日に王女殿下が来訪となるといつものようにとはいかなくなる。
贈り物の受領だけにしろ、質素過ぎる雰囲気は体裁的にまずいだろう。
体面上、内輪のパーティーで簡素に祝っているという態が必要だ。
対外的に例えゲストを招かなくても親族内でひっそりと行なわれていると思わせるためにも。
この太陽姫の訪問は学園入学を果たした公爵家の一人が蔑ろにされているという噂を払しょくする意味もあるのかもしれない。
婚約騒動がきっかけとしてあの言葉通り公爵家の極端な状況を改善しようとして動いてくれているのだ。
アーデンの立場を保つためにもマーデリン自ら行動を起こしている。
多少ズレた形とはいえ太陽姫がアーデンのためにと小説通りの流れを組んでいると改めて感じた。
ただ、マーデリンが誕生日を祝うという物語は存在しない。小説ではその翌日にブランディンからの急を有する招致で呪いをかけられそうになるのだから。
もしかすると私が存在することで多少の歪みをずっと生じさせ続けていた?
これまで様々な裏の流れに驚きつつも小説通りにコトが進んでいる。
けれどそれはイレギュラーな私が入り込んだことでズレながらも表の流れができていたようにも見えた。
先日見かけた怪しげな様子のブランディン。姿を隠すようにして何かの行動を起こしていたと予想できる。
ここでピンとくるのは例の呪術しかない。思い通りにならないマーデリンを傀儡にするという代物。
勘違いであってほしいと思うものの、客観的にみればそうもいってられない。
ここ最近の太陽姫はブランディンにとって不快な行動を起こしているように見えるだろう。
私の婚姻準備の手助けやアーデンと関わっていることなどいくらでもありそうだ。
だからこそ、あの日、禁忌を手に入れたかもしれないという不確定な判断でしかないが。
どういう形であれ、呪いは必然的に起こるようになっているのかもしれない。
どんなに歪んだとしても小説の流れに抗えない何かが存在していて物語が進んでいるように見えてるからだ。
そして今回の誕生日訪問。小説ではマーデリンがタウンハウスに来ることによってブランディンが行動を仕掛けていた。
考えられるとしたらアーデンの誕生日に何かが起こるかもしれない。
そう判断せざるを得ないのは今までの経験からだった。
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