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永眠侍女、犠牲と化す
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ロング丈のチャコールグレーのジャケットに同系のベストとアイボリーを基調とした小さな学園章柄の模様が散りばめられたネクタイにパンツスタイルの制服。
オーダーメイドのものとあってサイズ感もぴったりの着こなし。
まるで貴公子そのものといえる気品あふれた雰囲気を醸し出している。
つまり学園の制服を身に纏うアーデンはカッコよく決まっているのだ。
だがこの勇姿もフード付きのマントで覆って隠している。
数日前にタウンハウスに戻ってきたばかりで忙しない状況が続く中、本日を迎えた。
例のごとくアーデン専属侍女として身の回りのことは私一人がすることになっていたのだが、目に見える妨害はなかった。
殊の外スムーズともいえるがほとんど無視されているようなものである。
それはともかくいろいろと覚悟していたのに以前のように忘れ去られたような端の端の部屋ではなく、建物の中心部に近めの部屋が用意されていたのには驚いた。
これも公爵家として入学を果たしたための結果で考慮せざるを得なかったに違いない。
もちろんブランディンとの接触を防ぐために用意された部屋以外の出入りはしないようにしていた。
中心部とあって割と廊下でも往来があるから聞き耳を立てて隙を狙うという謎のスキルが試されてる。
一応は身を弁えてますよ~という細やかなアピールのつもりだ。通じているとは思えないけど。
まあ、そのおかげで今のところは出くわすことはない。登校も重ならないように計画している。
王都に戻った翌日は新学期も始まったばかりで決まった時間に馬車で登校していくブランディン。
別々に通うにしろ、馬車は用意されないと仮定していた。多分、相乗り前提という名目で元々用意させずにやり過ごすつもりなのだろう。
窓から様子を窺いつつ、明らかにアーデンと相乗りさせるような素振りなど見受けられなかったのは想定済み。
入学初日は何らかのことがあると踏んでいてその対策はばっちり立てていたのだ。
本日もアーデンにとって大事な日だというのに予想通り、無視するようにさっさと登校していったブランディン。
想定していたから裏口から抜け出して少し歩いたところに馬車が待機してあるのを見る。
「おはようございます。どうぞよろしくお願いします」
御者が馬車の扉を開けるとそこにはナット様が座ったまま手を上げた。
そう、王宮に勤めるナット様が通勤途中に学園前まで送ることを引き受けてくれたのだ。
「行ってくるよ、セシリア」
フードを被ったアーデンは颯爽と乗り込むと小窓から軽く手を上げた。
私はお辞儀をしながら見送るとホッと溜息をつく。
こうして入学初日の学園生活がいよいよ始まったのだった。
「セシリア、変わりはないかい?」
タウンハウスに戻ったので再び両親の元から通っていた。
グリフィス領から戻った早々は片付けや準備などに追われ、碌に話しすらできてなかった。
ようやく王都での生活も軌道に乗り、表向きは何もないように日々が過ぎた。
以前よりも帰宅が遅くなっていた私が久しぶりに早めに切り上げられるようになって一息といったところだ。
「おかげさまでよくしてもらっております。心配なさらないでお父さま」
あちらでは馬の世話をしていたなんて決して言わない。今はこうして専属侍女として成り立っていることを貫くのみ。
「そうか、それならいいんだが」
「こちらに戻ってきてから忙しそうだったわね。体調は崩してないかしら」
「見ての通り何ともありませんわ、お母さま」
思わずスカートの端を摘まんでカーテシーをしてしまった。
「まあ、さすがは公爵家の領地へ派遣されただけあるわ。侍女として洗練されて素晴らしいわね」
「おお、本当だ。これならもしかすると縁付く相手も現れるかもしれんな」
嬉しそうに微笑むお父さまの言葉にドキリとなる。
そうだ! カーティスとのこと、考えなければならなかった。
気づけばすぐにも恒例の休暇が近づいてきているのだから。
オーダーメイドのものとあってサイズ感もぴったりの着こなし。
まるで貴公子そのものといえる気品あふれた雰囲気を醸し出している。
つまり学園の制服を身に纏うアーデンはカッコよく決まっているのだ。
だがこの勇姿もフード付きのマントで覆って隠している。
数日前にタウンハウスに戻ってきたばかりで忙しない状況が続く中、本日を迎えた。
例のごとくアーデン専属侍女として身の回りのことは私一人がすることになっていたのだが、目に見える妨害はなかった。
殊の外スムーズともいえるがほとんど無視されているようなものである。
それはともかくいろいろと覚悟していたのに以前のように忘れ去られたような端の端の部屋ではなく、建物の中心部に近めの部屋が用意されていたのには驚いた。
これも公爵家として入学を果たしたための結果で考慮せざるを得なかったに違いない。
もちろんブランディンとの接触を防ぐために用意された部屋以外の出入りはしないようにしていた。
中心部とあって割と廊下でも往来があるから聞き耳を立てて隙を狙うという謎のスキルが試されてる。
一応は身を弁えてますよ~という細やかなアピールのつもりだ。通じているとは思えないけど。
まあ、そのおかげで今のところは出くわすことはない。登校も重ならないように計画している。
王都に戻った翌日は新学期も始まったばかりで決まった時間に馬車で登校していくブランディン。
別々に通うにしろ、馬車は用意されないと仮定していた。多分、相乗り前提という名目で元々用意させずにやり過ごすつもりなのだろう。
窓から様子を窺いつつ、明らかにアーデンと相乗りさせるような素振りなど見受けられなかったのは想定済み。
入学初日は何らかのことがあると踏んでいてその対策はばっちり立てていたのだ。
本日もアーデンにとって大事な日だというのに予想通り、無視するようにさっさと登校していったブランディン。
想定していたから裏口から抜け出して少し歩いたところに馬車が待機してあるのを見る。
「おはようございます。どうぞよろしくお願いします」
御者が馬車の扉を開けるとそこにはナット様が座ったまま手を上げた。
そう、王宮に勤めるナット様が通勤途中に学園前まで送ることを引き受けてくれたのだ。
「行ってくるよ、セシリア」
フードを被ったアーデンは颯爽と乗り込むと小窓から軽く手を上げた。
私はお辞儀をしながら見送るとホッと溜息をつく。
こうして入学初日の学園生活がいよいよ始まったのだった。
「セシリア、変わりはないかい?」
タウンハウスに戻ったので再び両親の元から通っていた。
グリフィス領から戻った早々は片付けや準備などに追われ、碌に話しすらできてなかった。
ようやく王都での生活も軌道に乗り、表向きは何もないように日々が過ぎた。
以前よりも帰宅が遅くなっていた私が久しぶりに早めに切り上げられるようになって一息といったところだ。
「おかげさまでよくしてもらっております。心配なさらないでお父さま」
あちらでは馬の世話をしていたなんて決して言わない。今はこうして専属侍女として成り立っていることを貫くのみ。
「そうか、それならいいんだが」
「こちらに戻ってきてから忙しそうだったわね。体調は崩してないかしら」
「見ての通り何ともありませんわ、お母さま」
思わずスカートの端を摘まんでカーテシーをしてしまった。
「まあ、さすがは公爵家の領地へ派遣されただけあるわ。侍女として洗練されて素晴らしいわね」
「おお、本当だ。これならもしかすると縁付く相手も現れるかもしれんな」
嬉しそうに微笑むお父さまの言葉にドキリとなる。
そうだ! カーティスとのこと、考えなければならなかった。
気づけばすぐにも恒例の休暇が近づいてきているのだから。
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