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容疑の民

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「全く、こっちは忙しいってのに、うるさいったらありゃしない。もう少し待てないものかねぇ!」

 乱暴にドアが開いたかと思うと大きな声が響き渡り、室内の明かりを背後にひっつめ髪でエプロン姿の年配女性が姿を現しました。

「聞いてるよ。こっちは今、忙しいんだ。とっとと洗い物済ませておくれよ」

 私の姿をちらりと見ただけでさっさと中に入るように促されました。
 天井が高くだだっ広い空間には大きな鍋が置かれた調理場や食器などが山積みされた洗い場らしき場所があり、見た感じでは給食室っぽい様子。
 だけど、これは確実にお店規模の厨房ってところですよね。
 ただ、石造りでちょっと見慣れない、変わった台所という雰囲気ですが。

「それじゃ、後は頼んだよ」

 その女性は大鍋を抱え、振り返りもせず慌ただしくその場から去っていき、ふと気づけばアニーさんが洗い場でお皿を洗い始めていました。
 先程の言動から察するにどうやら洗い物を任されているようでここは手伝わなければいけませんね。
 私の両親は共働きですので出来る家事に関しては普段からお手伝いしてますので多少は平気です。
 ほぼ毎日仕事で遅い両親のために大したものは作れませんが食事だって時々用意してたりしますよ。
 そもそも一般家庭の私が青蘭に入学できてしまったのでその費用を稼ぐために頑張ってくれているのですからね。
 それにしても何となく違和感のある台所ですが手狭な日本と違ってさすが海外って広いなぁ。
 場所に随分とゆとりがある……と思っていたのですがよく見ると蛇口がないような気がします。
 お水はどこからとアニーさんの様子を見ていたらどこからか木のバケツで汲んで運んでました。
 細々したものが無いとはいえ、古めかしい雰囲気がちょっと不思議な感覚ですね。
 給食室で見た銀色の輝きを感じないためでしょうか。
 その空間に圧倒されぼんやりとしている隙に目に飛び込んできました。

「早っ!」

 壁沿いの台の上に積み重ねられた大量の食器。
 その横並びに泡立った液体を張ったタライの前で汚れを落としているアニーさんの俊敏さが!
 手馴れているんでしょうか、早いもので山積みのものが次から次へ並びにある水の張ったシンク内へボチャン。
 それから水に浸けた食器をその横の空のシンクへと移し、ある一定量になるとその中へ鍋で沸かしてあったお湯を注ぎ、食器をお湯に漬けてから水切り棚の方へと移動していってます。
 なるほど! 大体の手順が分かりましたので私はタライの方に素早く加わることに。
 突然割り込んでしまった私に一瞬アニーさんは驚いたようでしたがすぐに自分の作業に戻りました。
 一体、何人分の食器だったのでしょうか、それがついに空っぽ!! 
 あんなにあった洗い物が片付いたと達成感を得ていたのにアニーさん、水切り棚に並べていた食器を乾いた布で拭いています。
 布を取り、慌てて加わると今度は吹き上げた食器を食器棚の方へしまっていました。
 次から次へと行動に移すアニーさんを目の当たりにしつつも手伝っていたらすっかり片付いたご様子。
 今度こそ、これで終了!
 達成感を胸にホッと一息をついた途端、室内側の出入り口の方から物音が聞こえ、多量の食器を抱えた白い服装の男性と鍋を抱えた先程の女性が入ってきました。
 恰幅の良い男性は今しがた片付け終わった場所に汚れた食器類を置き、無言でこちらに向かって顎を動かしました。
 これってもしかしかすると……?

「いつも通り全部片づけてからだよ、分かってるね!」

 鍋を作業台の上に置いた女性は確認するように大声を出して男性と共に出ていきました。
 その姿を見送っているといつの間にかアニーさんは食器を洗っており、どうやら再び食器を片付けなければならないと理解しましたよ、ふう。
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