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始まりの刻

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 しんと静まり返った鉄格子の中、私は壁にもたれながら膝を抱えしゃがみ込んでいます。
 外壁にちらちらと頼りないろうそくの明かりが室内を照らしているだけのほぼ真っ暗闇の空間。
 少しひんやりとした空気が不気味さを際立たせてますが、右手に握りっぱなしだったものを感じてため息が出ます。
 筆先を指でつついてもびくともせず、いつの間にかこんなにカチコチに固まってしまっているとは思いもしませんでした。
 今回のパフォーマンスのため、特別にお借りして使用させていただいている大事な大事な……。
 はあ、高等部所有の重宝されている高価な大筆なんですよ、こちらは。
 筆をこんな風にしてしまった無責任さとショックが甚大でもう全く状況が呑み込めません。
 元々、ほんの少し前には大勢の人と一緒にいたはずなのに……。
 それがどうしてこんなことになっているのでしょうか?

 8月下旬。夏休みを利用しての、海外交流行事のはずでした。
 日本より南側にある国の中のとある村。
 グローバルな意識を根付かせるためにもという青蘭学園は海外交流にも力を入れております。
 そこで村に存在する唯一の学校と当学園との友好を深めるために招待され、その証として書道部と邦楽部が選ばれ、遠征することになりました。
 現地には書道部代表7名、邦楽部代表7名と引率の先生方3名の総勢17名が無事到着。
 書道部のチーム編成として高等部の部長副部長を含む先輩5名と中等部副部長代表の私を含む2名で。
 もう一人は中等部部長で二人して他の有能な先輩方を差し置いて重要どころを任されたわけですよ。
 さらにコンクール入賞が当たり前の邦楽部の演奏と共に、ロール紙でつなぎ合わせた約4m×6mの巨大な紙面での息を合わせながらの演技構成。
 中等部組がこの村独特の現地語の文字を表現するために紙の上部に横書きで綴りながらのスタートです。
 書道部が誇るパフォーマーである高等部の部長、副部長の息の合ったコンビが″絆″という文字を中心に大きく描き、3名の先輩方がこの村と日本にも生息する共通の花として向日葵にちなんだ言葉を縦書きで埋めて終了という流れです。
 紙一面に現地語と日本語、向日葵画も含めた素晴らしい作品です。
 夏休みに入ってからずっとこの日のために現地語で″御招待ありがとう″という文字を練習してきました。
 日本でいう″祝・〇〇″みたいに特別だからと墨の色も朱色になりましたし。
 この文字というのが何というか字というよりも記号みたいな形をしていて……。
 私の担当が後半部分だったので憶測で″ありがとう″の意味なのかなと思いつつ、一生懸命に励みましたよ。
 どの部分が何という文字なのか判らないものの、とにかく必死に書いて、書いて、書きまくった日々。
 声にして伝えられない分、文字としての言葉を、気持ちを伝えようと書道部が一丸となりました。
 練習とはいえ、中でも特大筆を握る絆先輩コンビの圧巻の表現は素晴らしく何度見ても感動させられました。
 そして最高のパフォーマンスができると確信しつつ、友好校へと向かったわけですよ。
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