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POUND3 バナナマフィンの訪問
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ほぼ強引に連れ込むとリビングルームへと案内し、テーブルに出来立てのマフィンと紅茶を差し出す。
「あ、熱いので気をつけてくださいね」
「あ、あのぅ……?」
真ん円に目を見開いたまま、私を見つめる杉本さん。
その横で優馬くんがマフィンの一つに手を伸ばす。
「いただきます」
一口頬張って優馬くんの動きが止まる。
あれぇ? もしかして口に合わなかったとか?
いつもみたいに見た目と香りでは成功したって実感があったのに……。
味見をせずに出したことに後悔する。
「ご、ごめんなさい……。変な味でしたよね? 吐き出してください」
私は箱ティッシュを優馬くんに差し出した。
「う、美味い!! めちゃくちゃ美味い!!」
そう言うとパクパクと次から次に口に運ぶ。
「こら、優馬ったら!」
優馬くんの食べっぷりに顔を赤らめる杉本さん。
「食べてみろよ、分かるから」
そう促されると杉本さんも一口食べた。
「あら、すごく美味しい……」
口に手を当ててマフィンを見つめる。何だか急に嬉しくなる。
「あらあら? どなたなの?」
ヨガ教室が終わって帰ってきたらしいお母さんの登場。
「あ、お母さん、お帰りなさい。こちらは隣に引っ越してきた杉本さん」
「まあ、そうなの……。ごめんなさいね、エリカが迷惑かけて」
「い、いえ。お邪魔させていただいてます」
「分かってるのよ。強引に誘われたんでしょ? この娘はお菓子が出来るとすぐに誰かに食べさせたがるのよ。本当にごめんなさいね」
お母さんは呆れたように私を見た後、マフィンに手を伸ばす。
「いつもこんな調子でね、困っちゃうのよ」
言いながら杉本さんの横に座り、パクパク。
「そ、そうなんですか。……あの~、ちょっとお伺いしても……。さっきから気になってたんですが……」
杉本さんは遠慮がちにリビング一角のテレビの上にある人形らしきものを指差す。
「え? 杉本さん、もしかして……」
それは今お母さんが夢中の韓国スター様のお姿をしたフィギュア。
「え? 佐々木さんも、ですか?」
その後、きゃあ~と歓声を上げながら抱きしめ合う二人の姿。
すっかり意気投合したらしく、自分たちの世界へと突入してしまった。
「オレ、そろそろ行くから」
しばらくして優馬くんは呆れた様子で紙袋を抱えてリビングを出て行く。
「あっ、優馬! ちょ、ちょっと……。すいません、お邪魔しました!」
慌てて追いかけ、バタバタと家を去っていった杉本さん親子。
だけどお母さんはすっかりご機嫌。同志が増えたと大喜びだったもの。
そしてこれがきっかけで家族ぐるみのお付き合いが始まったんだものね。
完成を知らせる合図で現実に引き戻された。
だけどあの日と同じバナナマフィンがそこにある。
チャイムを鳴らしてバスケットに入った出来立てのマフィンを届ける。
あの日と変わらず優馬くんに美味しく食べてもらうためにね♪
(第3話・完/07/02/01)
「あ、熱いので気をつけてくださいね」
「あ、あのぅ……?」
真ん円に目を見開いたまま、私を見つめる杉本さん。
その横で優馬くんがマフィンの一つに手を伸ばす。
「いただきます」
一口頬張って優馬くんの動きが止まる。
あれぇ? もしかして口に合わなかったとか?
いつもみたいに見た目と香りでは成功したって実感があったのに……。
味見をせずに出したことに後悔する。
「ご、ごめんなさい……。変な味でしたよね? 吐き出してください」
私は箱ティッシュを優馬くんに差し出した。
「う、美味い!! めちゃくちゃ美味い!!」
そう言うとパクパクと次から次に口に運ぶ。
「こら、優馬ったら!」
優馬くんの食べっぷりに顔を赤らめる杉本さん。
「食べてみろよ、分かるから」
そう促されると杉本さんも一口食べた。
「あら、すごく美味しい……」
口に手を当ててマフィンを見つめる。何だか急に嬉しくなる。
「あらあら? どなたなの?」
ヨガ教室が終わって帰ってきたらしいお母さんの登場。
「あ、お母さん、お帰りなさい。こちらは隣に引っ越してきた杉本さん」
「まあ、そうなの……。ごめんなさいね、エリカが迷惑かけて」
「い、いえ。お邪魔させていただいてます」
「分かってるのよ。強引に誘われたんでしょ? この娘はお菓子が出来るとすぐに誰かに食べさせたがるのよ。本当にごめんなさいね」
お母さんは呆れたように私を見た後、マフィンに手を伸ばす。
「いつもこんな調子でね、困っちゃうのよ」
言いながら杉本さんの横に座り、パクパク。
「そ、そうなんですか。……あの~、ちょっとお伺いしても……。さっきから気になってたんですが……」
杉本さんは遠慮がちにリビング一角のテレビの上にある人形らしきものを指差す。
「え? 杉本さん、もしかして……」
それは今お母さんが夢中の韓国スター様のお姿をしたフィギュア。
「え? 佐々木さんも、ですか?」
その後、きゃあ~と歓声を上げながら抱きしめ合う二人の姿。
すっかり意気投合したらしく、自分たちの世界へと突入してしまった。
「オレ、そろそろ行くから」
しばらくして優馬くんは呆れた様子で紙袋を抱えてリビングを出て行く。
「あっ、優馬! ちょ、ちょっと……。すいません、お邪魔しました!」
慌てて追いかけ、バタバタと家を去っていった杉本さん親子。
だけどお母さんはすっかりご機嫌。同志が増えたと大喜びだったもの。
そしてこれがきっかけで家族ぐるみのお付き合いが始まったんだものね。
完成を知らせる合図で現実に引き戻された。
だけどあの日と同じバナナマフィンがそこにある。
チャイムを鳴らしてバスケットに入った出来立てのマフィンを届ける。
あの日と変わらず優馬くんに美味しく食べてもらうためにね♪
(第3話・完/07/02/01)
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