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王立貴族学院 二年目
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「今回の持参品は何かしら? お姉さま」
淡いオレンジがかった長い金髪を結い上げた見目麗しい美少女が目の前でコテンと首をかしげている。
不本意ながら通い慣れつつある王城を訪問したわたしは相変わらずドギマギしながら応対中。
今はちょうど卒業謝恩会も終わって進級するまでの休暇中、つまりは春休み中な訳で。
「こちらはどら焼きになります。ローネ王女殿下」
手のひらサイズの丸いしっとりとしたスポンジ生地に粒粒な食感の餡子が挟んである物体の手土産。
パンケーキが存在するしと生地を応用してはちみつを混ぜ込んでふっくらさせて餡をサンドした代物。
あれ以来貴族の間で餡子がじわじわと流行り始めてからというもの、新作はないかと遠回しに王妃様からせっつかれていたからちょうど良かった。
それまでぜんざいやクレープ生地に餡子と生クリームを挟んでとかの和風アレンジを提供してたしね。
本当は羊羹とかも作りたいけど、あいにく寒天みたいなのがまだ見つからない。
クリームとかチョコとか普通にあるのに和風なものはなかなか見当たらない。
なかなか都合のいいものは簡単に現れてはくれないし、洋風世界的なんだよね、あくまで。
だから意外と和菓子開発は厳しいから困惑してたりする。
どうしても知ってて生きてきた世界とは異なってるからね。
未だにどこか偏りがちなのはゲームっぽい世界観なのか? とふんわりした感覚で生きているわたし。
そんなこんなで前世の記憶が蘇ってからもうすぐ2年目を迎えようとする学園生活。
エセ貴族からようやくなんちゃって貴族へと成長したつもりだけども。
「まあ、素敵!」
パッチリとした深緑色の瞳を輝かせながらローネ王女が嬉しそうに声を上げた。
……ん、あ、あれ?
と、思わずここで周囲をキョロキョロと見回す。
王女とワンセットであるいつもの天使な王子の姿が見当たらない。
「フランお兄さまでしたら現在お父さまと外遊中で不在ですの。暗い顔をしてものすご~くこの機会を残念がっていましたわ。けれど私が代わりにたっぷりと堪能して差し上げますので安心して旅立ってくださいとお見送りさせていただきましたの、フフ」
なるほどフラン王子は国王と外交か。一応、多めに用意しておいたけどさすがに帰国までは長持ちはしない。
冷凍庫とかもないし、魔法らしきものもないから仕方がないよね。
生菓子だし、身近な人たちで分けてもらえばいいか。
けどその嬉しそうに微笑んだ顔が少し仄暗さを感じてしまったのは、気のせい?
「……これで私がお姉さまの新作を独り占め、ウフフ」
ん、よからぬ発言が耳に入った気がする。何食わぬ顔で可愛らしい口を開けながら美味しそうに食べてるけど。
まあ、とりあえず約束を果たしたことだし、伝えなければならないことがある。
「あの誠に申し訳ありません。春期休暇中ですが事情がありまして今後は来訪できそうもありません。しばらくは顔を出せませんのでご承知くださいませ。あ、もちろんフラン王子殿下にもその旨、よろしくお伝えください」
すると既に2個目へと突入し、半分まで食べていた動きがぴたりと止まった。
「ええっ! そんな。せっかくの機会だというのにまたお預けでお姉さまの手土産が食べられないってことなの!」
「ご安心ください。レシピの方は提供してますからいつでもご所望できますよ」
抜かりないよと笑顔でそう答えたのにどら焼きを持った手がブルブルと震えている。
「嘘でしょ! お、お姉さまが持参するものが毎回風味が異なって楽しみですのに」
うっ、それはその時使用する素材で変わってしまうからなんですけど!
所詮は伯爵家。全てがこの王城のように最上の材料で揃えられる訳じゃないから仕方なく代用とかして類似品を使ってるからで。
そう、無いものは無いからあるものでどうにかするのがモットーってことで!
もちろん安全面にはぬかりないですよ!
「わたしごときの腕でお気に召していただき、嬉しい限りです」
「……はぁ、最悪ですわ。フランお兄さまも居ないこの機会。休暇中で時間の自由が利くと思ってましたのにまたしばらくお預けなんて……」
「はい、本当に申し訳ありません。ちょっといろいろ事情がありまして……」
「もう、私の楽しみがなくなってしまいますわ」
プイッと拗ねる顔も可愛らしいローネ王女。だけど本当に用事があるのは事実。
決して王城を訪ねるのが憂鬱だからとかではありません。……なんて少しは思ってたり。
まあ、ここまで個人的に王族の方と親しくなるとか思ってなかったしね。
とはいえ実際二人からは単なるお菓子好きってことで一時的に仲間認定されてるだけだろうし。
ずっと手土産目当てにされてるのは間違いないけど、わたし的にも王家御用達的なお菓子を食べられるメリットがある。
だけど、やっぱりここは世間的に王族への機嫌を損ねてはいけない場面ということ?
うう、悲しいかな、庶民的な考えのわたしはつい代替え案を口にしてしまうんだな。はあ。
淡いオレンジがかった長い金髪を結い上げた見目麗しい美少女が目の前でコテンと首をかしげている。
不本意ながら通い慣れつつある王城を訪問したわたしは相変わらずドギマギしながら応対中。
今はちょうど卒業謝恩会も終わって進級するまでの休暇中、つまりは春休み中な訳で。
「こちらはどら焼きになります。ローネ王女殿下」
手のひらサイズの丸いしっとりとしたスポンジ生地に粒粒な食感の餡子が挟んである物体の手土産。
パンケーキが存在するしと生地を応用してはちみつを混ぜ込んでふっくらさせて餡をサンドした代物。
あれ以来貴族の間で餡子がじわじわと流行り始めてからというもの、新作はないかと遠回しに王妃様からせっつかれていたからちょうど良かった。
それまでぜんざいやクレープ生地に餡子と生クリームを挟んでとかの和風アレンジを提供してたしね。
本当は羊羹とかも作りたいけど、あいにく寒天みたいなのがまだ見つからない。
クリームとかチョコとか普通にあるのに和風なものはなかなか見当たらない。
なかなか都合のいいものは簡単に現れてはくれないし、洋風世界的なんだよね、あくまで。
だから意外と和菓子開発は厳しいから困惑してたりする。
どうしても知ってて生きてきた世界とは異なってるからね。
未だにどこか偏りがちなのはゲームっぽい世界観なのか? とふんわりした感覚で生きているわたし。
そんなこんなで前世の記憶が蘇ってからもうすぐ2年目を迎えようとする学園生活。
エセ貴族からようやくなんちゃって貴族へと成長したつもりだけども。
「まあ、素敵!」
パッチリとした深緑色の瞳を輝かせながらローネ王女が嬉しそうに声を上げた。
……ん、あ、あれ?
と、思わずここで周囲をキョロキョロと見回す。
王女とワンセットであるいつもの天使な王子の姿が見当たらない。
「フランお兄さまでしたら現在お父さまと外遊中で不在ですの。暗い顔をしてものすご~くこの機会を残念がっていましたわ。けれど私が代わりにたっぷりと堪能して差し上げますので安心して旅立ってくださいとお見送りさせていただきましたの、フフ」
なるほどフラン王子は国王と外交か。一応、多めに用意しておいたけどさすがに帰国までは長持ちはしない。
冷凍庫とかもないし、魔法らしきものもないから仕方がないよね。
生菓子だし、身近な人たちで分けてもらえばいいか。
けどその嬉しそうに微笑んだ顔が少し仄暗さを感じてしまったのは、気のせい?
「……これで私がお姉さまの新作を独り占め、ウフフ」
ん、よからぬ発言が耳に入った気がする。何食わぬ顔で可愛らしい口を開けながら美味しそうに食べてるけど。
まあ、とりあえず約束を果たしたことだし、伝えなければならないことがある。
「あの誠に申し訳ありません。春期休暇中ですが事情がありまして今後は来訪できそうもありません。しばらくは顔を出せませんのでご承知くださいませ。あ、もちろんフラン王子殿下にもその旨、よろしくお伝えください」
すると既に2個目へと突入し、半分まで食べていた動きがぴたりと止まった。
「ええっ! そんな。せっかくの機会だというのにまたお預けでお姉さまの手土産が食べられないってことなの!」
「ご安心ください。レシピの方は提供してますからいつでもご所望できますよ」
抜かりないよと笑顔でそう答えたのにどら焼きを持った手がブルブルと震えている。
「嘘でしょ! お、お姉さまが持参するものが毎回風味が異なって楽しみですのに」
うっ、それはその時使用する素材で変わってしまうからなんですけど!
所詮は伯爵家。全てがこの王城のように最上の材料で揃えられる訳じゃないから仕方なく代用とかして類似品を使ってるからで。
そう、無いものは無いからあるものでどうにかするのがモットーってことで!
もちろん安全面にはぬかりないですよ!
「わたしごときの腕でお気に召していただき、嬉しい限りです」
「……はぁ、最悪ですわ。フランお兄さまも居ないこの機会。休暇中で時間の自由が利くと思ってましたのにまたしばらくお預けなんて……」
「はい、本当に申し訳ありません。ちょっといろいろ事情がありまして……」
「もう、私の楽しみがなくなってしまいますわ」
プイッと拗ねる顔も可愛らしいローネ王女。だけど本当に用事があるのは事実。
決して王城を訪ねるのが憂鬱だからとかではありません。……なんて少しは思ってたり。
まあ、ここまで個人的に王族の方と親しくなるとか思ってなかったしね。
とはいえ実際二人からは単なるお菓子好きってことで一時的に仲間認定されてるだけだろうし。
ずっと手土産目当てにされてるのは間違いないけど、わたし的にも王家御用達的なお菓子を食べられるメリットがある。
だけど、やっぱりここは世間的に王族への機嫌を損ねてはいけない場面ということ?
うう、悲しいかな、庶民的な考えのわたしはつい代替え案を口にしてしまうんだな。はあ。
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