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八章

13 灰になる人々

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「時代の曲がり角に知恵と生命の剣を再び授け給え――」


 流出していった樹は頭上から消え、二人の手中に集束すると、剣を形作った。
 少し腕力に自身のある者なら片手で扱える程度の西洋剣。 
 蔦を巻きつけたようなデザインの柄は、今まさに二人の手の形に合わせて凹凸を組み上げたらしく、手によく馴染んだ。
 樹が集束して現われたとはいえ、柄も刃も金属だ。
 刃は水晶のように半透明で、機械の中に入っている基板のようなもの閉じ込められているのがうっすらと見える。

 一対の、鋭い剣――これが忌風雷いむふら、神殺しの悪しき風。


「行きましょう、鎮神しずか。まずはヒビシュたちを殲滅する」
「あ……ちょっと待ってください」
 踵を返した真祈まきを、鎮神は引き止める。

「これからの戦いで多分、灯台を巻き込むことになる。
 神殿が壊れたら涅菩ねぼさんはどうなっちゃうんですか」

 神に立ち向かうためにその身を塔に変えた涅菩。
 不思議なその現象が名誉な行いなのか残酷なことなのか、鎮神には分からない。

 真祈と涅菩、よく似た二つの顔が左右から宝石のような視線を向けて来る。

「殻は失われ、魂はここからは少し見えづらい所へ移る。
 それだけのこと。
 まあ、私は案外頑丈です。気にすることはない」
 涅菩が答えると、また少し灯台が傾いだ。
 軋んだ壁面からは建材の欠片が降ってくる。

「さあ、神話を示せ」
 涅菩の影が霞んでいく。

 鎮神は忌風雷を強く握り直すと、真祈と共に展望台へと駆け出した。

 地上では、与半よはん路加ろかまどかがヒビシュと戦い続けていた。
 三人の超能力は確実に成長している。
 しかし減ることの無い不死の軍勢に数で圧され、後退するほか無いといった戦況だ。

 そして意外にも、帝雨荼ていあまたを下敷きにしている集落は崩れていなかった。
 もっと帝雨荼が暴れているかと思っていたが、そうではなかったらしい。

 与半たちと目が合う。

 鎮神しずか真祈まきは剣を構え、絹を撫でつけるような軽さで空を薙いだ。

 灯台を中心に、柔らかな光が漣のように地表を駆け抜けていき、ヒビシュたちの元へ届く。
 光に触れたヒビシュたちの身体は一瞬で灰となり、掻き消えた。

 跡には黒い液体と、深夜美みやびに握らされていた武器だけが残された。

 帝雨荼も土砂の下で沈黙している。


「終わった……」
 溜め息を吐く鎮神の耳に、胡桃の殻を握りつぶしているかのような音が届いたのはその時だった。
 真祈も既に周囲を警戒している。

 しかしそれ以上に、地上に居る三人の方が顔色を失っていた。
「――逃げろ――!」
 路加が悲鳴じみた声をあげた。
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