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「今日は談話室ですこし話していきませんか?」
少し早めの夕食を食べたあと、唐突にミツキがそう提案した。「いいですよ」、と2人で1階の談話室に向かう。そこには誰もいなかった。騎士たちは、さっき訓練から帰ってきたばかりで、まだ食堂でご飯を食べている。一番奥の席に2人で座った。
「騎士の方たちとも話してほしいってラスさんから言われてるんです」
「そうだったんですね」
「みなさんが来るまでは2人で話してましょうか」
そう言われて、しばらく2人で話していると、だんだん騎士たちがやってくる。そのうち1人が、座る席まで近寄ってきた。
「ミツキさん」
「あ、オリバーさん」
「今日は談話室にいらっしゃるんですね!」
「そうなんです。みなさんとお話ししたいな、と思って」
「みんな喜びますよ。それで、この子は…」
その騎士の視線がこちらを向いた。私が軽く頭を下げると、満面の笑みで答えてくれた。
「シハルっていうんだっけ?」
「あっ、はい」
「俺はオリバーだ、よろしくな」
「シハルです。お願いします」
そのやり取りをしている間に、1人、また1人と周りに集まってくる。ミツキも、別の騎士たちと一緒に楽しそうに会話している。気づけば、談話室には大勢の騎士たちが集まっていた。
「トランプのゲームでもするか」と、オリバーがトランプを取り出した。ミツキも目をきらきらさせて、私の方を向いて、向き合った。オリバーも、私の左斜めに座る。その向かいにも騎士が1人座り、囲むように何人かの騎士が机を覗き込んだ。トランプで遊びながら、他愛もない話をする。訓練のこと、街のこと、日々のくだらない話まで、たくさん話した。
何だか、久しぶりに何も考えずに楽しく過ごせている気がする。
「あそこの店の料理は絶品だぞ」
「そうなんですね」
「行ったことないのか?」
「行ったことはないですねー」
オリバーが意外そうな表情で、私を見る。視線をトランプに落としたまま、答える。ミツキも、こちらに顔を向けた。
「シハルさんはここの街には行ったことはあるんですか?」
「実は、あまりないんです。すこし立ち寄ったくらいで…」
「じゃあ今度街に出かけるか!」
その言葉に、ぎくりとした。「いいな」と周りも乗り気になって盛り上がる。でも私は、楽しかった気持ちがどんどんしぼんでいく。現実に引き戻されてしまった。誤魔化すようにへらりと笑う。
「あー…そうですね!行く時があれば!」
なんて口にしながら、おそらくその約束が果たされることはないんだろうと思ってしまう。国のことは、もうほとんど知れた。この世界の常識のことも。だから、そろそろ出て行かなければ駄目だ。ここに来る時だって、そう思って来た。
なにより、私はまだ死にたくはない。私が悪役ポジションだっていうのは、絶対ではない。それは分かっている。でも、やっぱり怖い。
だから、早く出て行かないといけない。そう思っていた。
けど、ここは、とても居心地がいい。できることなら、ずっとここに居たいと思う。それは無理だって、わかっているのに。
会話を割くように、玄関が大きな音を立てて慌ただしく、開かれた。ばたばたと、騎士の1人が騎士寮に入ってくる。何人かの視線が、そちらに向く。慌ただしいまま、談話室に入ってきた。
「聞いたか!第二王子が騎士寮に来るらしいぞ!」
そう、だから無理だって、分かっている。
私は嘘をついているのだから。
少し早めの夕食を食べたあと、唐突にミツキがそう提案した。「いいですよ」、と2人で1階の談話室に向かう。そこには誰もいなかった。騎士たちは、さっき訓練から帰ってきたばかりで、まだ食堂でご飯を食べている。一番奥の席に2人で座った。
「騎士の方たちとも話してほしいってラスさんから言われてるんです」
「そうだったんですね」
「みなさんが来るまでは2人で話してましょうか」
そう言われて、しばらく2人で話していると、だんだん騎士たちがやってくる。そのうち1人が、座る席まで近寄ってきた。
「ミツキさん」
「あ、オリバーさん」
「今日は談話室にいらっしゃるんですね!」
「そうなんです。みなさんとお話ししたいな、と思って」
「みんな喜びますよ。それで、この子は…」
その騎士の視線がこちらを向いた。私が軽く頭を下げると、満面の笑みで答えてくれた。
「シハルっていうんだっけ?」
「あっ、はい」
「俺はオリバーだ、よろしくな」
「シハルです。お願いします」
そのやり取りをしている間に、1人、また1人と周りに集まってくる。ミツキも、別の騎士たちと一緒に楽しそうに会話している。気づけば、談話室には大勢の騎士たちが集まっていた。
「トランプのゲームでもするか」と、オリバーがトランプを取り出した。ミツキも目をきらきらさせて、私の方を向いて、向き合った。オリバーも、私の左斜めに座る。その向かいにも騎士が1人座り、囲むように何人かの騎士が机を覗き込んだ。トランプで遊びながら、他愛もない話をする。訓練のこと、街のこと、日々のくだらない話まで、たくさん話した。
何だか、久しぶりに何も考えずに楽しく過ごせている気がする。
「あそこの店の料理は絶品だぞ」
「そうなんですね」
「行ったことないのか?」
「行ったことはないですねー」
オリバーが意外そうな表情で、私を見る。視線をトランプに落としたまま、答える。ミツキも、こちらに顔を向けた。
「シハルさんはここの街には行ったことはあるんですか?」
「実は、あまりないんです。すこし立ち寄ったくらいで…」
「じゃあ今度街に出かけるか!」
その言葉に、ぎくりとした。「いいな」と周りも乗り気になって盛り上がる。でも私は、楽しかった気持ちがどんどんしぼんでいく。現実に引き戻されてしまった。誤魔化すようにへらりと笑う。
「あー…そうですね!行く時があれば!」
なんて口にしながら、おそらくその約束が果たされることはないんだろうと思ってしまう。国のことは、もうほとんど知れた。この世界の常識のことも。だから、そろそろ出て行かなければ駄目だ。ここに来る時だって、そう思って来た。
なにより、私はまだ死にたくはない。私が悪役ポジションだっていうのは、絶対ではない。それは分かっている。でも、やっぱり怖い。
だから、早く出て行かないといけない。そう思っていた。
けど、ここは、とても居心地がいい。できることなら、ずっとここに居たいと思う。それは無理だって、わかっているのに。
会話を割くように、玄関が大きな音を立てて慌ただしく、開かれた。ばたばたと、騎士の1人が騎士寮に入ってくる。何人かの視線が、そちらに向く。慌ただしいまま、談話室に入ってきた。
「聞いたか!第二王子が騎士寮に来るらしいぞ!」
そう、だから無理だって、分かっている。
私は嘘をついているのだから。
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