67 / 72
二章 水の都
再び樹海 *カーナ視点
しおりを挟むマキナさんと話してから一夜が過ぎ、自分たちは再び樹海にやってきたっす。
相変わらず光すら通さず先も見えないほど鬱蒼とした森っすね。
外から見ているだけで気が滅入るっす。
……しかし、隣の銀髪美少女――リリィはボケーっとした顔で森を眺めているっす。
まだ早朝。寝起きで準備させてきたからどうやら寝ぼけているみたいっすね。
ちなみにろぜっちはブラウの上で寝てるっす。ここまでブラウに乗ってきたっすけど一度も起きてないっすね。
昨日も寝てる姿をよく見たっすからかなり寝てるはずなんすけど、よくそんなに寝られるっす。少し羨ましい気もするっす。
「リリィ、そろそろ目を覚ましてもらわないと困るっすよ。こんな森の中で寝ぼけて迷子になっても知らないっすからね」
「べつに……こんなあさはやくから……くるひつようはなかったとおもうけど……」
あくびを噛み殺しながら話しているから舌が回ってないっすね。
マジでこのままだと危ないっすから少しだけ休憩するっすよ。
「ほい。コーヒーっす。これでも飲んで目を覚ますっすよ」
「ありがと……」
自分が淹れたコーヒーはかなり苦めにしているっす。
これでリリィもびっくりして目を覚ましてくれるんじゃないかと思うっす。
……そう思っていた時期が自分にもあったっす。
流れるような動作でミルクと砂糖を入れてるじゃないっすか。
しかも寝ぼけているとは思えないような動き。
一体どうなっているのやら。
「リリィ……ほんとは起きてるっすよね?」
「何言ってるのよ。さっきから話してるじゃない。つまり起きてるわよ。あたりまえでしょ。ただ眠いだけよ。
……それと、私コーヒーはミルクと砂糖がないと飲めないのよ。だからいつもこうしてるの」
「それにしては手慣れすぎでは。あと、そのミルクと砂糖はどっから出したんすか? 手品かと思ったっすよ」
「てじなっていうのは分からないけど、これはいつもバッグに入れてるわよ。こうやって外でコーヒー飲むときとか必要だし。というかミルクはこの子たちのために常備しているのよ。当然じゃない」
「そうっすね。その子らたまにミルク飲んでたっすね……」
確かに従魔たちがおやつ代わりにミルクを飲んでいるところをよく見ていたっす。
それにしても「手品」も言葉として通じないとは。相変わらず不便っすね。
あと、緊張感なさ過ぎて不安になってくるっす。
美少女は寝ぼけてるわ、妖精さんはずっと寝てるわ。大丈夫っすかね。
ここの樹海は結構危ないところってマキナさんに聞いたっすよ。
自分らが通ってきたところは比較的安全だっただけっすから、何が起こるかわからないんすからね。
もう少し危機感というものをっすね……。
「ふわぁ~ぁ。よく寝たわ~。……ここどこ? あたしいつの間にこんなところに? もしかしてあたしも誘拐されたのかしら。それも無理ないわね。あたしが可愛いせいなのだから」
「寝起きで何あほな事言ってるんすか。ちゃんと昨晩話したっすよ。樹海に行くって」
「そうだったわ。というかお腹空いたんだけど、朝ご飯はないのかしら?」
「それならサンドイッチがあるよ。それでいい?」
「構わないわ。さ、可愛いあたしに献上しなさい」
……調子が狂うっす。
こんなんで見つけられるのかなぁ。てか、樹海で迷子になりそうな予感しかないっす。
「カーナ? そんな微妙な顔してどうしたの? あなたも食べるでしょ?」
「……そっすね。いただくっすよ」
時々リリィは天然なのか鈍感なのかわからなくなる。
いつもは、私は危ないことはしたくないとか言ってるのに、いざそういう場面になると鋼のメンタルになってるし。
……こういうときミーシアさんがいてくれたら、そう思わなかったことはないっす。
これから樹海に行く雰囲気を感じられないまま、サンドイッチを一口。
……まあ、いっか。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる