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二章 水の都
揉め事
しおりを挟む「ふーん。そんなことがあったんすね。てか、そんな聞くだけで怪しさ満点なのに、普通に話するとか。相変わらずっすね。危ないんでそろそろ警戒心ていうのを覚えるっすよ~」
事の経緯を説明するとそんなこと言ってきた。
別に警戒していなかったわけじゃないわよ。ちょっと気になっただけで、何が起きても対応できるようにしてたんだから!
「でも、魔法を発動した気配も感じ取れなかったんすよね?」
「うぐっ」
痛い所をついてくるな。
しょうがないじゃない。魔法陣も魔力の鼓動すらもなかったんだから。そんなのどうやって感じ取ればいいのよ。
「まあこうして無事なんで、これくらいにするっすよ。それより気になるのはその魔素玉っすね。自分もそんなアイテムがあるなんて知らなかったっす」
「そうなの? カーナなら何か知っていると思ったけど、そんなにマイナーなアイテムなのね」
「自分が何でも知っていると思わないでくださいっす。にしてもこれ、便利なアイテムっすね。ダンジョンの魔力を浄化してくれるんすよね。どっかで試してみたいっす。溜めた魔力を消費した後は、壊れたりしないんすかね。そしたら再利用できるじゃないっすか」
「そこまでは聞いていないわよ。それ以上聞く前に消えちゃったし。ほんと何者だったのかしら」
「またどっかで会えるんじゃないっすか。たいていそういうときのお決まりはどっかのお偉いさんとか、高位の冒険者とか、伝説の魔法使いとかっすね。そう思うとなんだかワクワクするっすね!」
「どうして興奮してるのよ。そんなお決まりあっても困るわよ。そんな人に目を付けっられたとしたらまた厄介事に巻き込まれるじゃない。勘弁してほしいわ」
これ以上私の周りで厄介事なんて起きないでほしいわ。
私は平穏に生きていたいの。一応冒険者だけど、普通に旅をしていられるくらいの稼ぎがあれば十分なのよ。だから危険な事はしたくないの。
「そんなこと言ってるけど、実際はリリィが自分から首突っ込んでるじゃないっすか。そういう星の元で生まれてきたんす。諦めるっすよ……」
「うるさいわよ」
まったく。そんな哀れみの目で私を見るんじゃないわよ。
そんなこと言ったら本当に起きてしまうかもしれないんだからやめてほしい――。
なんだか騒がしくなってきたような……。
「なんか揉め事っすかね。ちょっと見に行くっすよ」
「え。離れてた方がいいんじゃ……」
「面白そうね! あたしも行くわよ!」
今まで静かだったロゼちゃんまでカーナについて行ってしまった。
アプリンゴ飴というものを食べていたから静かだったのだが。結構大きかったわよね。もう食べ終わったみたい。
仕方ないから私も二人の後をつけていく。
人混みの中心にいたのは、柄の悪い男数人と見るからに駆け出しの冒険者といった少年たちだった。
お互いに言い争っていた。
「おい、ガキども。俺たちが『窮鼠会』の人間だってわかってるのか? 今謝れば許してやるぞ」
「誰が謝るか! お前らが絡んできたんだろうが! いいからその剣を返せ! それはナトリの物だ!」
う~ん。状況が理解できない。
言葉だけ聞いたら窮鼠会とか言ってる男たちが悪いんだろうけど。どうして剣を取られているのかな。
「近くの人に聞いてみたっすよ。男たちがナトリって女の子をナンパしたみたいっす。それで断られたからって剣を取り上げたら、お仲間の少年たちが来てこんな感じだそうで」
「……なるほど。完全にあの男たちが悪いってことね」
とりあえずまだ言い争い程度で済んでいるというわけだ。
だからやじ馬も見ているだけらしい。よく見ると何人か冒険者の姿もある。おそらく男たちが彼らに手を出したら止めに入るつもりなのだろう。様子をうかがっている。
「それにしてもあの剣、妙っすね」
「何がよ。普通のブレードソードじゃない」
「確かに見た目はそうっすけど。どことなく魔力に覆われているように見えるっすよ」
「何よそれ。魔剣だとでも言うの? あんな駆け出しの女の子の剣が」
なんかカーナがどことなく落ち着きがない。どうせ珍しいものを見つけたからとかそんな理由で関わろうとしているのだろう。
やめてよね。
これ以上関わると何か巻き込まれそうな気がするから離れていたいのだけど。
しかし、ロゼちゃんが決定的な事を言った。
「あれは魔剣よ。エルフ族に伝わる精霊剣に連なるものね。あの子もおそらくエルフじゃないかしら」
「マジっすか! おぉ~。エルフっすよ。ハーフでもなく純粋なエルフを見るのは自分初めてっす。耳も魔法で隠してるってことっすよね。エルフが人間に混ざる定番じゃないっすか」
「何興奮してるのよ。余計なことしないで行くわよ。周りには他の冒険者もいるし、あの子たちにも危険がないんだから、私たちが関わる必要はないわ」
「何言ってるんすか! エルフっすよ。生エルフの美少女っすよ! お友達になるほかないじゃないっすか!」
「あの子も冒険者なんだからギルドとかで会えるじゃない。こんなところで目立つ必要もないし、あの変な男たちに目を付けられたくもないわよ」
私たちがやいのやいの言い合っていると、やじ馬たちが騒ぎ出した。
何事かと目を向けると、いつも間にか様子をうかがっていた冒険者が、少年たちの前で倒されていた。少年たちも剣を構えているが怯えていた。
窮鼠会の男たち側に大剣を肩にかついだ大男が増えていた。
「こんなガキども相手にしてねぇで行くぞ。ボスが待ってる」
「兄貴! いい女見つけたんだ! ボスへの土産にしましょうや」
「ん? ほぉ。いいだろう。連れてこい」
何だって?
聞き捨てならないことを聞いたわ。
……はあ。仕方ないわね。カーナ、そんなワクワクした目で見ないの。
「剣を取り返してあいつら追い払えばいいっすよね。楽勝っすよ」
「油断しないの。あの大男、意外に強いわよ。ブラウは他の男たちから女の子を守ってね」
ブラウのやる気に満ちた声を聞き、私は歌う。
目立つのは嫌だし、変な男たちに絡まれるのも嫌。
でも、それ以上に子供たちを傷つけ、女の子に危害を加える奴らを放っておくのはもっと嫌。
さて、とりあえず人助けと行きますか!
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