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二章 水の都
謎の老婆
しおりを挟む水の都と言うだけあって、海鮮系の料理を出すお店が多い。
なので、ルナちゃんもなかなか興奮気味だ。やはり猫なのだろう。さっきからいろんな魚に目移りしている。
尻尾の動きも激しく、私の顔によく当たる。これ結構痛いのよ。
そんなわけだから、ルナちゃんが勝手に動き回らないように私が抱きかかえることになった。
そうしないと、この喧騒の中ではぐれてしまうからね。
「それにしても、本当にいろいろなお店があるわね……」
私も珍しいものに目移りしてしまい、何から見ればいいのかわからなくなっていた。
さっきから歩き回るだけでお店の中にも入っていない。
ただ気になるものならいっぱいあるわ。
例えば、獣大陸に住まう東方部族の民族衣装とか。ママが来ていたものに少し似ている。着物というものらしい。
まあ冒険者が着るものではないので、買いはしないが。
他にもアタランティア特産魚介料理屋とか、エルフご飯とか、ドワーフのお酒コレクションとか。
なんか食べ物ばかりだわ。食い意地張ってるとか思わないでもらえるかしら。
というか、さっきからどことなく魔力を感じるのは気のせいかしら。
誰かが魔法を使っているとかではなく、ただ周辺に漂っているような感じの。
気になるのでこの魔力をたどってみることにする。特に何が見たいかとか決まっていないし。
私は段々魔力が濃くなっていく方向に歩いて行った。細い裏道のようなところも通った。って、これなんか前にも合ったような気が……三回目くらいじゃない?
「おや。こんなところのよう来たね。いらっしゃい、お嬢さん」
ゆったりとした優し気な声が聞こえた。
視線の先には宝石のような玉を広げたおばあさんがいた。
見た目は森の奥でひっそりと暮らしていそうな魔女のようなおばあさん。さっきの声色とのギャップを感じる。
「せっかく来たんだ。少しお話をしていかんかね」
「……はぁ。まあいいですけど……」
怪しい気配というかまさしく怪しいのだが、なんとなく気になるので話をしてみる。
「おばあさんはこんなところで何をしているんですか?」
「もちろん、これを売っているんじゃよ」
「こんな裏道で? 人通りもないのにどうして」
「こんな老婆には、あの喧騒の中で商売をする気概はないよ。こうして時々迷い込んでくるお嬢さんのような子らを相手にする方がいいのさ」
確かにこのおばあさんが表に居ても気づかないだろう。この濃い魔力を感じなかったら。
「それは何ですか? 何か魔力を発しているみたいですけど」
「やっぱりそうかい。お嬢さんも魔力を感じてここまで来たんだね。これは魔素玉と言ってね、瘴気交じりの魔素を吸い取って浄化するんだよ。そして浄化した魔素をため込むのさ。あまり知られていない珍しいアイテムさ」
へー。そんなものがあったのね。
つまり、汚染した魔力を吸い込んできれいにしてくれるわけか。便利ね。でも使いどころが分からないわ。汚染した魔力って何かしら。
「使えそうなアイテムだけど、瘴気交じりの魔素って何? そんなもの聞いたことないのだけど」
「魔素は知っているだろう。空気中にある魔力の素さね。人間はそれを取り込んで魔力に変換する。高位の魔法使いなんかは、空気中で魔素を変換して魔法を使うことができるみたいだよ。ただ場所によっては瘴気という害のあるものが混ざってしまっていることもある。特に魔大陸なんかは空気のほとんどが瘴気だって話さ。魔人はそれを魔力にすることができるみたいだけどね。人にはできない。つまり、それを可能にしてくれるのがこの魔素玉ってことさ」
「なるほど……」
要するに、魔大陸で魔力を生成できるようにしてくれるアイテムってことね。
それなら、ここで使うことなんかないのでは?
「魔大陸以外にもこれの利用方法はあるよ。例えば、ダンジョンさ。最近噂になっているだろう。新しいダンジョンを造っている人がいると。あのダンジョンでならこの玉は有効じゃないかね」
私の疑問に答えてくれたのはいいのだが、なぜわかったのかしら。口に出していないはずなのに。
それに……。
「どうして噂のダンジョンについて知っているの? あれはまだ広められていないはずの情報よ。おばあさんは一体何者なの?」
「ただの物知りな老婆じゃよ。さて、こんな老婆の話に付き合ってくれたお礼だ。この魔素玉をあげよう。うまく使っておくれ」
そう言っておばあさんは広げていた玉の何個かを袋に入れて投げ渡してきた。
商売をしているとか言っていたのに、タダで渡していいのだろうか。
「ちょっとした老婆のお節介さ。気にするんじゃないよ。それじゃお嬢さん。あたしゃここらでお暇するよ。お嬢さんも気を付けるんだよ」
「え、あの、ちょっと――」
声をかける前になぜかいきなり突風が吹いた。激しい風に目を瞑ってしまう。
目を開けると、なぜか私たちは大噴水の前に立っていた。
魔法を使った気配すらなかったのにどうして?
そんな疑問はのんびりとした声に邪魔された。
「あれ、リリィじゃないっすか。こんなところで何してるんすか。時間にはまだ早いっすよ。暇なら自分らと街を回るっすよ~」
カーナとロゼちゃんが目の前で何かを頬張っていた。
さっきのは夢だったのかと思ったが、手には渡された小袋を持っていた。
あのおばあさんは一体何者だったのだろうか。次あったら絶対に問いただしてやると、心に決めた。
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