24 / 72
一章 旅立ち
噂の占い師
しおりを挟む「…………ひどい目に合ったぜ」
宿泊客の冒険者たちに笑われながらも降ろしてもらったジルさんは疲れた様子で言った。
「ジルさんの自業自得です。もう少し言葉には気を付けたほうがいいと思いますよ」
「残念だが、俺は社交辞令とかそういうのは苦手でな。取り繕うとかそういうのはしない主義なんだ」
自慢気に言うことじゃないと思いますが。
それでも周りから好かれるのはジルさんの人柄ゆえだろう。
「何バカなこと言ってるのよ。これからランク上がったら貴族からの依頼も増えるんだから。もっと頭使いなさい」
「あっ。メイさんおはようございます」
メイさんが起きてきた。同じ部屋を借りているがメイさんは朝弱い人なのだ。
だから私がいつも先に起きて、メイさんの目覚まし係をしているのだが、今は依頼もない休暇中みたいなものだ。わざわざ起こす必要もない。
「おはよう。別に気にせず起こしてくれていいのよ。早起きするのが無駄になることなんてないんだから。頼んでいる身で言うことじゃないけど」
「何もない時くらいゆっくりしていいと思いますよ。それにメイさんの寝顔って結構可愛いので、つい見守っちゃうんですよね」
「あ~。確かにな。こいつ寝てるときは子供みたいだからなぁ」
「……へぇ。二人とも。こんなところでする話じゃないってわかってしてるのかしら?」
「「あっ」」
まずい。朝からお説教モードのメイさんになっている。
ちょっとジルさん!私に押し付けないでください!今回は共犯じゃないですか!
どうしようどうしよう。ジルさんが使い物にならない今、私がどうにかしなくてはならない。
……まぁ、どうにもならないんだけどね!
私がおろおろしていると、ブラウがメイさんに駆け寄り、甘えるように飛びついた。
「わん!」
「あら。……まったく。今回はブラウに免じて見逃してあげるわ。次はないわよ?」
「「ハイ!!」」
よくやったぞブラウ!後でいっぱいモフモフしてあげよう。
「そんなことよりご飯にしましょう」
ブラウを撫でながらメイさんが席に着いた。
あっ。ブラウはそのままなんですね。メイさんは本当に犬が好きなようだ。
「今日はこれからどうすんだ?」
「そうですね……今日も街を見て回るくらいしか予定はないですね。ジルさんたちは何か予定は?」
「俺はギルドで模擬戦だな。昨日知り合った冒険者たちとすることになってるんだ。メイはどうする?」
「私も特にないわね」
ジルさんは人との距離を縮めるのがうまいから、いろんな人と仲良くなれる。
それでも模擬戦する仲って、早すぎない?
メイさんはどうやらお暇なようだ。そうだ!
「それなら、私と一緒にお散歩しませんか?昨日言っていた占い師探しましょうよ」
「リリナったら、意外とそういうの信じるのね」
「ええ。だって面白そうじゃないですか」
「まあ、やることもないからいいわよ」
「んじゃま、そういうことで今日の予定は決まったな。夜に戻ってくるようにはしろよ。あと、ついででいいから魔物の噂の情報を聞いてみてくれ。どこでどう広まっているかも気になるしな」
「わかったわ」
そうですね。意外と街の人の方が知っているかもしれない。
そうして予定を決めた私たちは食事を終えた。
◇◇◇
現在私とメイさんはスペードさんのお店の前にいた。
せっかくだから見に行こうと言って二人で訪れたのだ。
スペードさんのお店は大きい。二階建ての一軒家が四軒並んだのと同じくらいで、中も広かった。
それに品揃えも豊富だった。食料品と生活雑貨を主に、冒険者の必須アイテムである野営道具など、平民と冒険者に寄り添った品目だ。スペードさんの人柄が出ている。
それに見たことないものもたくさんあった。いろんな国から取り寄せて販売しているそうだ。
つい買いすぎてしまったかもしれないが気にしない。
「いいお店でしたね」
「そうね。こんな品揃えのお店なんて王都にもないわ」
「ですね」
冒険者にとってはとても魅力的なお店だったのだ。また来よう。
「次は何処に行きますか?」
「とりあえず中央広場に向かいましょう。あそこなら何かしらあると思うし」
今度は中央広場に向かう。昨日行った場所だ。
また昨日の子供たちがいるかもしれない。もしかしたら老夫婦もまた会えるかも。
……いや、それなら工房に向かった方が早いな。
それにメイさんなら鍛冶師の工房に興味を持つかもしれない。聞いてみよう。
「メイさん。昨日知り合った鍛冶師の方の工房に行ってみませんか?」
「鍛冶師?リリナ、工房なんかに興味あったの?あなた、武器いらないじゃない」
「昨日少しお話ししたんです。お年寄りのご夫婦だったんですけど、少し興味深いお話も聞かせてもらったんです」
私は昨日話したことをメイさんに説明する。
「へぇ。元冒険者の老夫婦ね。しかも高ランクの。確かに興味深いわね。それに鍛冶師なんでしょ?新しい弓でも作ってもらおうかしら」
やっぱり食いついた。メイさんは意外とこういう話が好きらしい。
あのメイさんがワクワクした顔をしている。
……いやどうだろう。そんなに表情が変わってないからわからないや。
「行く前に何か食べましょう。東区だからここから少し遠いし、この子たちもお腹が減った頃でしょ」
「わんわん!」
ブラウが吠える。今日も元気いっぱいだ。ごはんと聞いて私たちの周りをぐるぐると走り回っている。
ルナも今日は自分で歩いている。間違いなく重くなってきているのだ。少し運動させないと良くないと思い、今日は心を鬼にして歩かせている。
「ニャ―」
あぁ。だめっ。そんな目で見つめないでっ。とてつもない罪悪感が。
耐えろ私。今日だけは我慢するんだ!
「ニャッ!」
「わんわん!」
「あっ、こら!どこ行くの!待ちなさーい!」
二匹が勝手に走り去っていく。路地裏の細道の向かったようだ。
なんか前にもこんな光景見た気がするわ。とにかくメイさんと二人で追いかける。
だんだんと人がいなくなっていき、周りに人の気配がなくなったあたりで二匹が止まった。
「もうっ!急にどうしたの?」
「おや?珍しいお客さんだね。よく僕を見つけられたものだ」
少年のような声が聞こえた。
人の気配は全くしなったはずなのにいつの間に?
メイさんが警戒している。
「僕は最初からここにいたよ?まぁ気配を消すのは得意でね。それに君たちが来るのはなんとなくわかっていたからね。さっきのは社交辞令みたいなものさ」
少年のような声だが、よく見ると女の子だった。とても中性的な顔立ちで見分けがつかないだろうが、一部特徴的に膨れ上がっているものが見えてしまった。
……チッ。
いけない。思わず舌打ちが。
「せっかく来たんだ。君たちのことを占ってあげるよ。今日は面白いものが見られそうだ」
「……もしかしてあなたが噂の占い師さん?」
「巷ではそういわれているみたいだね。どんな噂かは僕も知らないけれど」
「よく当たる未来を見るって噂よ」
メイさんが答えると、占い師は少し笑った。
「たしかに未来は見るが当たるとは思っていなかったよ。運がよかったみたいだね」
「そんなことはどうでもいいわ。怪しげな占い師さん、こんな人気のない場所で商売なんてどういうつもりかしら?なにかの罠だったりしないわよね」
「そんなことはないさ。それに商売もしていないよ。お金を取っているわけではないからね。僕はただ少し未来を見るだけだよ」
占い師はそういって大きな水晶を取り出した。
確かに怪しげな感じはするが、悪い人には見えなかった。
メイさんが私に視線を送り、頷く。
「……そう。今はそれでいいわ。リリナ、せっかく見つけたからあとはあなたの好きにしていいわよ」
「お姉さんはいいのかい?」
「私は興味ないもの」
「それじゃ銀のお姉さんの未来を見よう。少し待っていてね」
なんだか緊張するなぁ。噂の占い師がこんなにすぐ見つかるとは思わなかったし、とんとん拍子話が進んでしまった。
私の未来ってどんなのだろう。平穏な生活であってくれ。
「……見えた。これはこれは。なんとも波乱万丈な人生だね。銀のお姉さん、これからいろいろな事に巻き込まれるよ。まぁ、大半のことはお姉さんを中心に起きているようにも見えるけど」
「……そんなぁ。私の平穏な人生がぁ」
泣いてもいいでしょうか。この占い師の言うことって当たるって噂だから、これも当たる確率高いじゃない。
ほんとどうしてこうなった……。
「近々懐かしい再会をすることになるね。誰かは分からないけど。お姉さんにとっては悪い再会ではないよ。むしろ今後を大きく左右する重要なものだ。その時になって間違った選択をしないように気を付けるといい」
「……再会?誰だろう?」
そんなに知り合いはいないから限られてくるのだが、想像つかない。
「僕が言えるのはここまでだね。うんうん。面白いものを見せてもらったよ。お礼を言うよ。
それじゃ僕はこれで。またどこかであったらまた未来を見せてもらうよ」
そう言って占い師は消えた。まるで霧になったみたいに忽然と。
その光景に私とメイさんはしばらく呆然としていた――。
◇◇◇
「ふふふっ。本当にいいものを見せてもらったよ。リリナさんと言ったかな。彼女とはまた必ず巡り合うだろうね。その時はどんな未来に変化しているかワクワクするね。
――君が立ち向かうのは並大抵のものじゃない。それこそ大陸を越えた大きな事件になるかもしれないね。
僕は君の選択に期待するとしよう。また会う日を楽しみにしているよ」
ある森の中でそうつぶやいた占い師の姿は輝いていた。
銀の髪に深紅の瞳、そして四枚の透明な光の羽。
その姿はまるで御伽話に出てくるような――。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる