追放歌姫の異世界漫遊譚

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一章 旅立ち

原因

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 私は近くで眠っているジャイアントホーンの体を撫でた。

 硬い筋肉の感触と滑らかな毛の触り心地が堪らない。

 これはこれでとてもいいですね。素晴らしいです。ジャイアントホーンの体を撫でるなんて滅多にない機会だ。今のうちに堪能しておこう。



「リリナ!大丈夫!?」



 メイさんが駆け寄ってきた。すごく心配させてしまったようだ。

 それも当然か。自分が何をしたのかはよくわかっている。だからこそいつものように笑って答えるのだ。



「大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました。そんなことよりメイさんもほら、撫でませんか?ジャイアントホーンが今なら撫で放題ですよ!」



 いつも通りの様子に、もしくはいつも以上に興奮している様子に呆気に取られていた。

 メイさんでもそんな顔するんだ。いつでもクールな人だから珍しいと思った。



「やっぱりミーシアの言ったとおりね……」



「ん?ミーシアさんがどうかしました?」



「ううん。何でもないわ。怪我がないならそれでいいわ」



 またミーシアさんの名前が出てきた。意外と仲良しなようだ。

 ほのぼのと会話していると、他の人たちも近づいてきた。



「急に飛び出してきたから驚いたぞ。どうしたんだ?」



「そうよ。なんであんな危ないことしたの?」



 ジルさんとメイさんが聞いてくる。メイさんは少し怒っている。

 ……これはお説教コースかしら。

 とりあえず一から説明しよう。といってもどう説明したものか。



「私もなんとなくでしか理解できていないので、細かいことは説明できないですが……まずジャイアントホーンが人を襲う原因がわかりました」



「ほんとか?」



「ええ。おそらくは。皆さんさっき笛の音が聞こえましたよね?どう感じました?」



「笛の音?そんなの聞こえたか?」



「き、聞こえてたよ。あ、あんまり大きな音じゃなかったけど……」



「ミミ、聞いたよ。ピィーって」



「キキも聞いたよ」



 一応全員聞こえてはいたようだ。でも何かを感じてはいないみたい。



「私も聞いていたわ。でも不思議に思っただけよ。森で笛の音がするなんておかしいから……」



「おいおい、まさか。笛の音がどうこう言うんじゃないよな?」



「そのまさかです。私はあの笛の音が原因でジャイアントホーンが暴れだしたと思っています」



 そう言うと、皆一様に驚いた顔をする。タイミング的にも原因は間違いないだろう。

 おそらく笛を使って魔物を操ることができる。だがその目的が分からない。



「おそらく笛を使って魔物を操る方法があるのだと思います。でもそれをする理由はまだわかりません」



「今回の騒動は人為的に起こされたっていうのか。急にきな臭くなってきたな」



「そうね。それでも手段が分かったことは大きいわ。次に何をするか考えましょう」



「ジャイアントホーンはこのままにしておきましょう。誰も近づけないようにして、落ち着いたら元の場所に変えると思います」



 話している間も私はずっとジャイアントホーンを撫でていた。

 だんだん癖になってきた。ずっと触っていたいと思うほど。

 ――あっ。ルナちゃん甘噛みしないで。ちょっと痛いから。

 嫉妬だろうか、私の首筋にかみついてきた。撫でろと?もちろんですとも!



「それはいいが、さっきのは何だったんだ?あれも『歌姫』の力か?急に眠りだすし、そんな魔法あったか?」



「……そうとも言えますね。ちょっとした支援魔法の応用です。冷静さを失った人を落ち着かせるのも支援と言えません?……眠ったのは予想外でしたけど……」



「肝心な理由を聞いてないわ。どうして一人で飛び出したの?」



「それは……なんとなく苦しそうだなって。そう考えたら討伐するのはかわいそうに思えて……でもルナが守ってくれるっていうから、気づいたらもう……」



「……そう。そんな危ないことはしないように!するなら先に一言言って!いいわね?」



「……ハイ」



 不思議な迫力を感じた。まるでミーシアさんみたいな……。

 メイさんを怒らせるのはもうやめようと思いました……。



「リリちゃん、リリちゃん。ルナとお話しできるの?」



「リリちゃん、リリちゃん。どうしたら猫の言葉がわかるの?」



 双子ちゃんが純粋な疑問をぶつけて来る。

 ……やめて。そんなキラキラな眼で見ないで。

 そんなすごいことしてないから。二人の夢を壊してしまう。



「え、えーと……その……言葉がわかるっていうかなんというか………勝手に解釈してるだけというか………」



「「……」」



 そんな残念な人を見るような顔しないで。意外と当たってると思うから!



「で、でも。よく見るとちゃんとわかるのよ。ほ、ほんとよ。ルナの雰囲気とかでなんとなく」



「「ふ~ん」」



 双子がルナを凝視している。観察しているつもりなのだろうか。

 ルナは二人に見られていても気にしないのだろうか、あくびをして眠そうだ。

 そう言えばさっきからグリッドがおとなしい。どうしたのだろうか。

 いつもなら絡んでくるのに、目が合うとそらされる。なぜだ。

 今はそんなことしてる場合じゃないな。



「そんなことより、動きましょう。もしかしたらまだ森の中にいるかもしれません」



「ん?何がだ?」



 ジルさん……こんなところで天然を発揮しないでください……。



「バカなの?話の流れで察しなさい。今回の犯人でしょう。冒険者かどうかは分からないけど、とにかく笛を持っている人を探すわよ」



「そうです。音が聞こえた感じから、辺境方面です。早く探しに行きましょう」



 そうして私たちは歩き出した。

 数時間かけて森の半分を歩き回ったがめぼしい人はいなかった。

 ただ一瞬だが、怪しげなローブを纏い、私たちを観察している人が見えた。

 一瞬だったために気のせいだと思ったが、ただ一つ特徴的な黒髪が印象的だった。



 結局その日は犯人を見つけることはできず、街に戻った。

 犯人がだれで目的もわからないが、これだけは分かる。

 

 おそらく辺境で何かが起こると――。







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