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第三部
モフモフ
しおりを挟む変な奴が帰った後、ユミエラさんはしばらく険しい顔をして同じところを睨んでいた。
さっきまでとはまるで別人のように。
「……ユミエラさん……?」
「! ごめんなさい。びっくりさせちゃったかしら?」
「ううん……」
私が呼ぶと、さっきと同じニコニコ笑顔に戻った。
それに少し安心した。
そして、ユミエラさんの後ろに大きな虎がいることを思い出した。
「ゆ、ユミエラさんっ。う、うし、後ろ……」
「後ろ? あー……カイのことね。大丈夫よ。咬んだりしないし大人しくていい子なのよ」
「で、でも……」
威圧感を感じ、少し委縮してしまう。
カナモを見ると、なぜか興味深々のようで、毛に触れようと手を伸ばしていた。
意外と度胸あるのよね、カナモって。
『童よ。怯えることはない。我が汝を害することは皆無である。安心するといい』
「ひっ。しゃ、喋った!?」
思わずユミエラさんの後ろに隠れる。
虎が喋るなんて、一体……。
「わぁわぁ! 虎さんが喋った! すごーい! あのあの、触ってもいいですか?」
『我に触れない方がよい。危ないから』
「どうぞ。お好きなように撫でてあげてください。カイも喜びます」
『あ、主!? 我は童が苦手でっ』
「少しくらい我慢してください。せっかくモフモフに整えているのですから。私の自慢のモフモフです。とても気持ちいいのですよぉ~」
そう言って微笑むユミエラさん。
許可が出たため、カナモは思い切り虎に飛びついた。
身体全体であのモフモフを堪能している。とても幸せそうだ。
「か、カナモ……?」
「ノアちゃ~ん。と~っても、気持ちいいよぉ~。ふわふわ~」
「へ、へ~。じゃあ、わたしも……」
軽く撫でるように触る。
ふかふかでふわふわ、それでいてサラサラの毛がとても気持ちよかった。
これは、癖になりそう。
「ふふふっ。それでは、カイのモフモフも堪能したことですし、そろそろ行きましょう。タマモがお茶の用意をして待っていますから。お茶しながら、あなたたちの事情を聞かせてくださいね」
そう言って私たちの手を引き、建物へと歩いていく。
近くで見ると、まるでカフェのような雰囲気で結構おしゃれだった。
中に入ると、さっきの女の子――タマモがお茶の準備を終え、ボーっと立っていた。
「おまたせ、タマモ」
「……無問題。お姉が作ったお菓子食べてた」
「あら? つまみ食いなんてはしたないわよ」
「……お姉はよくやっている。それよりお嬢、平気?」
「何がかしら?」
「……なんか変」
「大丈夫よ。おかしなところなんてどこにもないわ」
「……お姉なら何でもわかる。タマモはまだまだ」
「別にあの子と同じにならなくていいのよ。それより、お茶にしましょう。二人とも座って。タマモも、一緒にね」
「……おけ」
タマモはメイドの格好をしているのに、ユミエラさんに対してかなり気安い感じだ。
一体どういう関係なのかな。普通の主従には見えないけど。
座ってタマモのお茶を淹れる様子を見ていると、何をしているのか全然分からなかった。
いつの間にか目の前にお茶が用意されていた。
「それじゃ、あなたたちがここに来た経緯を教えてもらえるかしら?」
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