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番外2

カナリア

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 あの森に行ってから、私は変わった。
 自分でそう言えるほど、あの森での生活は私の人生を変えた。

 私は死ぬはずだった。
 姉を陥れ、国に混乱を招いたのだから、それが当然だと。
 しかし、覚悟を決めた私は死にぞこなった。
 かの精霊王の気まぐれ。あるお嬢様の気分。
 そんなもののせいで私は無様にも生き残ってしまった。
 最初はそう思っていた。

 なぜか、姉は私を許した。
 妹だからと。
 そして姉妹としてやり直したいと。
 それが許されるなんて思わなかった。
 私に彼女を姉と呼ぶ資格なんてないのだから。
 それでも姉は私を妹と呼んだ。
 家族として愛してくれた。
 本当に、変な人だと思った。

 それから私は新しく姉妹として関係を築いた。
 これまでのことはお互い水に流して、幼い頃のような姉妹に。
 ご飯も、散歩も、お風呂も、就寝も。
 全部一緒にした。
 こんなに幸せなことはないと思った。
 そう思えた自分にびっくりした。

 時々、悪夢でうなされることがあった。
 大抵、その時に見る悪夢は決まって同じ。
 姉に直接殺される夢。
 あの姉が絶対にしないであろう表情で私を殺す。
 殺し方は様々だった。
 夢だとわかっていても、恐怖した。
 本当ならそうなっていてもおかしくはないのだから。

 それでも、姉はいつも優しかった。
 うなされている私を抱きしめ、「大丈夫」と声をかけ続ける。
 なんでそんなに優しいのだろうか。
 いつも穏やかに笑っている姉を不思議に思った。
 この人には怒りの感情はないのか。人を憎むことを知っているのか。
 まるで理解できなかった。

 それから、私たち姉妹はずっといっしょだった。
 森を出て旅を続けていても。
 姉と護衛の男が結婚しても。
 姉に子供ができても。
 姉が私を手放すことはなかった。
 私から離れようとしたことはあった。
 しかし、それは許してくれなかった。
 私は彼女の幸せの邪魔になるだろうと思ったのだが、姉はそれを否定した。
 姉は言った。

「あなたが幸せになってくれることが、私の幸せ。あなたと一緒にいることが私の幸せ。だからあなたがいなくなるのは困るわ」

 そう言って笑う姉は眩しかった。
 こんな私でも幸せになっていいのだろうか。
 そう思っていたから。
 だから、私は姉のために幸せになることにした。
 人を好きになって、結婚して、子どもを儲けた。
 姉は誰よりも喜んだ。
 幸せそうな笑顔を浮かべ、泣いていた。
 そしてこう言った。

「ありがとう」

 と。

 今ならわかる。なぜこんなことを言ったのか。
 だから、私は今度はこう告げよう。
 誤魔化すことなく、素直を気持ちで。
 誰よりも私を愛してくれたお姉様へ。

「私に愛をくれて、ありがとう。あなたのおかげで私、幸せです」






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