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第一章、「ギルドと」

17話、「レベルアップと」

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 移動すること、約十分。

「レベルアップ!」

 またあの明るい誰かの声だ。

「今度は何だ……」

 レベルアップしたとは言え疲れは感じるもので。ただ、レベルアップの条件も分かったことで少し気分も良くなり、ステータス画面を確認する。


『トーシロー
 HP51/181 MP350/450
 Lv3 次のLvまで500EXP
 職業 ゲーマー 錬金術師 商人
 職業Lv2 次のLvまで150EXP
 スキル 見切り 鑑定 錬成 収納 ショップ 調理(Lv1) 徒歩で来た(Lv2)』


 やはり推測が合っていたらしい。HP上限が70上がっていることから、50+ボーナス値が増加するようだ。

 Lv1なら10を、Lv2なら20を、ってところだろうか。

 ……それでいくとボーナスだけでLv10時点でHPが100上がることになるが、良いのだろうか?

 そんなシステムのようなものに疑問を抱く。

 ついでに、順調にレベルアップしているというのに、上限分の体力の回復はしてくれないらしい。帰って休んでやっと回復するということなのだろう。

 ゲームと同じようにレベルアップ毎に即時回復してくれたらいいのに……なんて贅沢を思っていれば、そうだ。

 ポーションを作る予定をしていたのだった。

 アリスには、“回復するものが美味しい液体”だったら? なんてアバウトなことを言ったが、俺の想像の中では既に“ポーション”というアイテムが存在している。それさえ作りまくれればこの悩みからも解消されるというわけだ。

 さっさと移動をして依頼をこなして調合を試みよう。僅かな楽しみに頬が綻ぶ。

 アリスはそんな俺を不思議そうに眺めるが、レベルアップの度に見ることはおかしいだろうか。

 俺の場合はスキルが多いから頻繁に確認するが……。アリスを鑑定してみようか。


 ――鑑定。


『アリス
 HP1601/1601 MP300/300
 Lv20 次のLvまで8000EXP
 職業 剣闘士 タンク
 職業Lv30 次のLvまで3000EXP
 スキル 挑発 物理耐性Lv5/10』


 ……あれ。『徒歩で来た』がない?

 そのスキルの有無で経験値は変わるからおかしくはないが。何故俺だけ……。


『俺は異世界の召喚者、しかも勇者だからなぁ』


「うわぁっ!」

「どうしましたか!?」


 急に叫んだから驚いたのだろう、アリスは即座に剣を抜いた。


「いや……なんでもない」

「そうですか……? 本当に?」

「ああ、悪い」


 鑑定時以外の時に聞くことがほぼなかった、『俺の声での解説』。鑑定は任意で行えるから心の準備もできるというものだが、こうも不意打ちでこられると心臓に悪い。


『異世界、召喚、勇者。イレギュラーが重なればステータスにもイレギュラーが発生する』

『本来戦闘でしか得られない経験値を俺が獲得できているのは、“イレギュラーなスキル”だからだ』

『この世界の住人だったらあり得ることもなかったろうな』


 はい、はい。説明サンキュー、俺。

 なんて、意味のわからない感謝をして、考え込む。

“イレギュラースキル”……とでも名付けようか。

 確かに「徒歩で来た」、もとい、「チャリで来た」は元の世界ではネタとして通じ――ジェネレーションギャップは与えるものの――笑いを取ることができただろう。

 だがこの世界においては、そんなネタは存在しない。そもそも、「チャリ」すらもまだ存在していないのだ。

 元ネタをオマージュしたものをスキルとして創造していく、内なる力、カッコカリがあるとしたら……?

 割と筋が通る気がする。

 異世界に来る時に、錬金術よろしく、一度分解され再構築されたなら……? 内在的な変化が起こっていても何らおかしくない。

 そもそも俺は“流行りの異世界転生ですか?”なんて、一般人からしたら異様なレベルに適応していたが、この世界のことも詳しくは知らないし、仕組みだって知らないことだらけだ。

 俺自身のこと、この世界のこと。他にも知る必要があるだろう。


 この世界を堪能したいのならば。


 そんなことを考えながらアリスの後ろを歩けば、目的地に着いたようだ。


 穏やかそうなスライムがちらほら見える森の中で、アリスは両手を広げた。

「……街と違って、空気が澄んでいますね」

「確かに?」

 正直、地球の空気の汚れが深刻すぎてこの世界であればどこでも空気が澄んでいるように感じる。

 ぼうっと考えながら辺りを見渡せば、誰かの甲高い悲鳴が聞こえた。

「なんだ!?」

 言ったのは俺じゃない。アリスだ。すぐにアリスに黙るよう、自身の口に指を当て、ジェスチャーする。

「モンスターってのは大きな音に敏感だったりするだろう、今俺達が動けば被害は拡大しかねない」

「でも……!」

 見殺しにしろと言うのか。そう言いたいのだろう。

「俺達にできることは、真正面からの対峙じゃない。不意打ちでモンスターを倒すことだ」

 後ろをつかれれば大抵のモンスターは対策ができないはずだ。そんな予備知識。

 ただ、それでも。

 人すらも殴ったことがない俺が、モンスターを殺すことができるのか?

 それがスライムのような、肉体を持たないものでも抵抗があるだろうに、“命を奪え”というのは映画やアニメのデスゲームであろうが俺は無理なのだ。

 それでも。

「誰かを死なせていい理由にはならない……」

 そんな抵抗を抑え込んでも、今度は恐怖に脚がすくむ。

 膝が笑って、呼吸が荒くなって。

 到底無理だ、と拒絶反応を示す。

 そんな俺を見て、アリスは呆れただろうか。

 アリスは口を開いて――。 

「シローは戦わなくていいので、私が背後を取られぬようにサポートをお願いします」
 静かに、そう言ったのだ。


『すぐに適応するのは無理だ』


 俺の現状をそう理解したうえでの提案。情けなくて泣きそうになってしまう。それでも。

 見て見ぬふりをするくらいなら、情けない格好だろうが見せてやろうじゃないか。 

 そう意気込んで、俺は頷く。


「行こう、アリス」

「はい、……行きましょう、シロー」


 剣を抜いて、俺達は叫び声のした方へと、歩みを進めた。
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