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4話、「アリスと」

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 少しして、どこか見慣れた姿が見えた。駆け足で寄る前に、此方に気づいたらしい。 
 
「アリス?」
 
「はい。……お召し物を変えられたのですね。ふふ、よくお似合いですよ。……食事を買いに行かれるのでしょう?」 
 
「よく分かったな」 
 
 流石によれよれのジャージから一般的な服に着替えれば気付くものは気付くだろうが、食材を買いに行くことは知らないはずだ。 
 
「先程、食べ物を購入しておりませんでしたから」 
 
「よく見てるなぁ」 
 
「旦那様のことなら、見ていますよ」 
 
 ふっと優しい瞳を此方に向けてくるアリスに、先程同居を拒絶したことに対する罪悪感を覚える。
 
 ……それと。 
 
「なぁ、俺の執事ってことはさ。これからどこか行く宛はあるのか?」 
 
 しばしの沈黙の後、アリスは「無いですよ」と笑顔を浮かべて答えた。 
 
「恥ずかしながら、私は元々スラムの出でして。容姿を買われたらしく、そこから教育を受けて……勇者様の傍にいるようにと命を受けたのです」 
 
 ……うわぁ、気不味い。どうしよう。そんな深刻なことを「それでも仕方ないよね」みたいな感じで終わらせようとしてるのがひしひしと感じられる。 
 
「……さっきは断ったけど、アリスさえ良ければ一緒に暮らす……か?」 
 
「同情でなら、必要ないですよ。空の下で寝ることくらいは慣れていますし、食用の草もあります」 
 
 そういうとこなんだよなぁ、分かってくれよ。 
 
「じゃあ、アリスの主人としての命令だったらいいんだな?」 
 
「それは、……まぁ、はい」 
 
 さっき断わったことで信用が薄れているのが分かる、分かるぞ。嫌ってほどにだ。 
 
「これから食材を買いに行くこと、分かってるなら……荷物持ちとか、手伝ってもらえるか」 
 
「もちろんです」 
 
 よし。それならいいんだ、ただ……。
 
「旦那様とか敬語とかくすぐったいからタメ口にしてくれよ」
 
「それ、は」
 
 動揺して瞳がうろうろと動く。表情がないように見えて、本当はちゃんとあるんだな。気付きにくいだけで。
 
「命令だとしても?」
 
「……時間を要するかもしれませんが」
 
「よし、じゃあ……俺のことは、シロ―って呼んでくれ」
 
「……シロ―?」
 
「ああ。そのまま……トーシローだと、並び替えたら『シロート』……素人になるだろ? 好きじゃないんだ」
 
「なるほど、でしたら……シロ―様」
 
「様もいんねえって。友達みたいな感覚でいこうぜ、……な?」
 
 にっと笑って手を差し出すと、表情を明るくして、「はい」と手を握り返してくれた。
 
 タイミングを見計らったかのように、ゴーン、ゴーンと鐘が鳴る。
 
「食材を売っているところは早く閉まります、急ぎましょう」
 
 握った手をそのままに、アリスは少し前を歩いてゆく。ちらちらと俺の方を確認しながら。
 
 丁度いい。今のうちにステータスを鑑定させてもらおう。
 
 
 
『アリス(空腹状態)
 HP800/800 MP150/150
 Lv20 次のLvまで8000EXP
 職業 剣闘士 タンク
 職業Lv30 次のLvまで3000
 スキル 挑発 物理耐性Lv5/10』
 
 
 …………ワーォ。俺が旅立つ日にはとてつもなく頼るな、と分からされた。
 
 つか、空腹状態って……?
 
『空腹状態は長時間食事をしていないとなる状態異常で、ステータス上限値を1/2にするものだ』
 
 ありがとう脳内の俺。ってことは、だ。
 
 本来はHPが1600あって、MPは320? タンカー適性が強すぎるな。しかし何だ、このステータス画面の違和感……。
 
 そうだ、ATKとDEFがないんだ。
 
『それらは『装備』を鑑定と表示されない』
 
 なるほど。じゃあ鑑定してみるか。
 
 
『黒色のスーツ v2
 DEF10
 粗末な拳銃 Lv1
 ATK5』
 
 
 ……えっ?
 
 スーツはまだいい。DEF10、ある方だろう。拳銃?
 
 職業が剣闘士なのに……?
 
 
「なぁ、アリス。国が平和なのは分かるけど、丸腰って危ないかな」
 
 わざとらしく冒険者ギルドの方を見て伝えれば、「そうですね」と小さく呟いて。
 
「拳銃辺り持っておけば大体は安全ですよ。それに、冒険者以外は銃刀法違反で捕まります」
 
 変化球で投げた、何故剣を装備しないのか、が解消されたはいいものの、何故アリスは銃を持っているのだろうか……と疑問でならなかった。
 
 持てぬなら、持たせてやろう、剣闘士。
 
「そういや……冒険者ギルドでモンスターを狩って卸すって言ってたけど、何で狩るんだ?」
 
「冒険者に興味がおありで? モンスターの肉は大変美味であること、毛皮や鱗は装飾品として仕えること、国の危機を事前に排除しておくこと、これらが主な理由です」
 
「大変美味……」
 
「ええ、そのため先ほど紹介した食事処でも使われております。……値段は……」
 
 アリスがちょいちょいと手招きし、近付いてみれば。「金貨五枚は下りません」と耳打ちされた。
 
 金貨、5枚。…………。まだ金銭感覚が分からないが、一枚一万としても、最低五万円。
 
「たっ…………」
 
「その金額故に手を出せぬ者が、自身で討伐し、調理しよう、と無茶をするのです」
 
 なるほど、これは使える。
 
「じゃあ、俺達もその“無茶な冒険者”になってみないか?」
 
 旨いものを食わせてやるよ、と言えば、また瞳が揺れ動いた。
 
「今は食材の買い出しですよ、シロ―」
 
「へいへい……ん」
 
 敬語は抜けていないが、今確かに『シロ―』と呼んでくれたな。
 
 これは大きな第一歩だ……なんて考えてることを、アリスは気付かないんだろうな。
 
 そんなことを考えていれば、市場についていた。よし、と意気込んで、商品に目を通し始めるのだった。
 
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