君との恋の物語-Red Pierce-

日月香葉

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仕事

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朝起きたら、授業のある日は出かける準備をする。ない日はすぐに仕事に取り掛かる。

教職を取らないことにした俺は、今年からは授業も少なくなった。

おかげで時間的に余裕ができて、仕事もかなり取れるようになった。

色々考えたが、今俺が優先的にすべきことはやっぱり仕事だと思った。

他のことは一切考えず、ただただ仕事がしたかった。

だからと言って、全く遊ばないのかと言われたらそんなことはない。

仕事を増やしたおかげで金銭的にもかなり余裕があったし、なんと言ってもさぎりがいないのだ。時間なんて、いくらでも作れた。

距離を置くというのは、あんまり好きなやり方ではなかったが、2人の将来のためだ。

仕方がないと割り切った。

さぎりの依存性を知っている俺は、ものすごく不安ではあったが、考えないようにする他なかった。

だから、できる限り仕事をして、友達と遊んで、1人で贅沢をして、たまに学校行って、

とにかく暇を持て余すことがないようにした。

そんな生活をしていたら、貯えもできるし、仕事にもなれて、段々予定を制御できるようになってきた。

そんなに簡単にできるなら、距離を置く必要もなかったんじゃないかと聞かれそうだが、これは飽くまで、【距離を置いたからできた】ことだと思っている。

あのまま一緒にいるのは、やっぱりよくなかった。

まぁ、それはいい。あの時はあれが最善の選択だったと思うから。

問題は、これからだ。

距離を置いてから、約1年。

そろそろ連絡を取ってもいい頃か。

もちろん、あの日と同じ日付は予定を入れてないが。

俺の方は、1年でしっかりと自分のやるべきことや、やりたいことを整理できたので、やり直したいと思っている。

この一年で、他の女の子から声を掛けられたりもしたが、全て断ってきた。

うん。やり直せる状態に、俺はなった。

後は、さぎりがどういう結論を出すか、だな。

さぎりのことを、大学で見かけたことは、もちろん何度もあった。

さぎりも、いつでも同じ友達と一緒だったようなので、男の影は感じなかった。

無論、学校ではの話だが。まぁ、考えても意味がない。信用するしかないんだから。

何度もこんな自問自答みたいなことをしたが、それもいつからか落ち着いた。

でも、さぎりが好きだという気持ちは変わっていない。

きっと、距離を置いた後に寄りを戻すカップルのほとんどが、俺と同じような状態になれた人たちなんだろう。

逆に戻れなかったカップルは、好きな気持ちまで一緒に薄れてしまった人達だろう。



テーブルの上に置いていた携帯が震えた。

画面を見ると出版社の加藤さんからの電話だった。

『もしもし』

「あぁ、詩乃君。今ちょっといいかい?」

『はい。どうぞ』

なんだろう?

「2年前に紹介した、僕の上司を覚えてるよね?上原さん。」

『えぇ、もちろん覚えてます。』

当たり前でしょうがw

「その上原さんが、また詩乃君に会いたがっているんだけど、⚪︎日の土曜は空いてるかい?」

それは、今から1週間後の日付だった。

『はい、空いてます。事務所でよろしいですか?』

「うん!大丈夫。よかった。その日は、スーツで来た方がいいよ。」

『わかりました。』

「詩乃君も、もう大学3年生だろう?その辺を加味してのことだから。わかるだろ?」

なんと!いや、まだ話の全貌はわからん。

1週間か。覚悟していこう。

そうか。そうだよな。

俺ももう、大学3年生なんだな。

就職活動も、いよいよ他人事ではなくなるんだな。

出版社での仕事が忙しかったこともあって、ずっとこのまま仕事をしていくものだと思ってしまっていた。

そうすることで、就職活動から目を背けていたとも言えるが。

もし、もしも上原さんから【社員への登用は考えてない】と言われればそれまでなのだ。

そして、その可能性は、なくはないんだ。

そうなったら、俺は、他の学生と同じで、1から就職活動をしなければいけない。

しっかりしないと。今どんなに仕事があろうと、卒業後どうなるかわからないままではだめだ。

就職課に顔を出してみよう。

その場で答えは出ないだろうけど、ヒントくらいは得られるかもしれない。



今日は珍しく、授業も仕事もないのでオフにしてあったので、早速就職課へ行ってみることにした。

入り口から入るとすぐ、右側には大きな掲示板があって、この時期だとそこまで多くはないが、求人募集の紙が貼られている。

が、出版社からの物は1枚もなかった。

まぁ、いいか。とりあえず窓口に行ってみよう。

窓口では、メガネを掛けた40代くらいの、神経質そうな女性が対応してくれた。

「はい、うちの学生ね。なるほど、日本史専攻。」

などとぶつぶついいながら、俺が記入したエントリーシートをチェックしていく。

「え?出版社でバイトしてるの??」

『はい、大学1年、いや高校3年からですかね。』

「すごいじゃない!校正だけならまだしも記事の資料作成までやってるなら、これはすごい武器になるわ!」

やっぱり。出版社でのバイト経験は武器になるんだな。っていうかこの人、すごいテンションだな。

「だったら、まずはその出版社で取ってもらえないか話してみるのが良さそうね!就職課から書類が必要なら用意するし、面接が必要なら練習もできるから。」

すごいな。こんなにサポートしてくれるのか。

『ありがとうございます。そんなに色々やっていただけるんですね。』

思った以上だった。

「あたりまえじゃない!その為の就職課だもの。あなたみたいに将来をしっかり考えている子には特にね。」

俺は、もう一度お礼を言ってその場を後にした。

すると、入り口のあたりで見覚えのある顔を見つけた。

黙って通り過ぎるのも気まずいので、こちらから声を掛けた。

『どうも。久しぶり。』

約1年振りだ。

「あぁ、片桐君。お久しぶり。就活?」

そりゃそうだろ。就職課にいるんだから。

『うん。鈴木さんもでしょ?これから大変だよな。』

なんとまぁ、気まずい空気だ。

それも仕方ないか。今俺の目の前にいるのはさぎりの友達の鈴木祥子。

サークルでもさぎりを1番サポートしてくれている人だ。

『さぎりは、元気か?』

俺は、あえてこの質問をした。この話題には、かえって触れない方が気まずいと思ったからだ。

「うん、元気だよ。私達にはなにも言わないけど、きっと片桐君のことを気にかけてる。」

『そうか。気を遣わせてしまって悪いな。』

「んん、そんなことないよ。もうすぐでしょ?」

なるほど。約束のことは知ってるらしいな。

『うん。』

「私が言うことじゃないと思うんだけど、きっと2人は大丈夫だと思う。さぎりのこと、よろしくね。」

『うん。ありがとう』

俺は、素直に礼を言って就職課を出た。

さて、今日はもうやることもないし、久々に図書館でも行くか。
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