君との恋の物語-Red Pierce-

日月香葉

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決断

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あぁ、もうすぐ夜明けだな。

少しうとうとしたが、ほとんど眠れなかった。

身体は疲れているのに、眠ることができないのは、かなりしんどい。

メールの一通か、電話の一本でもあれば、それだけで眠れただろうに。

こんなことを言うと、自分のことだけ棚に上げて…と思うかも知れないが、

仕事や、何か事情があってそうするのと、ただ連絡をとりたくないからそうするのとでは意味は全然違う。

なにやってんだよ。こっちは必死に仕事して、都合をつけて連絡したって言うのに。

だめだ。やっぱり悪い方向にしか考えられない。

あ、明るくなってきたな。

夜が明けた。

部屋が暗いままでは考えも暗くなりそうなので、カーテンを明けた。

朝日の眩しさで目が痛くなる。

寝不足の頭はうまく働かないが、さっきまでのネガティブは少しだけ晴れた。

しょうがない。なにか事情があるんだろう。

そのうち連絡も来るだろう。

今日の授業は、午後からだ。少しでも眠っておこう。

そう思って、ベッドに戻った。

カーテンはそのままにして、また眠る。

今度はすっと眠りに入れた。



午前11時。

携帯の振動で目が覚めた。

ん?

…電話か?

手探りで携帯を探して画面を見た

!!!


さぎりからだ。

慌てて通話ボタンを押す。

『もしもし』

寝起きで掠れてしまったが、どうにか喋れた。

「もしもし」

なんだ?

「あ、ごめんね、いきなり。」

いや、連絡がないよりずっといい。

『いや。どうした?』

今更どうしたもないか。

「うん。ちょっと、連絡取れなかったから。」

こっちのセリフだ。とも言えないよな。お互い様だ。

『うん』

答えに困ったので相槌だけにした。

「…怒ってる?」

怒ってるが?

『いや。』

今それを言ってもしかたない。

「そう…」

それよりも今は、せっかく連絡取れたんだし、ちゃんと話し合うべきだ。

『怒ってはない。でも、話はしたい。』

短い沈黙

「それって、どういう?」

今度は俺が黙った。

「わかった。話そ。私も話したい」

そうか。だろうな。

『いつにする?早いほうがいいだろう?』

ここまできたら、もう逃げていられない。

「うん。詩乃、仕事は?」

なんだ?メール読んでないのか?

『落ち着いてる。だから、いつでもいい。メールに書いたと思うけど。』

少し、険悪な言い方になってしまった。

「ごめん。」

『で、どうする?』

「今日、授業は?」

『午後からある。でも、出席は問題ないから、今日なら何時でもいいぞ』

「わかった。じゃぁ、今から行っていい?」



ということで、今から来ることになった。

1時間くらいか?

まぁいい。話したいことをちゃんとまとめておこう。

今回は、俺の忙しさと、さぎりが一緒にいたいタイミングが重なってしまったのがきっかけだ。

その後も、俺の都合とさぎりが連絡してきたタイミングが合わなかっただけだ。

まとめてしまえばこんなもんだけど、こう言うことが起こるたびに連絡がつかなくなっていては先が思いやられる。

大学生活も、仕事もこれから忙しくなる。そうなってから話し合っても遅いんだ。

だから、しっかり思うことを伝えないと。

とまぁ、ここまでなら今までと何も変わらない。

今回は、もう少し現実的な話をしないとダメだろう。

電話の感じからして、さぎりも同じ結論に辿り着いているような気がする。

さて…どうなるか。

なるべく冷静でありたいとは思うが…今回ばかりはどうなるか…。

俺にとっても、かなり覚悟がいることだからな。



一旦考えをまとめたら、後はしっかり話し合いができるように部屋を片付ける。

というよりは、何かしてないと落ち着かないんだ。

こういう気持ちで1時間は、かなり長い。

部屋を綺麗にして、コーヒーを入れる準備をして、それでも時間が余ったが、後はじっとしていた。

今更どうしようもないことだし、今からするのは話し合いだ。なにも怖いことなんかない。



予想した通り、1時間後にはさぎりが到着した。

「ごめんね、急に」

だから、お互い様だろう?

『いや。コーヒー淹れて行くから、先に座っててくれ。』

なるべく重たい空気にはしたくないが、どうしたって重たくなる。

そりゃそうだ。重い話をするんだから。


『待たせたな。』

さぎりは先に座って、少し俯いていた。

「んん。ありがと」

お互い、相手が話し始めるのを待つような沈黙。

どうしても重たい空気になる。

『体調はどうだ?』

さぎりは、俯いたまま答える。

「うん。大丈夫。」

だったらなんで連絡の一つもよこさないんだ?と言いたかったが、それはもういい。

『そうか。』

話すきかっけは作ってみたが、どうしても続かない。

どうしたもんかな…?この際、ストレートに言うべきか?

いや、それでは意味がない。ちゃんと順を追って…

「私、色々考えたんだけど…」

さぎりの目に涙が浮かぶ。

『うん』

先を促しては見たものの、中々続かない。

それでも、今の俺にできることは、黙って待つことだけだった。

「私…」

続きを聞きたくない。できればすぐにでも部屋を出たい。

でも、もう逃げない。

「本当は、もっと早くに話し合いたかった。」

『うん』

そうだな。

「でも、気付いたら、なんか言いたい事がどんどん言えなくなっちゃって…」

俺も同じだよ。

「一昨日も、本当は、帰りたくなくて。忙しいのはわかるけど、ただ一緒にいたかった。」

わかっている。

「でも、一緒にいたいって言えなかった。」

あぁ。

「だって、私のために帰りなさいって言われたら…」

事実なんだけどな。でも、さぎりの立場になって考えれば、わからなくもない。

そこまで、気遣ってやれなかった俺も悪い。

「ねぇ、一緒にいたいって思うことは、そんなにわがまま?」

『そうじゃない』

でも

『俺にも、都合はある』

「そうでしょ?詩乃の都合でしょ?私は、別にそれが嫌なんて言ってない。でも、なんで私のせいみたいに言うの?」

実際そうなんだけどな。自分で自分のペースが掴めてないからこっちが考えるんだ。

どう言えばそれが伝わる?さぎりを傷つけないように、それを伝えるには…

『さぎりのせいにはしてないよ』

「でも私は…私のためって言われたら、帰るしかないじゃない」



『じゃ仮にだ。あの日帰らなかったとして、体調を崩さずにいられたか?』

また俯いて答える。

「わからない。そんなの」

だよな。

『だからだよ。』

少し顔を上げて俺の方を見る。

「え?」

言うしかない。もう。

『いいか?責めてるわけじゃないからな?』

そのまま続ける。

『さぎりは、今ちょっと調子を崩してるだろ?それは、全然悪いことじゃない。でも、調子を崩すって言うのは、自分の限界値っていうのかな?それがわかってないから起きるんじゃないか?だったら、周りにいる人が、さぎりのことをよく見てようって、無理してそうなら、休ませてあげようって、そう思うのは当然じゃないのか?誰が悪いとか、誰のせいとか、そんな話じゃないだろ?』

「だけど、私は一緒に居たかったのに。ただ一緒にいたいだけなのに。」

『それはわかるけど、あの時さぎりは顔色がよくなかったし、夕方に用事があるとも言ってた。その上俺も仕事が忙しかった。なにか一つが原因じゃないよ。』

「じゃぁなんで次の日も電話に出てくれないの?メールだって返してくれないし」

いや返しただろ。しかも

『電話に出られなかったのは仕事が忙しかったからだ。それに、メールは返しただろう?』

だめだ。こういう話の方向では。

『こうやってなんでも答えれば満足するのか?こう言う話をしたくてここにきたのか?』

「じゃ詩乃はどんな話がしたかったのよ?」

質問に質問で返す。俺が最も嫌いなことだ。

『すくなくともこんな話ではない。俺たちの今後についてだ。』

「なに?別れるの?」

さぎりが嫌悪をむき出しにしている。

いっそそれでもいいかも知れないとすら思ってしまう。

でも、それでは絶対に後悔する。
 
『さぎりこそ俺とケンカしにきたのか?少し落ち着けよ』

「なんで詩乃はそんなに冷静なの?私がどういうつもりで」

『さぎりが感情的になってるからだ。2人とも感情的になっても話し合いにならないだろ』

「そうやってまた私のせいにするの?」

『してない。落ち着けって言ってるだけだろ』

さぎりは俯いて黙り込む。

『そうやって感情をぶつけてくることも、俺が全くダメージを受けてないと思うか?』

俯いたままだが、少し反応があったようだ。

『感情のままに言葉をぶつけられれば傷つくこともある。忙しい時に拗ねられたら負担に思うことだって、少しはある。それでも俺はさぎりの彼氏だ。だから耐えるし、こうやって話し合う時間だって作る。それを、ただ感情をぶつけて別れるって結末にしてしまっていいのか?』

考えてくれ。もう感情剥き出しの言葉はごめんだ。

「…」

俺は、さぎりが話し始めるまで待つことにした。

「……」

どうする?

「………ごめん」

内心、ホッと溜め息。

『いや、いいよ。誰にだって感情的になることはある。』

『俺が、なんでもさぎりのせいにしているわけじゃないことはわかってくれるよな?』

「うん」

さて、ここからが本題だ。正直気が進まないけど、しょうがない。

『でも少し距離を置く必要はありそうだな。』

ハッと顔をあげるさぎり

「え?」

『今回みたいなことは、これからも起きると思うし、その度にこうやって話し合えるかどうかも、ちょっとわからない』

「なん…」

なんで?なんて聞かないよな。

『さっきも言った通り、俺だって辛いと感じることがある。もちろんいつだってさぎりの味方だし、支えになりたい。でも、俺も去年よりずっと忙しくなりそうだし、余裕がない時だってあるんだよ。』

込み上げるものがあった。当然だよな。一呼吸おいて続ける。

『だから、一度距離をおいて、お互いやるべきをしっかりやるべきだとおもうんだ。』

さぎりは、ついに泣き出した。ごめんな。こんな結論しか出せなくて。

『というより、お互い、まず自分のことを自分だけでできないといけないっていうか』

つまり

『自立しなきゃいけないと思うんだ。』

「それも…私の…せい…?」

さぎりが搾り出すように言う。

『違うよ。お互いにって言っただろ?俺も、さぎりに甘えすぎてたとこ、あると思うんだ。』

「そんなこと…」

『あるんだって。すごく嫌な言い方になるが、俺は、さぎりはいつでも俺優先でいてくれると思っていた。理由は簡単だ。俺より忙しくないから。最低だと思う。でも俺は、忙しくしているうちにそう言う考え方をしていた。だから、忙しければ、また今度。手が空いて連絡したらすぐに返してくれるもんだと思っていた。これが、今回の俺の悪かったことだ。』

『ごめんな。俺がもう少しうまくバランスが取れたらよかった。』

「そんなことないって!私が、不安定だから…」

俺は、さぎりを抱きしめた。

『そうじゃない。それは誰のせいでもない。俺たちがいい距離感で付き合えなくなってしまったのだって、お互いに原因はあるけど、どちらも悪くないんだよ。』

もう少し、大人だったら…。でもそれは、今考えてもダメなんだ。

「別れるのは、いや…置いていかないで。」

そうじゃない。

『そうじゃない。』

「だって、距離を置くって…。」

そうだ。ちゃんと、距離をおこう。

『距離は、置かないとダメだと思う。だけど、その先にあるのは、必ずしもわかれじゃないだろ?』

『俺は、さぎりを置いて行ったりしない。』

その辺りは前の彼氏と一緒にしてもらっては困る。

『お互い、この1年間を自分の力で乗り越えて、自立できたら、もう一度やり直そう。』

「1年なんて…そんなに待たせられない。」

待たせられない、か。

『俺が待つんじゃない。2人で目指すんだよ。』

本当はこの手を離したくない。どこにも行くなと言いたい。

「私…耐えられるかな…」

『できるさ。さぎりだって、自分のやるべきことはわかっているだろ?』

「それは、そうだけど…。」

『うん。』

沈黙。さぎりは深く考え込んでいるみたいだ。

「詩乃」

『ん?』

「私も、私なりに考えてきたの。聞いてくれる?今度は、ちゃんと冷静に話すから。」

『わかった。聞くよ。』
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