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◇◇◇
三年後――
朝八時、カーテンを勢いよく開けられた。窓から太陽の光が差し込み、僕の顔を照らす。僕は眩しさに顔をしかめ、布団に潜り込んだ。
だが――
「起きてくださぁい、ナスト様!! 朝ですよ!! あーさーでーすーよー!!」
リングが躊躇いなく布団をめくり、僕の耳のそばで大声を出した。
「うぅぅん……」
「もー! ヴァルア様はとっくにお食事を済ませましたよ!? ナスト様も起きてくださぁぁい!!」
「やぁぁ……あと二時間……」
「そこはせめてあと二十分とかにしてください!!」
「じゃああと二十分……」
「ダメでーす! 起きてくださーい!!」
こうも大声で叫ばれると、いやでも眠気が覚めてしまう。僕はだらだらと上体を起こし、リングが用意した紅茶に口を付けた。
「はぁ……また安眠を妨げられた……」
この三年でリングはすっかり活発な子になった。今ではぐんと背が伸び、体つきもしっかりしてきた。もうすぐ僕の背丈を追い越されそうだし、体つきに関してはもう負けている。
僕がぼうっと紅茶を啜っていると、慌てたアリスが部屋に入って来た。
「ナスト様!? まだそのような格好でいらしたんですか!? もう出発のお時間ですよ!!」
「えっ?」
「今日はヴァルア様と町に出かける予定でしたでしょう!?」
「あっ」
「早く支度をしてくださいっ! 服はもうご自分で着替えられますね!?」
「着替えられるよ!! 毎回それ聞くのやめてよ!」
この三年で僕が成長したことは、自分の体に触れられるようになったことだ。服も自分で着替えられるし、用も一人で足せる。……用を足せるようになったことで、ヴァルア様は少しがっかりしていたが。時々ヴァルア様に手伝わせてあげるととても喜ぶのだ。それが今では少し複雑な気分になる。
僕は急いで支度をして、ヴァルア様が待っている馬車に乗り込んだ。今日は使用人抜きの、二人だけのお出かけだ。
「おはよう。よく眠れたかな」
ヴァルア様は僕の手を持ち上げ、薬指にはめた指輪にキスをした。
「おはようございます、ヴァルア様。はい、また今日もリングに叩き起こされましたが」
「君は日に日に寝起きが悪くなっているよね。なぜ?」
「理由をお教えしましょうか? あなたが朝まで抱くからですよ」
「ふむ。納得した」
最近はヴァルア様ともやっと会話が成立するようになってきて、それが嬉しい。
到着したところは、海岸沿いの美しい町だった。風が吹くとどこからか海と花の香りがする。人々の明るい声が絶え間なく町を賑やかしていて、歩いているだけで楽しい。
ヴァルア様は屋台で果物を買ってくれた。二人並んで果物をかじり、目的地に向けて散歩する。
「良い町ですね。アリスとリングも連れてきたかった」
「今度連れて来ればいいさ。今日はお土産を買って帰るのはどうかな」
「わ。そうしたいです。嬉しい」
僕が顔を輝かせると、ヴァルア様は嬉しそうに笑い、僕をじっと見つめる。
「な、なんですか」
「いやあ、すっかり人らしくなったなと思ってね」
「僕は元から人ですが」
「言い換えようか。すっかり年相応の反応をするようになったなあと」
「それって昔の方が大人っぽかったってことですか?」
「うーん。そうとも言えるし、違うとも言えるし……」
「要領を得ませんね。そもそも僕は、自分が何歳かもはっきり分かりませんし」
「思っている以上に幼かったらまずいから、分からないままでいいよ」
実は百歳を超えていたりして、なんて冗談を言い合いながら、僕たちは散歩を楽しんだ。
「さて」
町の教会の入り口に立った僕たちは雑談を止め、深く帽子をかぶった。
「今回の調査対象については頭に入っているかな」
ヴァルア様の質問に、僕は軽々と答えた。
「調査対象はブレアン司教、齢六十。献金の横領と使用人虐待の疑いがあります」
「完璧だね。さすがは俺の愛する人だ」
「そこは片腕と言ってください」
聖職者を辞めた今の僕は、ヴァルア様の恋人であり、部下でもある。僕やアリスたちのように、歪になった教会で苦しんでいる人々の力に少しでもなりたいと思い、この道を選んだ。まあ、ほとんどは人ではなく金絡みの案件なのだが。
ヴァルア様は僕を一瞥し、さらに深く帽子をかぶらせた。
「もっと顔を隠して。美しすぎて悪目立ちするから」
「はあ。美人は辛いですね」
「言うようになったねえ。おしゃべりはこのくらいにして、行くよ」
「はい」
ヴァルア様は僕に愛を教えてくれると言った。だが実際は、愛も、生き方も、僕自身を愛する方法も、全て彼に教えてもらった。それに、歪んだ認知を正してくれたのも彼だ。
僕は穢れてなんかいない。そう自信を持って言えるようになったのも、ヴァルア様のおかげ。
【清らかになるために司祭様に犯されています end】
三年後――
朝八時、カーテンを勢いよく開けられた。窓から太陽の光が差し込み、僕の顔を照らす。僕は眩しさに顔をしかめ、布団に潜り込んだ。
だが――
「起きてくださぁい、ナスト様!! 朝ですよ!! あーさーでーすーよー!!」
リングが躊躇いなく布団をめくり、僕の耳のそばで大声を出した。
「うぅぅん……」
「もー! ヴァルア様はとっくにお食事を済ませましたよ!? ナスト様も起きてくださぁぁい!!」
「やぁぁ……あと二時間……」
「そこはせめてあと二十分とかにしてください!!」
「じゃああと二十分……」
「ダメでーす! 起きてくださーい!!」
こうも大声で叫ばれると、いやでも眠気が覚めてしまう。僕はだらだらと上体を起こし、リングが用意した紅茶に口を付けた。
「はぁ……また安眠を妨げられた……」
この三年でリングはすっかり活発な子になった。今ではぐんと背が伸び、体つきもしっかりしてきた。もうすぐ僕の背丈を追い越されそうだし、体つきに関してはもう負けている。
僕がぼうっと紅茶を啜っていると、慌てたアリスが部屋に入って来た。
「ナスト様!? まだそのような格好でいらしたんですか!? もう出発のお時間ですよ!!」
「えっ?」
「今日はヴァルア様と町に出かける予定でしたでしょう!?」
「あっ」
「早く支度をしてくださいっ! 服はもうご自分で着替えられますね!?」
「着替えられるよ!! 毎回それ聞くのやめてよ!」
この三年で僕が成長したことは、自分の体に触れられるようになったことだ。服も自分で着替えられるし、用も一人で足せる。……用を足せるようになったことで、ヴァルア様は少しがっかりしていたが。時々ヴァルア様に手伝わせてあげるととても喜ぶのだ。それが今では少し複雑な気分になる。
僕は急いで支度をして、ヴァルア様が待っている馬車に乗り込んだ。今日は使用人抜きの、二人だけのお出かけだ。
「おはよう。よく眠れたかな」
ヴァルア様は僕の手を持ち上げ、薬指にはめた指輪にキスをした。
「おはようございます、ヴァルア様。はい、また今日もリングに叩き起こされましたが」
「君は日に日に寝起きが悪くなっているよね。なぜ?」
「理由をお教えしましょうか? あなたが朝まで抱くからですよ」
「ふむ。納得した」
最近はヴァルア様ともやっと会話が成立するようになってきて、それが嬉しい。
到着したところは、海岸沿いの美しい町だった。風が吹くとどこからか海と花の香りがする。人々の明るい声が絶え間なく町を賑やかしていて、歩いているだけで楽しい。
ヴァルア様は屋台で果物を買ってくれた。二人並んで果物をかじり、目的地に向けて散歩する。
「良い町ですね。アリスとリングも連れてきたかった」
「今度連れて来ればいいさ。今日はお土産を買って帰るのはどうかな」
「わ。そうしたいです。嬉しい」
僕が顔を輝かせると、ヴァルア様は嬉しそうに笑い、僕をじっと見つめる。
「な、なんですか」
「いやあ、すっかり人らしくなったなと思ってね」
「僕は元から人ですが」
「言い換えようか。すっかり年相応の反応をするようになったなあと」
「それって昔の方が大人っぽかったってことですか?」
「うーん。そうとも言えるし、違うとも言えるし……」
「要領を得ませんね。そもそも僕は、自分が何歳かもはっきり分かりませんし」
「思っている以上に幼かったらまずいから、分からないままでいいよ」
実は百歳を超えていたりして、なんて冗談を言い合いながら、僕たちは散歩を楽しんだ。
「さて」
町の教会の入り口に立った僕たちは雑談を止め、深く帽子をかぶった。
「今回の調査対象については頭に入っているかな」
ヴァルア様の質問に、僕は軽々と答えた。
「調査対象はブレアン司教、齢六十。献金の横領と使用人虐待の疑いがあります」
「完璧だね。さすがは俺の愛する人だ」
「そこは片腕と言ってください」
聖職者を辞めた今の僕は、ヴァルア様の恋人であり、部下でもある。僕やアリスたちのように、歪になった教会で苦しんでいる人々の力に少しでもなりたいと思い、この道を選んだ。まあ、ほとんどは人ではなく金絡みの案件なのだが。
ヴァルア様は僕を一瞥し、さらに深く帽子をかぶらせた。
「もっと顔を隠して。美しすぎて悪目立ちするから」
「はあ。美人は辛いですね」
「言うようになったねえ。おしゃべりはこのくらいにして、行くよ」
「はい」
ヴァルア様は僕に愛を教えてくれると言った。だが実際は、愛も、生き方も、僕自身を愛する方法も、全て彼に教えてもらった。それに、歪んだ認知を正してくれたのも彼だ。
僕は穢れてなんかいない。そう自信を持って言えるようになったのも、ヴァルア様のおかげ。
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