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23話
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◇◇◇
あれから何度目かの夜が明けた。金属ペニスをかきむしっていた僕は、窓から差し込んできた太陽の光を見上げる。
「朝……」
僕は吐息をつき、微かに顔をほころばせた。
「やっと来た……」
ずっと今日を待ちわびていた。一週間ぶりにヴァルア様に会える、この日を。
久しぶりに礼拝堂を抜け出して、物置部屋にこそこそ入る。中にはすでにヴァルア様が待っていた。駆け寄る僕に、ヴァルア様ははじめ笑みを浮かべていたが、だんだんと眉間にしわが寄る。
僕が目の前で立ち止まるやいなや、ヴァルア様は僕の肩を掴んだ。
「どうしたんだい!?」
「えっ……?」
「司祭に何をされた!?」
「……っ」
一週間前の僕とはまるで別人だ、とヴァルア様は言った。目には深い隈が彫られ、頬はげっそりやつれているとも。
「それだけじゃないっ……。なんだこの異様な匂いは……!」
「えっ……えっと、くさいですか、僕……」
「違う! 甘くて……なんというか、誘惑的な匂いがする……」
きっとあの媚薬のせいだ。あの薬を打った僕は、体から甘い匂いがするのだと司祭様も言っていた。その匂いを嗅いだら余計に興奮するとも。
僕は打ち明けるのをためらった。この話をするということは、僕が司祭様の前で淫らに乱れていることも言わないといけない。そんな僕を、ヴァルア様に知られたくなかった。
「いや……知っているぞ、この匂い……。一度嗅いだことがある……」
ヴァルア様が低く唸った。
「これは……まさか、我が国では禁薬とされている媚薬では……?」
「……」
「そうなのかい?」
そこまで勘付いているのなら、ごまかしても意味はなさそうだ。
「禁薬かどうかは分かりません……」
「媚薬ではあるんだね?」
僕は小さく頷いた。肩を掴んでいるヴァルア様の手に力が入る。
「もし俺が考えている薬であるならば、あれは……非常に危険な媚薬だ。元は我々と異なる体の構造をしたヒト族のフェロモンだ。俺たちのようなヒト族に使うと人体に危害が及びかねない」
ヴァルア様はひどく動揺しているようだった。彼は震える手で僕の脈をはかりながら、いくつか質問した。
「これを打たれたのは昨晩?」
「はい、昨晩も打たれました」
「昨晩も? 昨晩以外にも打たれたことが?」
「はい……一週間前から毎日……」
「毎日だって!? 信じられない!! 司祭はなぜそんなことを!?」
「僕が不能気味だったので、それを解決するために――」
「それだけの理由で、こんな危険な薬を毎晩君に打っていたのか!?」
ヴァルア様が拳を壁に打ち付けた。こんなに怒っているのを見るのは初めてだ。贈り物を投げ捨てたときですら、笑い飛ばしてくれたのに。
「あの、ヴァルア様。僕は大丈夫ですよ。普段と変わりありません」
「変わりありません? 君、最近鏡で自分のことを見たかい?」
「はい、まあ……」
「はぁー……。まあいい。少し体を見せてくれ」
「あ、いや……」
「君の体は何度も見ている。今さら恥ずかしがることもないだろう」
ヴァルア様は僕を抱え上げ、いつものようにテーブルの上に座らせた。まだためらっている僕を無視して、力任せに両脚を広げる。
「……なんだ、これは」
ヴァルア様の目に入ったのは、愛液が垂れているふたつの貞操帯だった。
僕は恥ずかしさのあまり顔を両手で隠す。
「あ、あの……これは……」
「俺のことがバレたから?」
「違います……。媚薬を打たれたあと、僕は朝まで症状がおさまらないんです……。だから司祭様がお眠りになったあと、僕が自分で体を刺激しないよう、貞操帯を付けていて――」
「……」
僕が話し終えてもヴァルア様は黙ったままだ。
貞操帯からカウパーと愛液をこんなに漏らしているなんて、はしたないにもほどがある。さすがのヴァルア様でも呆れたに違いない。
「ご……ごめんなさい……」
「なぜ君が謝る」
「嫌いましたか……」
「ああ。そうだな。つくづく嫌になったよ」
「っ……」
分かっていたにしても、実際に言葉にされると胸が痛い。
「ナスト」
返事をするのが怖い。目を合わせられない。
そんな僕の顔を覗き込んだヴァルア様の表情は、真剣だった。
「そんなことをされても、君は聖職者であることに執着するのか?」
「え……?」
「こんなことをする司祭を、見て見ぬふりをするファリスティア教会を、それでも君は庇うのか?」
「あの……ヴァルア様、いったい何をおっしゃって……」
ヴァルア様はめくりあげていた祭服を元に戻し、僕の隣に腰掛けた。
「全て話すよ。今まで俺が君に隠していたこともね」
あれから何度目かの夜が明けた。金属ペニスをかきむしっていた僕は、窓から差し込んできた太陽の光を見上げる。
「朝……」
僕は吐息をつき、微かに顔をほころばせた。
「やっと来た……」
ずっと今日を待ちわびていた。一週間ぶりにヴァルア様に会える、この日を。
久しぶりに礼拝堂を抜け出して、物置部屋にこそこそ入る。中にはすでにヴァルア様が待っていた。駆け寄る僕に、ヴァルア様ははじめ笑みを浮かべていたが、だんだんと眉間にしわが寄る。
僕が目の前で立ち止まるやいなや、ヴァルア様は僕の肩を掴んだ。
「どうしたんだい!?」
「えっ……?」
「司祭に何をされた!?」
「……っ」
一週間前の僕とはまるで別人だ、とヴァルア様は言った。目には深い隈が彫られ、頬はげっそりやつれているとも。
「それだけじゃないっ……。なんだこの異様な匂いは……!」
「えっ……えっと、くさいですか、僕……」
「違う! 甘くて……なんというか、誘惑的な匂いがする……」
きっとあの媚薬のせいだ。あの薬を打った僕は、体から甘い匂いがするのだと司祭様も言っていた。その匂いを嗅いだら余計に興奮するとも。
僕は打ち明けるのをためらった。この話をするということは、僕が司祭様の前で淫らに乱れていることも言わないといけない。そんな僕を、ヴァルア様に知られたくなかった。
「いや……知っているぞ、この匂い……。一度嗅いだことがある……」
ヴァルア様が低く唸った。
「これは……まさか、我が国では禁薬とされている媚薬では……?」
「……」
「そうなのかい?」
そこまで勘付いているのなら、ごまかしても意味はなさそうだ。
「禁薬かどうかは分かりません……」
「媚薬ではあるんだね?」
僕は小さく頷いた。肩を掴んでいるヴァルア様の手に力が入る。
「もし俺が考えている薬であるならば、あれは……非常に危険な媚薬だ。元は我々と異なる体の構造をしたヒト族のフェロモンだ。俺たちのようなヒト族に使うと人体に危害が及びかねない」
ヴァルア様はひどく動揺しているようだった。彼は震える手で僕の脈をはかりながら、いくつか質問した。
「これを打たれたのは昨晩?」
「はい、昨晩も打たれました」
「昨晩も? 昨晩以外にも打たれたことが?」
「はい……一週間前から毎日……」
「毎日だって!? 信じられない!! 司祭はなぜそんなことを!?」
「僕が不能気味だったので、それを解決するために――」
「それだけの理由で、こんな危険な薬を毎晩君に打っていたのか!?」
ヴァルア様が拳を壁に打ち付けた。こんなに怒っているのを見るのは初めてだ。贈り物を投げ捨てたときですら、笑い飛ばしてくれたのに。
「あの、ヴァルア様。僕は大丈夫ですよ。普段と変わりありません」
「変わりありません? 君、最近鏡で自分のことを見たかい?」
「はい、まあ……」
「はぁー……。まあいい。少し体を見せてくれ」
「あ、いや……」
「君の体は何度も見ている。今さら恥ずかしがることもないだろう」
ヴァルア様は僕を抱え上げ、いつものようにテーブルの上に座らせた。まだためらっている僕を無視して、力任せに両脚を広げる。
「……なんだ、これは」
ヴァルア様の目に入ったのは、愛液が垂れているふたつの貞操帯だった。
僕は恥ずかしさのあまり顔を両手で隠す。
「あ、あの……これは……」
「俺のことがバレたから?」
「違います……。媚薬を打たれたあと、僕は朝まで症状がおさまらないんです……。だから司祭様がお眠りになったあと、僕が自分で体を刺激しないよう、貞操帯を付けていて――」
「……」
僕が話し終えてもヴァルア様は黙ったままだ。
貞操帯からカウパーと愛液をこんなに漏らしているなんて、はしたないにもほどがある。さすがのヴァルア様でも呆れたに違いない。
「ご……ごめんなさい……」
「なぜ君が謝る」
「嫌いましたか……」
「ああ。そうだな。つくづく嫌になったよ」
「っ……」
分かっていたにしても、実際に言葉にされると胸が痛い。
「ナスト」
返事をするのが怖い。目を合わせられない。
そんな僕の顔を覗き込んだヴァルア様の表情は、真剣だった。
「そんなことをされても、君は聖職者であることに執着するのか?」
「え……?」
「こんなことをする司祭を、見て見ぬふりをするファリスティア教会を、それでも君は庇うのか?」
「あの……ヴァルア様、いったい何をおっしゃって……」
ヴァルア様はめくりあげていた祭服を元に戻し、僕の隣に腰掛けた。
「全て話すよ。今まで俺が君に隠していたこともね」
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