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7話

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 ◇◇◇

「おやおや。また会ったね」
「……」

 礼拝堂の蠟燭を灯している僕に声をかけたのは、昨日のミサで大金を献金した男性だった。
 僕は軽く会釈をしてから作業に戻る。

「はは。冷たいな」
「今日はミサの日じゃありませんよ」
「関係ないさ。君に会いに来ただけだし」
「そういう理由ならば、なおさらお帰りください」

 素っ気なく返しても、男の人はおかまいなしだ。

「んー。やはり美しい。そりゃあ噂にもなるな」
「噂?」
「君、知らないのかい? この町中……いや、国中で噂になっているよ」
「僕のことがですか?」
「君以外に誰がいる?」
「美しい侍者なら他にもたくさんいます」
「はは。君以外ありえない」

 この人は一体何を言っているんだろう。僕が美しいなんて、それこそありえない。僕は悪と穢れに染まった醜い存在なのに。司祭様のおかげで人の形を保てているだけだ。

「それなら司祭様の方がよっぽど美しいでしょう」
「は?」
「比べるのもおこがましいですが」

 男の人が静かになった。良かった。これで作業に専念できる――と思っていたのに、また口を開いた。

「君、それ本気で言ってるのかい?」
「なにがですか?」
「司祭様が美しいなんて」
「ええ」

 何を当たり前のこと言っているんだろう。本当にこの人は大丈夫なのか。一度外科医に診てもらった方がいいのではないだろうか。

「ねえ、君」
「はあー……」

 まだ話しかけてくるのか。礼拝者には優しく丁寧に接しろと言いつけられているが、思わず大きなため息を吐いてしまった。

「司祭様って、昨日説教してた人だよね?」
「はい。カルファス司祭様といいます」
「……」

 また静かになった。それなのにここから離れるつもりはないらしい。なんなんだ、この人は。

「もう一度聞くけど、あのハゲた小太りの……お世辞にも端正な顔立ちとは言えないおっさんと君だったら、君はあのおっさんの方が美しいと思うのかい?」
「……司祭様のことを、今なんと?」
「あ、あはは。いや、えっと、なんでもないよ。だからそんな顔で俺を見ないでくれよ」

 これだから外見でしか人を判断できない人は困る。それにしてもなんてことを言うんだ、この男は。僕と司祭様を比べるだけでも、司祭様に対する侮辱なのに、その上司祭様の外見を貶めるなんて。
 急速に怒りの感情が沸き上がってきた。頭に血が上っただけじゃなく、誤作動でバカになっているペニスにまで血が集まってしまう。

「あ……」

 急激な感情の起伏と血液の移動によって――さらにひどく圧迫されたペニスの痛みも相まって――一瞬意識が朦朧となり、体がふらついた。

「おっ……と」
「――っ!!」

 気が付いたときには、僕は男の人に抱きとめられていた。

「はっ、離れてください!!」
「いやあ、寄りかかって来たのは君の方なんだけどなあ」
「~~……」

 それより、と男が僕に顔を近づける。

「具合悪いんじゃない? さっきまで顔が真っ赤だったのに、今じゃ真っ青だよ」
「問題ありません。大丈夫です」
「いや、でもなんか変だよ、君。昨日も体調が悪そうだったけど、今日はさらに――」
「大丈夫です!! それより僕から手を放してください!!」

 またこの人に触れられてしまった。穢れが僕を侵食していくのが分かる。ダメだ。髪に触れられただけであんなにも穢れてしまったんだから、こんなに体に触れられてしまったら、僕はもう祭服を身に着ける資格がなくなってしまう。いやもしかしたらすでにそんな資格がなくなるほど穢れたあとかもしれない――

 そんなことを考えると、絶望で体から力が抜けてしまった。
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