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貴族に飼われて1年が経ちました
【39話】ちょっと見直した。ちょっとだけね
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僕たちが向かったのはカリューという町。1年前、スルトが僕を拾った場所だ。
エドガーとスルトに気付くと、住民全員が跪いて敬意を示した。うわぁ…この人たち本当に偉い人だったんだあ…。
馬でここまで来たけれど、僕は馬に乗れない。だからピーターの馬に乗せてもらった。本当は兄弟が僕を乗せたがったんだけど、僕の取り合いにラチがあかなかったし、なによりここらで一番偉い人が僕と一緒に馬に乗ってたら不審がられるという理由でピーターを選んだ。チラチラとにらみつける兄弟の視線にピーターが震えあがっていた。
カリューは大きな町で、貧しい人も裕福な人も一緒くたになって住んでいるところだった。汚らしい店もあれば、キラキラした清潔な店もある。いい町なのかどうか僕には分からないけど、住民の人たちはみんな幸せそうに見えた。
「しゅるとさま!えどがぁさま!」
小さい女の子が貴族兄弟の前に出て馬を止めさせた。彼女の母親らしき人が顔を真っ青にして「こら!!やめなさい!!」と慌てて少女の手を引く。
「申し訳ありません!!無礼な真似を…!」
「かまわない。そんなに震えるな」
「お嬢さん、どうしたんだい?」
スルトは母親に優しい笑みを浮かべ、エドガーは少女に対して微笑んだ。母親はホッとした顔をして「ありがとうござます…」と呟いた。
「あのね!お花あげる!」
「おお、ムギセンノウだね。綺麗だ。ありがとう」
エドガーが馬を降りて少女が差し出した花を受け取る。しかし花の名前を聞いた母親がまた慌てふためいた。
「こら!ムギセンノウなんて毒のある花を渡しちゃだめだろう!…申し訳ございませんエドガー様…この子は何も分かっておらず渡したのです…決してあなた様に敵意を抱いているわけでは…」
「分かっているよ。この子の笑顔を見たら敵意を抱いていないことなんて」
エドガーは母親を安心させたあと、少女の頭をそっと撫でた。
「僕の部屋に飾るよ。枯れる前に押し花にしてしおりにしようかな」
「ほんとうに?!うれしい!!」
「少女、俺にはなにかないのか?」
スルトも馬を降り少女の頭に手を置いた。今まで見たことがないような柔らかい表情だ。
「しゅるとさまにはねえ!これあげる!」
「どれどれ?おお、キイチゴか。いただこう」
少女の手からキイチゴを取り、口に放り込む。スルトは「うまい」と言ってにっこり笑った。
「ありがとう。これで今日も一日がんばれる」
「ほんと?!やったあ!」
少女がスルトに抱きついた。スルトは彼女を持ち上げ肩車をする。少女は大喜びで、スルトの髪をひっぱりながらはしゃいだ。それを見ている母親は気が気でないようで、口元に手を当てながら「ああ…あの子ったらスルトさまの髪を引っ張って…!」と冷や汗を流している。少女としばらく戯れたあと、エドガーとスルトは馬に乗り、彼女たちに見送られながら先へ進んだ。行く先々でも住民は彼らを歓迎し、袋いっぱいの野菜や果物などを渡しに来た。
「どうだ?ケイゴ」
ピーターが自慢げに僕を見た。僕は小声でそれに返す。
「正直、びっくりした。いつもと全然ちがうし…。住民にすごく人気あるし、住民みんなのこと思いやってるんだなって…」
「だろ?まあ、ケーゴが毎日見てる彼らは…その、ちょっとアレだけど。本当に民のことを大切にしているんだ。この町に住む住民は幸せだよ」
「うん。本当に…幸せそうだ」
その後、僕たちは店に入って買い物をした。…ほとんど僕のためのものだったけど。服屋で上質なバスローブや普段着を購入したり、僕の好きなお菓子を買ったり、とにかく僕が好きな物をそれはもうたくさん。店の人はお代なんていらないと言い張っていたけど、エドガーとスルトは首を横に振って多めのお金を支払っていた。
僕が一番行きたかったところにも連れて行ってくれた。茶葉専門店だ。僕はそれほどお茶を淹れるのは上手くないけど、部屋でほとんど籠ってる身でできることってそれしかなくて、今では部屋にいろんな種類の茶葉を揃えていた。
「わあ!」
店の中には数えられないほどの茶葉が並んでいた。そこにはなんと、緑茶まで置いていた…!ああ!異世界で緑茶に出会える日が来るなんて…!!僕はさんざん悩んだ末に、緑茶を山ほどと、あと10種類くらいの異国の茶葉を購入した。(スルトに買ってもらった)
上機嫌で店を出ると、あたりはもう暗くなっていた。
「さて、もう町は一周したか?」
「うん。そろそろ宿に戻ろうか」
エドガーとスルトは伸びをしてから僕を向いてニヤリと笑った。こいつら、手加減しない気だ。僕がちらりとピーターの様子を伺うと、仏のような顔をして僕を見ていた。ガンバッテネ、オレモガンバルという心の声が聞こえた気がした。
そうだ、メイドが言っていた。「宿を一室とっております」ー…。つまり、ピーターも同じ部屋で過ごさないといけないということ。僕たちのアレを、一晩中見てないといけないということ…。…ピーター、がんばれ…。
エドガーとスルトに気付くと、住民全員が跪いて敬意を示した。うわぁ…この人たち本当に偉い人だったんだあ…。
馬でここまで来たけれど、僕は馬に乗れない。だからピーターの馬に乗せてもらった。本当は兄弟が僕を乗せたがったんだけど、僕の取り合いにラチがあかなかったし、なによりここらで一番偉い人が僕と一緒に馬に乗ってたら不審がられるという理由でピーターを選んだ。チラチラとにらみつける兄弟の視線にピーターが震えあがっていた。
カリューは大きな町で、貧しい人も裕福な人も一緒くたになって住んでいるところだった。汚らしい店もあれば、キラキラした清潔な店もある。いい町なのかどうか僕には分からないけど、住民の人たちはみんな幸せそうに見えた。
「しゅるとさま!えどがぁさま!」
小さい女の子が貴族兄弟の前に出て馬を止めさせた。彼女の母親らしき人が顔を真っ青にして「こら!!やめなさい!!」と慌てて少女の手を引く。
「申し訳ありません!!無礼な真似を…!」
「かまわない。そんなに震えるな」
「お嬢さん、どうしたんだい?」
スルトは母親に優しい笑みを浮かべ、エドガーは少女に対して微笑んだ。母親はホッとした顔をして「ありがとうござます…」と呟いた。
「あのね!お花あげる!」
「おお、ムギセンノウだね。綺麗だ。ありがとう」
エドガーが馬を降りて少女が差し出した花を受け取る。しかし花の名前を聞いた母親がまた慌てふためいた。
「こら!ムギセンノウなんて毒のある花を渡しちゃだめだろう!…申し訳ございませんエドガー様…この子は何も分かっておらず渡したのです…決してあなた様に敵意を抱いているわけでは…」
「分かっているよ。この子の笑顔を見たら敵意を抱いていないことなんて」
エドガーは母親を安心させたあと、少女の頭をそっと撫でた。
「僕の部屋に飾るよ。枯れる前に押し花にしてしおりにしようかな」
「ほんとうに?!うれしい!!」
「少女、俺にはなにかないのか?」
スルトも馬を降り少女の頭に手を置いた。今まで見たことがないような柔らかい表情だ。
「しゅるとさまにはねえ!これあげる!」
「どれどれ?おお、キイチゴか。いただこう」
少女の手からキイチゴを取り、口に放り込む。スルトは「うまい」と言ってにっこり笑った。
「ありがとう。これで今日も一日がんばれる」
「ほんと?!やったあ!」
少女がスルトに抱きついた。スルトは彼女を持ち上げ肩車をする。少女は大喜びで、スルトの髪をひっぱりながらはしゃいだ。それを見ている母親は気が気でないようで、口元に手を当てながら「ああ…あの子ったらスルトさまの髪を引っ張って…!」と冷や汗を流している。少女としばらく戯れたあと、エドガーとスルトは馬に乗り、彼女たちに見送られながら先へ進んだ。行く先々でも住民は彼らを歓迎し、袋いっぱいの野菜や果物などを渡しに来た。
「どうだ?ケイゴ」
ピーターが自慢げに僕を見た。僕は小声でそれに返す。
「正直、びっくりした。いつもと全然ちがうし…。住民にすごく人気あるし、住民みんなのこと思いやってるんだなって…」
「だろ?まあ、ケーゴが毎日見てる彼らは…その、ちょっとアレだけど。本当に民のことを大切にしているんだ。この町に住む住民は幸せだよ」
「うん。本当に…幸せそうだ」
その後、僕たちは店に入って買い物をした。…ほとんど僕のためのものだったけど。服屋で上質なバスローブや普段着を購入したり、僕の好きなお菓子を買ったり、とにかく僕が好きな物をそれはもうたくさん。店の人はお代なんていらないと言い張っていたけど、エドガーとスルトは首を横に振って多めのお金を支払っていた。
僕が一番行きたかったところにも連れて行ってくれた。茶葉専門店だ。僕はそれほどお茶を淹れるのは上手くないけど、部屋でほとんど籠ってる身でできることってそれしかなくて、今では部屋にいろんな種類の茶葉を揃えていた。
「わあ!」
店の中には数えられないほどの茶葉が並んでいた。そこにはなんと、緑茶まで置いていた…!ああ!異世界で緑茶に出会える日が来るなんて…!!僕はさんざん悩んだ末に、緑茶を山ほどと、あと10種類くらいの異国の茶葉を購入した。(スルトに買ってもらった)
上機嫌で店を出ると、あたりはもう暗くなっていた。
「さて、もう町は一周したか?」
「うん。そろそろ宿に戻ろうか」
エドガーとスルトは伸びをしてから僕を向いてニヤリと笑った。こいつら、手加減しない気だ。僕がちらりとピーターの様子を伺うと、仏のような顔をして僕を見ていた。ガンバッテネ、オレモガンバルという心の声が聞こえた気がした。
そうだ、メイドが言っていた。「宿を一室とっております」ー…。つまり、ピーターも同じ部屋で過ごさないといけないということ。僕たちのアレを、一晩中見てないといけないということ…。…ピーター、がんばれ…。
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