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おまけ:夏の北海道

北海道旅行-5

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 ◇◇◇
(月見里side)

 妙に寝覚めが良いと思った。体は軽いし、気分も爽快。
 溜め込んでいた疲れとストレスが一気に吹き飛んだような、そんな感覚だった。

「これがラベンダーの効果か……すごいな……!」

 俺は本気でそう思い、感心していた。
 しかし、隣で寝ていた小鳥遊が枕に顔をうずめたまま呻いた。

「お前……覚えてないのか……」
「ん? なにが?」
「まじかよ……。お前のそういうとこ嫌い……」
「なんでだよ! 俺が何したって言うんだ!」

 小鳥遊はジトッとした目で俺を睨み、布団をめくった。
 小鳥遊が指さした先には、しぼみきってショボショボになっている小鳥遊のペニスがあった。

「えーっと……? どうした? 小鳥遊のちんこ、元気ないけど」
「自分のケツに聞け」
「? ……!?」

 促されるまま自分の下半身に目を向け、二度見した。
 俺の尻から白濁した液体が溢れている。シーツにもシミが。

「お前……寝てる俺のこと犯しただろ……」
「ふざけるな!! 俺はお前と違ってそんなことはしません」
「なんだ……。ちょっと期待したのに」
「されたいのかよ……」

 小鳥遊は深いため息を吐き、酔っている俺に精液が枯れ果てるまで犯されたのだと言った。
 真相を知った俺は、ベッドの上で正座して小鳥遊に平謝りした。

「すみませんでした……」
「精液吸い尽くしたら満足して俺の腹の上で寝落ちするし……。お前の前世は淫魔かなにかか?」
「申し訳ありません……」
「酔ったら誰にでもこういうことをするんじゃないだろうな」
「しません……小鳥遊にだけです……」

 何度謝っても、なかなか小鳥遊の機嫌が直らない。
 音を上げた俺は、「うー……」と呻きながら小鳥遊に抱きついた。

「なあ……。お前は結局何に一番怒ってんの……? むちゃくちゃに抱かれたこと? 酔ったら誰にでもするかもしれないこと? 俺の前世が淫魔かもしれないこと?」
「……」
「教えてくれないと分からない……」

 小鳥遊は顔を背けたままボソッと答える。

「……お前が、何も覚えていないことに」
「あ……」
「昨晩の悦びが……俺一人だけのものだったなんて、虚しいだろう」
「……」
「俺の記憶にしか残っていないセックスなんて、ただのオナニーだ」
「……ごめん」

 小鳥遊が俺とのセックスで求めているのは単なる快楽ではないのだと、そのときしみじみ実感した。
 それはつまり、俺の名器ではなく、俺自身を求めているということだ。

 本来落ち込むべきところで、俺は喜び、満たされてしまった。

「小鳥遊。俺、酒やめるから、昨晩のこと許して」
「……そこまでしろとは言ってない」
「ううん。俺も、お前とのセックスは全部覚えていたいから」
「……」
「これからは二度とオナニーなんてさせないから」

 だからこっち向いて、とお願いすると、小鳥遊は言うことを聞いてくれた。

「キスしていい?」

 その問いには答えなかったが、小鳥遊はキスをされても拒まなかった。
 そっと、小鳥遊が俺を抱きしめる。

「昨日のお前、すごかったんだぞ」
「うん」
「すごく、気持ちよかったんだ」

 そんなに良かったセックスを、オナニーにさせてしまってごめんな。

「東京に帰ったら、また俺に上させて。昨日より良いセックスしよう」
「……ああ」

 無事仲直りした俺たちは、北海道旅行三日目を楽しんだ。札幌の観光スポットを回りながら、美味いメシを食べ歩く。食べ過ぎたせいで、ホテルに戻った頃には二人ともみっともないほどに腹が出ていた。
 互いの腹を見てゲラゲラ笑いながら一回だけセックスをして、その日は寝た。

 そして最終日――
 新千歳空港で飛行機を待つ俺と小鳥遊は、ぼんやりと北海道の空を見上げる。

「小鳥遊。どうだった、北海道は」
「良かった」
「また来ような」
「そうだな」

 小鳥遊はクスッと笑い、言葉を続ける。

「定年退職したら、北海道に移り住むのも良いな」
「はは。そこまで気に入ったか?」
「ああ。それに、ここはお前の生まれ故郷だしな」

 そう言って、小鳥遊はこっそり俺の手を握った。

「お前が生まれた場所に、骨をうずめるのも悪くない」

 全く、こいつは。
 どれだけ俺を幸せにしたら気が済むんだ。

【『男泣かせの名器くん、犬猿の仲に泣かされる』おまけ「夏の北海道」 end】
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