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おまけ:夏の北海道
帰省-5
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帰りも、朔也が千歳空港まで送ってくれた。
昨晩あんなことがあったんだ。少しは気まずい空気が流れるかと心配していたのだが――
「斗真ぁ~! 挨拶のキスーっ」
と、朔也は良い意味でも悪い意味でも今まで通りだった。そのことに内心ホッとしている自分がいる。
空港での別れ際、朔也が俺をぎゅっと抱きしめた。
「またね、斗真」
「ん。元気でな」
「最後に挨拶のキスさせて」
「仕方ないな……」
朔也が俺の頬に手を添える。ゆっくりと顔が近づき、優しいキスをした。
「また、年末年始に」
「それまでに彼氏なり彼女なり作っとけよお前」
「ははっ。むりー」
……と、そんな他愛もないやりとりをしているとき、背後から聞きなれた声がした。
「月見里!」
「えっ?」
振り返ると、こちらにゆっくり歩いてくる小鳥遊がいた。
「小鳥遊!? なっ、なんでここに!?」
「迎えに来たんだが」
「新千歳空港に!? わざわざ!?」
小鳥遊はほんのり頬を染め、目を逸らす。
「なにがたったの四日間だ。全く〝たった〟ではなかったじゃないか」
「た……小鳥遊……」
「待ちきれなくてな。迷惑だったか」
「~~……」
人前にもかかわらず、俺は小鳥遊に抱きついた。小鳥遊はそんな俺を抱き返す。
俺は思わず言葉を漏らした。
「会いたかった……」
「奇遇だな。俺もだ」
再会の時間を堪能してから、小鳥遊が「ところで月見里」と作り笑顔を浮かべる。
「さっきから気になっていたんだが、そこの男は何者だ?」
「へ?」
小鳥遊が指さしているのは、朔也だ。
「まさか高校時代の元カレか? ん?」
「えっと……」
まずい。小鳥遊の額に青筋が立っている。完全に朔也のことを疑っている。
「いや、ちがう。小鳥遊。聞け。そいつは――」
俺の言葉を遮り、朔也が俺の耳元で囁いた。
「斗真。やっぱり顔とスタイルで選んでるでしょ」
「ちがっ」
「面食い斗真」
「ちがうっ、顔だけじゃないしっ」
朔也は俺をからかったあと、小鳥遊に手を差し出した。
「馬骨さん。はじめまして。俺、斗真の弟の朔也です」
バコツ……? と首を傾げながらも、小鳥遊は握手に応じる。
「なんだ。月見里の弟さんだったか。はじめまして。小鳥遊です」
「あの。初対面でこんなことを言うのもアレなんですが。俺の斗真返してください」
「ひょっ!?」
馬骨さんの時点で雲行きが怪しかったのに、最後の一言で決定的になった。
小鳥遊の顔から笑みが消え、威嚇の表情に一変する。
「あぁ……? 〝俺の斗真〟だとぉ?」
「はい。斗真は俺のなんで。馬骨さんは邪魔なんで」
二人の握り合っている手がミシミシと軋む。
俺は顔を真っ青にして、二人の仲介をしようとした。
しかし、その前に朔也がパッと手を放す。
「ははっ。冗談ですよ」
「……」
「ちょっと悔しくて、負け犬の遠吠えしてしまいました」
朔也は俺に顔を向け、寂しそうに微笑んだ。
「斗真。タカナシさんのこと、ほんとに好きなんだね」
「……うん」
「タカナシさんが迎えに来てくれたときの……斗真のあんな幸せそうな顔、初めて見たよ」
「朔也……」
「タカナシさん、良い人かもね。だって、斗真を迎えに来るためだけにこんなところまで来てくれるんだし」
「うん。こいつ、良いヤツなんだ」
それから朔也は小鳥遊に向き直る。
「タカナシさんも、斗真のこと大好きなんですね」
「……ああ」
「斗真は俺の大事な人です。それに、大事な兄でもあります」
「……」
「だから……斗真のこと大切にしてください。お願いします」
朔也がペコッと頭を下げると、小鳥遊も同じように頭を下げた。
「約束します」
この二人のやりとりに、ちょっと泣きそうになった。
お辞儀をしたあと、朔也は俺に抱きついた。
「斗真~! 嫌なことがあったらいつでも帰っておいでね!」
「お、おう」
「元気でね!」
「ん。朔也も」
「じゃ、最後にお別れの……」
と言って、朔也が挨拶のキスをしてきた。
「なっ!?」
と、小鳥遊が大声を上げ、その場で硬直した。当然の反応である。
小鳥遊が硬直しているのを良いことに、ちょっと舌を入れられた。
「こらっ、朔也!」
「あははっ。ごめーん! じゃあね、斗真! 小鳥遊さん!」
朔也はキスするだけして、逃げるようにその場から去っていった。
嵐が去ったあと、小鳥遊がボソッと呟いた。
「なんなんだ、お前の弟は……」
「はは……。ちょっとヤバイやつなんだよなー……」
「ブラコンを通り過ぎているぞ……」
「うん……そうなんだよなー……」
小鳥遊は疑惑の目を俺に向ける。
「お前……まさか弟とセックスしていないだろうな……?」
「しっ、してないけど!? セックスはしてない!!」
「へー。セックス〝は〟か」
「うっ……」
「詳しく聞かせてもらおうか。車の中で」
「車の中……?」
小鳥遊は俺の手を引き、保安検査場の反対側に向かって歩き出した。
「え……? 小鳥遊、どこ行くんだ……?」
「せっかく北海道に来たんだ。観光しないでどうする」
「えっ。えっ、もしかして――」
小鳥遊は振り返り、事務報告のように淡々と話す。
「お前と俺は今から三泊四日の北海道旅行をする。今日は札幌だ。どうせ欲求不満になっているお前のことだ。どこにも行かずにホテルでこもりたいだろう。だから広いホテルを取っておいた。二日目は富良野と美瑛で観光。三日目は札幌で美味いもんでも食べ歩こう」
「えーっ!?」
「なんだ。いやか」
「いやじゃない! 俺も……」
たまらず、小鳥遊の腕に抱きついた。
「俺も、お前と北海道旅行したいと思ってた……!」
「お前は俺と一緒ならどこでも良いだろう」
「そうだけどっ」
俺の生まれ故郷の北海道に、小鳥遊を連れてきたいって実はずっと思っていたんだ。
そういうわけで、小鳥遊のサプライズによって、俺はもうしばらく北海道で滞在することになった。
昨晩あんなことがあったんだ。少しは気まずい空気が流れるかと心配していたのだが――
「斗真ぁ~! 挨拶のキスーっ」
と、朔也は良い意味でも悪い意味でも今まで通りだった。そのことに内心ホッとしている自分がいる。
空港での別れ際、朔也が俺をぎゅっと抱きしめた。
「またね、斗真」
「ん。元気でな」
「最後に挨拶のキスさせて」
「仕方ないな……」
朔也が俺の頬に手を添える。ゆっくりと顔が近づき、優しいキスをした。
「また、年末年始に」
「それまでに彼氏なり彼女なり作っとけよお前」
「ははっ。むりー」
……と、そんな他愛もないやりとりをしているとき、背後から聞きなれた声がした。
「月見里!」
「えっ?」
振り返ると、こちらにゆっくり歩いてくる小鳥遊がいた。
「小鳥遊!? なっ、なんでここに!?」
「迎えに来たんだが」
「新千歳空港に!? わざわざ!?」
小鳥遊はほんのり頬を染め、目を逸らす。
「なにがたったの四日間だ。全く〝たった〟ではなかったじゃないか」
「た……小鳥遊……」
「待ちきれなくてな。迷惑だったか」
「~~……」
人前にもかかわらず、俺は小鳥遊に抱きついた。小鳥遊はそんな俺を抱き返す。
俺は思わず言葉を漏らした。
「会いたかった……」
「奇遇だな。俺もだ」
再会の時間を堪能してから、小鳥遊が「ところで月見里」と作り笑顔を浮かべる。
「さっきから気になっていたんだが、そこの男は何者だ?」
「へ?」
小鳥遊が指さしているのは、朔也だ。
「まさか高校時代の元カレか? ん?」
「えっと……」
まずい。小鳥遊の額に青筋が立っている。完全に朔也のことを疑っている。
「いや、ちがう。小鳥遊。聞け。そいつは――」
俺の言葉を遮り、朔也が俺の耳元で囁いた。
「斗真。やっぱり顔とスタイルで選んでるでしょ」
「ちがっ」
「面食い斗真」
「ちがうっ、顔だけじゃないしっ」
朔也は俺をからかったあと、小鳥遊に手を差し出した。
「馬骨さん。はじめまして。俺、斗真の弟の朔也です」
バコツ……? と首を傾げながらも、小鳥遊は握手に応じる。
「なんだ。月見里の弟さんだったか。はじめまして。小鳥遊です」
「あの。初対面でこんなことを言うのもアレなんですが。俺の斗真返してください」
「ひょっ!?」
馬骨さんの時点で雲行きが怪しかったのに、最後の一言で決定的になった。
小鳥遊の顔から笑みが消え、威嚇の表情に一変する。
「あぁ……? 〝俺の斗真〟だとぉ?」
「はい。斗真は俺のなんで。馬骨さんは邪魔なんで」
二人の握り合っている手がミシミシと軋む。
俺は顔を真っ青にして、二人の仲介をしようとした。
しかし、その前に朔也がパッと手を放す。
「ははっ。冗談ですよ」
「……」
「ちょっと悔しくて、負け犬の遠吠えしてしまいました」
朔也は俺に顔を向け、寂しそうに微笑んだ。
「斗真。タカナシさんのこと、ほんとに好きなんだね」
「……うん」
「タカナシさんが迎えに来てくれたときの……斗真のあんな幸せそうな顔、初めて見たよ」
「朔也……」
「タカナシさん、良い人かもね。だって、斗真を迎えに来るためだけにこんなところまで来てくれるんだし」
「うん。こいつ、良いヤツなんだ」
それから朔也は小鳥遊に向き直る。
「タカナシさんも、斗真のこと大好きなんですね」
「……ああ」
「斗真は俺の大事な人です。それに、大事な兄でもあります」
「……」
「だから……斗真のこと大切にしてください。お願いします」
朔也がペコッと頭を下げると、小鳥遊も同じように頭を下げた。
「約束します」
この二人のやりとりに、ちょっと泣きそうになった。
お辞儀をしたあと、朔也は俺に抱きついた。
「斗真~! 嫌なことがあったらいつでも帰っておいでね!」
「お、おう」
「元気でね!」
「ん。朔也も」
「じゃ、最後にお別れの……」
と言って、朔也が挨拶のキスをしてきた。
「なっ!?」
と、小鳥遊が大声を上げ、その場で硬直した。当然の反応である。
小鳥遊が硬直しているのを良いことに、ちょっと舌を入れられた。
「こらっ、朔也!」
「あははっ。ごめーん! じゃあね、斗真! 小鳥遊さん!」
朔也はキスするだけして、逃げるようにその場から去っていった。
嵐が去ったあと、小鳥遊がボソッと呟いた。
「なんなんだ、お前の弟は……」
「はは……。ちょっとヤバイやつなんだよなー……」
「ブラコンを通り過ぎているぞ……」
「うん……そうなんだよなー……」
小鳥遊は疑惑の目を俺に向ける。
「お前……まさか弟とセックスしていないだろうな……?」
「しっ、してないけど!? セックスはしてない!!」
「へー。セックス〝は〟か」
「うっ……」
「詳しく聞かせてもらおうか。車の中で」
「車の中……?」
小鳥遊は俺の手を引き、保安検査場の反対側に向かって歩き出した。
「え……? 小鳥遊、どこ行くんだ……?」
「せっかく北海道に来たんだ。観光しないでどうする」
「えっ。えっ、もしかして――」
小鳥遊は振り返り、事務報告のように淡々と話す。
「お前と俺は今から三泊四日の北海道旅行をする。今日は札幌だ。どうせ欲求不満になっているお前のことだ。どこにも行かずにホテルでこもりたいだろう。だから広いホテルを取っておいた。二日目は富良野と美瑛で観光。三日目は札幌で美味いもんでも食べ歩こう」
「えーっ!?」
「なんだ。いやか」
「いやじゃない! 俺も……」
たまらず、小鳥遊の腕に抱きついた。
「俺も、お前と北海道旅行したいと思ってた……!」
「お前は俺と一緒ならどこでも良いだろう」
「そうだけどっ」
俺の生まれ故郷の北海道に、小鳥遊を連れてきたいって実はずっと思っていたんだ。
そういうわけで、小鳥遊のサプライズによって、俺はもうしばらく北海道で滞在することになった。
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