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出張

第十八話

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 ◇◇◇
(月見里side)

 もう無理。頭おかしくなる。
 イキすぎてちんこ痛い。擦られすぎて尻の中がヒリヒリする。
 射精されすぎて腸の中が膨れている。心なしか下っ腹が重たい。

 でも、止めたくない。
 俺の体が壊れるまで抱き潰してほしい。朝まで――

「月見里……終わったぞ」

 小鳥遊のペニスが抜かれると、おもらしをしたような感覚がして肝が冷えた。
 慌てて尻を抑えたが、それが小鳥遊の精液だと気付き内心胸を撫でおろす。
 それにしても、よくもまあここまで精液を注ぎ込んだものだ。俺が女だったら確実に孕んでいたな。

 俺は窓の外に目をやった。薄暗いが、確実に夜は明けている。

「朝まで……できた……」

 俺は一体何時間抱かれていたのだろう。少なくとも、二分や三分では絶対にない。
 俺の精液が枯れはて、「もうやめてくれ」と叫びそうになるほどの間、抱かれていたことには違いない。

 悔しいが、セックスのあとにここまでの満足感を得たのは、はじめてだ。

「金曜の相手、俺じゃだめか?」

 小鳥遊の申し出に、不本意ながら胸が高鳴った。
 毎週こんなセックスができるなんて、相手が小鳥遊でも即答で断ることができなかった。

 四つの条件を出すと、小鳥遊は承諾した。ほんの少しムスッとしていたが、問題はなさそうだ。

 俺たちはセフレの口頭契約を交わしたあと、汚れた体を洗い、スーツに身を包む。
 一晩中寝ずに運動をしていたせいで、二人とも疲れ切った顔をしていた。

「打ち合わせに行く前にコーヒーでも啜りに行くか」
「そうだな。はは、お前の顔ひでえ。クマやば」
「うるさい。お前もたいがいだぞ」

 小鳥遊が俺の顔を覗き込む。そのままさりげなく唇を重ねた。

「おいっ。キス禁止って言ったばかりだろう!?」
「俺が承諾したのはセックスの最中に限ってだ」
「はあ!?」
「それ以外の時については承諾したつもりはない」
「ん……っ」

 どうしてこいつはキスをしたがる。ああ、俺が嫌がるのが面白いからか。相変わらず腹が立つヤツだ。

「……ダメだという割に、しっかり舌を絡めてくるんだな」
「うっ、うるさいなっ! もともとキスは好きなんだよ!」
「だったら禁止しなければいいのに」
「分からないか!? だから禁止にしてんだよ!!」

 セックスは性欲処理と割り切れるが、キスはそう割り切ることができない。
 ……俺はわりと単純だから、キスしていると変な気持ちが沸き上がりそうになる。
 このままキスをし続けていたら、たとえ相手が小鳥遊であったとしても、脳が勘違いを起こしてしまいそうなんだ。
 だから禁止しているんだよ。分かれよバカ。

「俺、小鳥遊に迷惑かけたくないし。っていうか俺がそんなふうになるの嫌だし」
「そんなふうにって?」
「そりゃ、俺がお前に――」

 と言いかけて、自分でびっくりして叫んでしまった。

「何言おうとしてんだ俺!?」
「お前って案外うるさいヤツだよな……。会社で素のキャラ出すんじゃないぞ? たぶん女性たちががっかりするから……」
「うっ、うるさい! 分かってる!」

 俺は、自分にとっての理想の上司を演じているつもりだ。いつでも冷静で、頼りになるような、そんな人でいるよう心掛けている。

「……ああ、だから名前も知らないヤツが必要だったんだな」
「……」
「唯一素を出しても許される存在だったから」
「……そうだよ」

 本当の俺は、みんなの上司になれるような立派な人間じゃない。
 必死に取り繕ってやっと、俺はみんなの上司でいられるんだ。

 小鳥遊がぽんぽんと俺の頭を撫でる。

「俺は口が堅い」
「……それは認める」
「だから、俺には素を出してかまわない」
「……どうせお前はバカにする。失望もするだろうし――」

 それを聞いた小鳥遊が鼻で笑った。

「部下の部屋にゲロまき散らすより、恥ずかしいことがあるか?」
「うっ……」
「酔い潰れたお前にちんことケツいじらされた俺が、これ以上お前に失望すると思うか?」
「うぐぅ……っ」
「昨晩なんてアヘ顔で潮吹くお前を見たんだぞ。それ以上に見られて恥ずかしいことがあるのか?」
「それ以上はやめろっ……! 心が死ぬ……っ!」

 小鳥遊は肩を揺らして笑い、もう一度キスをした。

「お前の貴重な金曜日を、これから俺が奪うんだ。せいぜい、お前は俺を都合よく使えばいいさ」
「……なるほど」

 確かに。そう言われたらスッと納得できた。
 小鳥遊に名器を使わせる代わりに、俺もこいつを都合よく使えばいい。それでウィンウィンというわけか。

「納得したか?」
「おう。納得した。じゃあそうする」
「はは。やっぱりお前はバカだ」
「あぁ!?」
「それより、コーヒー飲みに行くんだろ? さっさと行くぞ」
「おいっ、なんで俺のことをバカって言ったぁ!」

 やっぱりいちいち癪に障るやつだ。
 まあいいさ。これからめいっぱいお前のこと使わせてもらうからな。覚悟しとけよ。
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