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一年:学期末考査~一学期中間考査

第五十二話

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 二年一学期中間テスト三日前、放課後。
 俺は凪グループと一緒に勉強していた。
 一番勉強していなさそうなグループが(偏見でしかないが、そのくらい派手なヤツらの集まりなんだ)、放課後の教室でかたまって勉強している姿は、クラスメイトの注目の的だった。

 何度見ても、凪の勉強中の集中力には感心する。まだ勉強をはじめて十分ほどしか経っていないが、すでに騒音などがシャットダウンされているようだった。
 俺は凪の、集中しすぎてちょっと虚ろになっている目が好きだ。

 しばらくして、隣に座っていたCが俺の腕をつつく。

「ねえ、理玖。この問題分かんないんだけど――」

 俺がCの問題集を覗き込もうとしたとき、凪が急に顔を上げた。

「C。どこの問題が分からないの?」
「え? 二十三ページだけど……」
「ああ、そこ。俺が教えるからこっち来て」
「え、いいよ。理玖に教えてもらうから」
「いや、俺が教えるから」
「ううん。理玖に教えてもらいたいの。だって凪、教えるの下手なんだもん」
「うっ……」

 このやりとり何回目だよ。俺たちは一週間前からこうして集まって勉強しているのだが、その間に幾度となくこの無意味なやりとりが繰り返されていた。

 Cが俺に告白したのを知ってから、凪のCに対する警戒度がマックスまで上がったのが原因である。少しでもCが俺に触れようものなら、どこからともなく飛んでくるようになっていた。
 そしてそれをCが面白がっている、というのが今の構図だ。要するに凪はCにからかわれているのだ。

 俺はため息を吐き、Cを窘める。

「あのなあ。あんまり凪をからかうなよ」
「えへ。ごめーん。でもほんとに分かんないの。理玖、教えてー」
「はいはい」

 俺がCに教えているところを凝視していた凪は、俺が自分の机に戻ったとたん勢いよく手を挙げた。

「理玖。俺にも教えてください」
「お前に教えることは何もねえよ」
「いいえ。問題集八十七ページの問題が分かりません」
「そこはテスト範囲じゃないだろお!?」
「はい。でもこの前理玖が授業中にそこまで予習していたのを目視しました」

 こいつ授業中ずっと俺のこと見てんの? こわ……

 どうやらどうしても俺に勉強を教えてもらいたいらしい。しかたがないから、俺は凪を呼び寄せた。
 凪は大喜びで椅子ごと移動し、ぴったりくっつくくらい近くに座る。

「……近くない?」
「ん? 全然」

 なぜか凪は、教え終わってもその場から移動しなかった。狭い。狭すぎる。

「おい凪……。狭いから元の席戻って」
「……」
「おい、凪」
「……」
「おーい」
「……」

 ダメだ。集中モードに入りやがった。こっちの声が聞こえちゃいねえ。
 諦めた俺は、教科書に目を戻した。
 狭いけど……居心地は悪くない。

 勉強に集中しているうちに、すっかり凪の存在を忘れていた。
 無心になって問題を解いていると、そっと左太ももに手を置かれた。
 左隣にいる凪に目をやるも、凪はそ知らん顔で勉強をしている。
 俺はみんなに気付かれないようこっそり左手を机の下に移動させ、凪の手を振り払おうとした。

「っ」

 しかし、その手をがっしり握られてしまった。

「……」

 手の甲に乗せられた、少し汗ばんでいる凪の右手。

 あ、やばい。心臓がバクバクする。俺、今凪に手を握られている。みんながいる中、机の下でこっそりと。
 凪の手が、俺の手の平の中に滑り込む。指を絡め、きゅっと握ってきた。

「~~……」

 どうしよう、ここは教室だぞ。うしろから見られたら丸見えだ。だめだだめだ、こんなこと。
 なんて考えて自制しようと試みたが、最終的には欲望に負けた。

 俺は、凪の手を握り返した。

「っ……!」

 凪が少しだけ顔を上げたが、俺は知らないふりをした。

 凪の手の感触、もはや懐かしい。相変わらず体温が高いな、こいつは。
 ちょっと前までこの指で――

 いかんいかん。そんなことを考えていたら股間が誤作動を起こしかねない。勉強に集中しろ。

 そのとき、凪がコソッと囁いた。

「理玖……」
「なに」
「勃っちゃった……」

 お前勉強中になに勃起してんだよ。手つないだだけで勃起するとか童貞かよ。
 やめてよもうこいつ可愛すぎる。
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