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弟から手紙が届きました

第五十一話

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 家に着くなり、僕は馬車を飛び出した。

「モーリス!!」

 階段を駆け上がると、泣いているモーリスと、そんな彼を慰めているセリーヌがいた。
 彼らは僕の顔を見るなり、子供のように泣きじゃくりながら僕に抱きついた。

「「エディ……!!」」
「心配させてごめんね……っ!! 辛い思いさせてごめんね……っ!!」

 モーリスの顔には痣が増えていた。おそらく、僕とローラン様が拉致されたときに抵抗して殴られたのだろう。
 セリーヌは……顔に傷こそなかったけれど、疲れ切った顔をしていた。

 僕は二人に、ロジェとローラン様が助けてくれたことと、借金を返さなくてもよくなったことを話した。
 それからセリーヌの手を握り、そっと撫でる。

「だから……もうしたくもない仕事をしなくてもいいんだよ、セリーヌ。ごめんね。ごめんね……」

 セリーヌは安堵の表情を浮かべつつも気丈に振舞う。

「あなたが謝ることないわ。私が選んだことなんだから。なんでも自分のせいにしないで」
「うん……。でも……」
「……私だって、家族を守りたかったの」

 喉に熱いものがこみ上げた。
 自分の身を犠牲にしてでも家族を守りたいという気持ちは、僕にも痛いほど分かる。
 守りたいものを守れない悔しさも、守るよりも守られる方が辛いこともあるということも、さっき知った。

 もしかしたらセリーヌとモーリスも、そう思っていたのかもしれない。

「モーリス。セリーヌ。僕と弟たちを守ってくれて、ありがとう」

 僕の言葉に、モーリスとセリーヌは泣きながら微笑んだ。

「それで……これからどうしようか……」

 僕は周囲を見回した。空き家同然の空っぽ具合で、とてもじゃないが住める環境じゃない。今までどうやって生活していたのかと考えると顔が青ざめるくらいだ。

「僕のお給金は来月だし……。貯金も当然ない、よね……?」

 それに答えたのはセリーヌだ。

「貯金はないけど、昨晩稼いだお金はあるわ。大銀貨五枚だけだけど……」

 以前冒険者ギルドで聞いた報酬額より少ないのは、借金取り経由で仕事をとっていたからだろう。
 たった大銀貨五枚のためにセリーヌは……と考えて頭に血が昇ったけれど、ぐっと堪えた。

 大銀貨五枚。一週間分の食費としてはまあまあな額だけど、家具なんてひとつも買えない。

 モーリスも苦しい声を出す。

「店の家具も商品も、調合道具も材料も取られちゃったから、薬屋も経営できないんだ……」
「どうしよう……」

 そこに、先ほどまで一階にいたローラン様がやってきた。

「はじめまして。僕はセドラン侯爵家の四男、セドラン・フォン・ローランと申します」
「きゃっ!」

 優雅な所作で挨拶をするローラン様を前にして、セリーヌが変な声を出した。それからサッと僕の背中に隠れる。

「セリーヌ? どうしたの?」

 振り向いてセリーヌの様子を見て、僕まで慌ててしまった。セリーヌが顔を真っ赤にして、さらに乙女の表情を浮かべていたからだ。

「セリーヌ……?」
「エ、エディ……!? あのローラン様だわっ! 本物だわっ!! すごい! 眩しすぎて目が潰れちゃう!」
「セ、セリーヌ……落ち着いて……」
「かっこいい……いえ、美しいわ……! あぁぁ……すごい……」

 僕はおろおろしてローラン様に弁解した。

「ローラン様、失礼をすみません……。普段はこんな子じゃないんです……本当はもっとしっかり者で……」

 しかしローラン様は全く気にしていないようだった。

「かまわない。だいたい僕に初めて会った人はそういう反応をする」
「そ、そうなんですね……」
「ところでエディ。少し相談なんだが」
「は、はいっ。なんでしょうっ」

 ローラン様は家を見渡しつつ、こう言った。

「侯爵家には使わなくなった古い家具がたくさんあるんだ。捨てるには惜しいが、屋敷では使い道がない。よかったらここで使ってくれないか?」
「えぇ!? そんなのいただいていいんでしょうか!? お屋敷にあるものなんて、高級品しかないでしょう……!」
「むしろ引き取ってほしいんだ。このままだと物置部屋が窮屈でたまらないのだと、ロジェが言っている」

 きっとこれは、ローラン様とロジェの粋なはからいだ。
 僕たちはありがたく、その好意に甘えることにした。

「でも……」

 セリーヌが不思議そうに首を傾げる。

「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「そ、それは、その……」

 珍しくローラン様が狼狽えている。ポッと頬を赤らめ、ちょっと後ずさった。
 ロジェに目で合図されたローラン様は、咳払いをしてから口を開いた。

「エ、エディは、僕にとって大切な人だからだ」
「まあ……。ローラン様は使用人のことを大事にしているんですね」

 セリーヌがそう返すと、ローラン様が「そ、そうじゃなくてっ」とかぶりを振る。

「使用人だからではなくて、その、エディは僕の……その……」
「?」
「僕のっ、こっ、恋人だからだっ」
「「!?」」
「おいっ!? どうしてエディまで驚いている!?」

 そりゃ驚くよ!? えっ、僕ってローラン様の恋人だったの!?

 あわあわしていると、ローラン様に胸ぐらを掴まれた。

「エディ!? まさかそんなつもりはなかったとでも!? 僕を弄んでいたというのか!?」
「いいえ!? でっ、でもっ、びびび、びっくりしちゃって!!」
「なぜびっくりするんだ!?」
「だっ、だってっ! 今までそんなことハッキリ言ったことなかったじゃありませんか……!!」
「なっ……!?」
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