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侯爵令息の様子がおかしいです
第二十五話
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「――……」
ほんの少し、たった数秒のできごとだった。
ローラン様の柔らかな唇が、僕の唇にそっと触れた。
唇が触れ合ったあと、僕たちは何も言えず、目も合わせられず、伏し目がちに黙り込んだ。
「……」
「……」
「いやだったか?」
「……いやじゃ、ありません」
「そうか」
ローラン様は気恥ずかしそうに笑う。
「キスしてしまった」
「は、はい……っ」
ガチガチになっている僕の顔を、ローラン様が覗き込む。
「もしかして……はじめてだったか?」
「はいぃ……。もう、死んでしまうかと……っ」
「ふふ。悪いことをしてしまった」
どうしてだろう。ロジェと性交するときよりも、ローラン様とキスしたときの方が比べ物にならないほどドキドキした……!
ローラン様の唇、柔らかかった。それにすごく優しいキスだった……!
うわぁぁぁ……。こんなことをされたら、どんどんローラン様のことで頭がいっぱいになってしまう。
ローラン様が遠くを眺めながら、ほう……と吐息を漏らした。
「……自分からキスしたいと思う日が来るなんて」
そして、照れ笑いを浮かべる。
「エディのことが、日に日に特別になっていく」
◇◇◇
ローラン様との甘い時間を過ごしたその夜。
自室に戻ると、ソファで読書をしているロジェがいた。
僕はその本を払い落とし、ロジェの膝の上に乗った。
目を血走らせている僕の形相に、ロジェが顔をひきつらせる。
「ど、どうしたんですエディ……。顔が怖いですよ」
「ロジェさん……僕は近いうちに死ぬかもしれません」
「なんですか急に。何かありましたか?」
「ありました……」
今日のできごとを聞いたロジェは、興奮しすぎて鼻血を垂らした。
「ローラン様からキスを……? ンッ……!! 見たかった……!!」
「今日のローラン様はすごかったです……あれで好きにならない人がいるでしょうか……」
「いないですよ。あなたはよくやっています。すごいです」
それより、とロジェが僕の唇をつついた。
「感謝してください。あなたの唇にだけは手を出さなかった私に」
「むぅ……」
「おかげで初キッスを好きな相手とできたではありませんか」
「そ、そうですけどぉ……。あなたにお礼を言うのは癪です……」
「確かに。ふふ」
そして、僕の顔をぐいと引き寄せる。
「さて。初キッスも終わらせたことですし、そろそろ私もしていいですかね」
「えっ!? やめてください!! ローラン様の感触を忘れたくないんですが!?」
「冗談ですよ。私、そこまで鬼じゃありませんから」
「もう……」
「でも私の口はローラン様のペニスを咥えているのですよ? 間接的に味わいたくないですか?」
「下世話なことを言うのはやめてください!!」
「これも冗談です」
ロジェはケタケタ笑いながら、僕を抱きかかえてベッドに上がった。
「んん。そろそろあなたとの関係も終わりが近そうな予感がしますねえ」
「どういうことです? 困りますよ、そんなの」
「あら? そんなに私との関係を続けたいですか?」
「そうじゃなきゃ、誰に発情を治めてもらえばいいんですか」
「いるじゃありませんか。あなたの唇を奪った相手が」
「っ……ちょっと! からかわないでください!!」
「これは冗談ではないんですがねえ」
そうだ。僕はローラン様に大きな隠し事をしている。
僕が本当はオメガだということを……。
ローラン様がそれを知ったら……
「きっと……嫌われてしまいます」
ローラン様はオメガのことが大嫌いだ。
僕がはじめてローラン様の部屋を訪れたとき、ローラン様がオメガに罵声を浴びせていたことは今でもはっきりと覚えている。
僕がオメガだと知れば、きっと僕のことも嫌いになるに違いない。
《僕に近寄るな!! 汚らわしいオメガが!!》
――あんな言葉を向けられるかもしれないと考えるだけで、ちょっと泣きそうになる。
「ローラン様は、僕のことを純情な男の子だと思っています」
「……そうですね」
「ひとつもそんなことないのに……」
毎晩ロジェと抱き合い、発情期が来れば理性を失うほどの欲情に駆られる。
本当の僕を知ってもなお、ローラン様が僕に好意を寄せてくれるとはとても思えない。
「今のまま、ずっと一緒にいれたらいいのに」
どきどきしながらハグをして、ちゅっとキスする。
「今の関係が、僕もローラン様も一番幸せでいられると思うんです……」
「そうでしょうか」
ロジェは上体を起こし、僕の頬を撫でる。
「あなた、やはりローラン様のことを何も分かっていらっしゃらないのですね」
ほんの少し、たった数秒のできごとだった。
ローラン様の柔らかな唇が、僕の唇にそっと触れた。
唇が触れ合ったあと、僕たちは何も言えず、目も合わせられず、伏し目がちに黙り込んだ。
「……」
「……」
「いやだったか?」
「……いやじゃ、ありません」
「そうか」
ローラン様は気恥ずかしそうに笑う。
「キスしてしまった」
「は、はい……っ」
ガチガチになっている僕の顔を、ローラン様が覗き込む。
「もしかして……はじめてだったか?」
「はいぃ……。もう、死んでしまうかと……っ」
「ふふ。悪いことをしてしまった」
どうしてだろう。ロジェと性交するときよりも、ローラン様とキスしたときの方が比べ物にならないほどドキドキした……!
ローラン様の唇、柔らかかった。それにすごく優しいキスだった……!
うわぁぁぁ……。こんなことをされたら、どんどんローラン様のことで頭がいっぱいになってしまう。
ローラン様が遠くを眺めながら、ほう……と吐息を漏らした。
「……自分からキスしたいと思う日が来るなんて」
そして、照れ笑いを浮かべる。
「エディのことが、日に日に特別になっていく」
◇◇◇
ローラン様との甘い時間を過ごしたその夜。
自室に戻ると、ソファで読書をしているロジェがいた。
僕はその本を払い落とし、ロジェの膝の上に乗った。
目を血走らせている僕の形相に、ロジェが顔をひきつらせる。
「ど、どうしたんですエディ……。顔が怖いですよ」
「ロジェさん……僕は近いうちに死ぬかもしれません」
「なんですか急に。何かありましたか?」
「ありました……」
今日のできごとを聞いたロジェは、興奮しすぎて鼻血を垂らした。
「ローラン様からキスを……? ンッ……!! 見たかった……!!」
「今日のローラン様はすごかったです……あれで好きにならない人がいるでしょうか……」
「いないですよ。あなたはよくやっています。すごいです」
それより、とロジェが僕の唇をつついた。
「感謝してください。あなたの唇にだけは手を出さなかった私に」
「むぅ……」
「おかげで初キッスを好きな相手とできたではありませんか」
「そ、そうですけどぉ……。あなたにお礼を言うのは癪です……」
「確かに。ふふ」
そして、僕の顔をぐいと引き寄せる。
「さて。初キッスも終わらせたことですし、そろそろ私もしていいですかね」
「えっ!? やめてください!! ローラン様の感触を忘れたくないんですが!?」
「冗談ですよ。私、そこまで鬼じゃありませんから」
「もう……」
「でも私の口はローラン様のペニスを咥えているのですよ? 間接的に味わいたくないですか?」
「下世話なことを言うのはやめてください!!」
「これも冗談です」
ロジェはケタケタ笑いながら、僕を抱きかかえてベッドに上がった。
「んん。そろそろあなたとの関係も終わりが近そうな予感がしますねえ」
「どういうことです? 困りますよ、そんなの」
「あら? そんなに私との関係を続けたいですか?」
「そうじゃなきゃ、誰に発情を治めてもらえばいいんですか」
「いるじゃありませんか。あなたの唇を奪った相手が」
「っ……ちょっと! からかわないでください!!」
「これは冗談ではないんですがねえ」
そうだ。僕はローラン様に大きな隠し事をしている。
僕が本当はオメガだということを……。
ローラン様がそれを知ったら……
「きっと……嫌われてしまいます」
ローラン様はオメガのことが大嫌いだ。
僕がはじめてローラン様の部屋を訪れたとき、ローラン様がオメガに罵声を浴びせていたことは今でもはっきりと覚えている。
僕がオメガだと知れば、きっと僕のことも嫌いになるに違いない。
《僕に近寄るな!! 汚らわしいオメガが!!》
――あんな言葉を向けられるかもしれないと考えるだけで、ちょっと泣きそうになる。
「ローラン様は、僕のことを純情な男の子だと思っています」
「……そうですね」
「ひとつもそんなことないのに……」
毎晩ロジェと抱き合い、発情期が来れば理性を失うほどの欲情に駆られる。
本当の僕を知ってもなお、ローラン様が僕に好意を寄せてくれるとはとても思えない。
「今のまま、ずっと一緒にいれたらいいのに」
どきどきしながらハグをして、ちゅっとキスする。
「今の関係が、僕もローラン様も一番幸せでいられると思うんです……」
「そうでしょうか」
ロジェは上体を起こし、僕の頬を撫でる。
「あなた、やはりローラン様のことを何も分かっていらっしゃらないのですね」
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