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秋の章 甘口男子は強くなりたい

6、探せ勝ち筋!最終節!

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 最終節はリーグ戦の集大成だ。

 だからか、試合は頭脳eスポーツの面が押し出されるような、息つまる様な攻防が繰り広げられた。相手チームにも背負うものがあり、気迫のこもった勝負の末、先鋒のおいちゃんが負けて、中堅のコオリ君が勝利。大将のノイ君に全てが託された。
 相手は響選手で、どうしても後期リーグの初戦を思い出してしまう。

「ガッチガチだな」

 タブレットに映された配信画面を見ながら、おいちゃんが苦笑した。コオリ君も「あそこまでノイさんが顔かたいのは珍しいですね」とうなずく。

 わたしは何故か3つ並ぶ椅子の真ん中に座って、試合観戦をしていた。右にはおいちゃん、左にはコオリ君。いつかのラーメン屋と同じだ。

 ここを出る前までノイ君は「さあ運命の一戦だ」なんて笑っていたけれど、いざ試合用の席についてヘッドフォンをつけた瞬間、顔つきが変わった。

 チームが3位になれるかと、彼自身の勝率の5割復帰とが、この試合で決まる。どちらも彼にとって、そしてわたしたちにとって譲れないものだ。

「この試合、多分すぐに決まりますね」

 試合直前に渡されたデッキリストを見ながら、コオリ君が言った。響選手の持ち込んだデッキはかなり攻撃的で、手札さえ良ければ、初手からがつんと相手にダメージを与えにいける。
 それに対してノイ君のデッキも、先手必勝を期すタイプのデッキだ。

「どっちもロングゲームには向かないデッキだもんね」とわたしが答えると、「できれば先攻が欲しいね」とおいちゃんも続けた。
 
 そうしてついに試合がスタートした。最初のルーレットで、ノイ君が先攻に決まる。初手にそろったカードは、悪くない内容だった。

「よしっ」

 おいちゃんが身を乗り出して、カードの確認をしている。コオリ君は響選手の手札を見て「でも向こうも悪くはないですね」と冷静な声で言った。

 試合は予想通り、お互いに攻め合う展開になった。基本的にノイ君が仕掛けて、響選手がそれを返していく。たまに響選手もリスクをとって、大ダメージを狙いにくる。そんな揺さぶりにあっても、ノイ君は冷静にカードをさばいていた。

「──だいぶ余裕が戻ったよね」

 鬼気迫る表情で試合をすすめるノイ君を見ながら、おいちゃんが言った。

「ちょっと前までは迷いながらプレイしてるって感じだったけど」
「いい意味でふっきれた感じがありますよね」

 いつも近くで見ている2人の言葉だから、すごく重みがある。

「ふくちゃんのおかげだね、きっと」
「い、いやいや、そんなことないって」
「あると思います。聞きましたよ、たくさん差し入れしたんですよね」
「それはしたけど……関係ないよ。ノイ君は、自分の力でちゃんと自信を取り戻したんだと思う」

 彼がどれくらい悩んで、努力したのか。その全部は見えなかったけれど、ずっともがいていたのは感じていた。
 もしかしたら今だってそうなのかもしれない。でもこの試合に勝てれば、何か変わる気がする。

「頑張り続けるのも、ひとりだと結構難しいものがあるじゃないですか。豊福さんの支えがあったから、ノイさんは自分を取り戻せるまで練習できたんじゃないかと思います」

 コオリ君はわたしのことを買いかぶってる。
 でもおいちゃんまで「そうそう」なんて同調するから、わたしは否定もしづらくなって曖昧に「そうなら……いいね」と言うだけにした。
 
 それから試合は一進一退の展開を続けていたけれど。

「あっ! これ、リーサルいけるよ!」

 ノイ君のターン、手札にくわわったカードを見て、おいちゃんが叫んだ。
 リーサルというのは相手のライフを削りきる攻撃のことで、彼の元へやってきたのは『天からの迎撃』というカード。これまで破壊された自分のカードの枚数分のダメージを与えられるものだ。

 ノイ君は一瞬手を止めてから、冷静にバトルログでその枚数を確認した。
 響選手の残りライフは5。ノイ君の破壊されたカードは6枚。

 足りてる……! リーサルだ!

 ノイ君は一度目を閉じて、息を吐き出してから、そのカードを場に出した。
 派手なエフェクトとともに響選手のライフがゼロになり、その瞬間、ノイ君が大きくガッツポーズした。

「やったぁ!!!!」

 わたしも含め、みんな立ち上がっていた。モニターの向こうでノイ君も勢いよくヘッドフォンを外して、拳を握っている。
 そうしてから、カメラに向かってピースサインをした。その彼の笑顔がぼやけていくから、わたしは慌ててメガネを外して目をこすった。



「……なんでこんな話になったんだっけ」

 劇的な最終節から2週間後の土曜日。
 12月に入って、街は一気にクリスマスムードが高まりきらびやかだ。そんな中わたしは両手にスーパーの袋を持って、ノイ君の住む部屋の前へとやって来ていた。この間宅急便を送るために住所を書いたけれど、まさかその場所に行くことになるなんて思わなかった。

 ことの発端は、最終節の後の飲み会でのこと。佐伯さんが予約してくれていた居酒屋でたっぷり料理とお酒を楽しんだ後、二次会で軽く飲んでいる時にカレーの話になったんだ。

「そういえば、ノイズはふくちゃんのカレー食べたいよね?」

 こんなおいちゃんのほろ酔い上機嫌な言葉から。

「食べたい! 作って!」
「俺も食べにいきますから!」
「もちろん俺も!」

 と何故か彼ら3人が勝手に盛り上がって、ノイ君の家でカレーパーティーを開くことになっちゃったんだ。

 いやほんとに、わたしの作るカレーなんて、まじで平々凡々なんですけど。
 何度もそう言ってるのに、誰も聞いてくれなかったんだよね……。

 ノイ君の家は、築浅の小ぎれいなアパートの2階だった。白い外壁と部屋の玄関ドアの濃いグリーンのコントラストが、やけにスタイリッシュだ。

 時刻は午後3時。冷たい北風のせいで、手袋をしても手がかじかんでいる。
 ここまで来たら、チャイムを押すしかない。ていうか荷物も重いし、早く室内に入りたい。震える指先でチャイムを押すと「いらっしゃい! 買い出しからありがとうね!」と、ノイ君はすぐにドアを開けてくれた。黒いパーカーに細身のデニムで、普段よりリラックスした雰囲気なのは、家だからかな。

「わっ、結構重い! ごめんね、手助け行けばよかった!」

 わたしの手からスーパーの袋を受け取るなり、ノイ君が目を丸くする。

「大丈夫だよ、駅から近かったし」

 ノイ君の後に続いて玄関に入り、スニーカーを脱ぐ。ノイ君の赤いスニーカーの隣に、わたしの黒いスニーカーが並ぶ様に、ちょっとだけドキッとした。

 ──いやいや、これでいちいち反応してたら身がもたない!
 平常心、平常心だ!
 心の中で唱えて、家にあがらせてもらった。
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