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どうか、無事で ~エルside~
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「クソッ!」
エリンが姿を消してから、1年が過ぎた。
あの日、血相を変えて僕の元に飛び込んできたエリンの幼なじみたちの表情が今でも忘れられない。
緊張と、不安、怒りと、もどかしさ、悔しさ・・・
3人の強張った顔から読み取れた感情と、3人と共にいるはずのエリンがいないという状況に胸がざわついた。
話を聞いて、慌てて天界を管理している神のところへ飛んだが・・・
「アイツ・・・いつか痛い目にあわせてやる。」
あのダメ神は、居眠りをしていた。
そして、天界にできた割れ目とエリンのことを話すと、
『あ~、ゴメンゴメン。眠くなっちゃってつい、ね?』
そう、軽ーく笑ったのだ。
あの時僕は、軽く殺意を覚えた。
「エル様・・・」
「ん?」
エリンは良い幼なじみを持った。
3人はエリンがいなくなった今、毎日天界中を飛び回り少しでもエリンを連れ戻すための手がかりがないか探してくれている。
そして1日の終わりには必ずこの家に集まり、報告会を開くのだ。
もちろん僕も、方法を探している。
僕にしかできないこと、つまり神界の神に聞きまわっている・・・が。
「なんで、なんで・・・天界から人間界に降りるのは簡単なのに、人間界から天界に昇のはできないんですか・・・!」
何かに耐えるように膝の上で握りこまれている彼女の拳を見て、僕はなんだか痛々しい気持ちになった。
「掟、だからね・・・」
そう、掟だ。
下の界に降りることはできるが、上の界に昇ることはできない。
・・・ある例外を除いては。
「何か、方法があるんでしょう?」
ずっと黙っていた彼が声を上げた。
「全く君は・・・」
つい苦笑を漏らしてしまう。
何もかも見透かされるような瞳。
これで15歳なんて、末恐ろしい。
「あることにはある。」
首肯すると、カリンがバッと顔を上げて僕に詰め寄る。
「何ですか!?方法って、何をすれば・・・」
「ただ」
水を差すようで申し訳ないが、これはとても不確実で、成功すればそれこそ奇跡のようなもの。
「その方法を成功させるための大前提が、まだない。」
まだ、その段階ではない。
「その方法を成功させるために、今僕にできることはないんですね?」
鋭く、的確についてくる彼が何を言わんとしているのか予想がついたけど、僕はそれを止めようとは思わなかった。
「そうだね。君にできることはない。」
僕たちの会話から何かを察したのか、他の2人がハッと息を呑んで彼を凝視した。
「なら。」
漆黒の髪を揺らして、彼は笑った。
微塵もためらいを感じさせない笑みを浮かべて。
「僕が人間界に降りましょう。そして時が来るまで、エリンを守る。」
エリン、僕の可愛い娘。大切な、唯一の宝。
彼が君のところへ行くまで、どうか、無事で。
エリンが姿を消してから、1年が過ぎた。
あの日、血相を変えて僕の元に飛び込んできたエリンの幼なじみたちの表情が今でも忘れられない。
緊張と、不安、怒りと、もどかしさ、悔しさ・・・
3人の強張った顔から読み取れた感情と、3人と共にいるはずのエリンがいないという状況に胸がざわついた。
話を聞いて、慌てて天界を管理している神のところへ飛んだが・・・
「アイツ・・・いつか痛い目にあわせてやる。」
あのダメ神は、居眠りをしていた。
そして、天界にできた割れ目とエリンのことを話すと、
『あ~、ゴメンゴメン。眠くなっちゃってつい、ね?』
そう、軽ーく笑ったのだ。
あの時僕は、軽く殺意を覚えた。
「エル様・・・」
「ん?」
エリンは良い幼なじみを持った。
3人はエリンがいなくなった今、毎日天界中を飛び回り少しでもエリンを連れ戻すための手がかりがないか探してくれている。
そして1日の終わりには必ずこの家に集まり、報告会を開くのだ。
もちろん僕も、方法を探している。
僕にしかできないこと、つまり神界の神に聞きまわっている・・・が。
「なんで、なんで・・・天界から人間界に降りるのは簡単なのに、人間界から天界に昇のはできないんですか・・・!」
何かに耐えるように膝の上で握りこまれている彼女の拳を見て、僕はなんだか痛々しい気持ちになった。
「掟、だからね・・・」
そう、掟だ。
下の界に降りることはできるが、上の界に昇ることはできない。
・・・ある例外を除いては。
「何か、方法があるんでしょう?」
ずっと黙っていた彼が声を上げた。
「全く君は・・・」
つい苦笑を漏らしてしまう。
何もかも見透かされるような瞳。
これで15歳なんて、末恐ろしい。
「あることにはある。」
首肯すると、カリンがバッと顔を上げて僕に詰め寄る。
「何ですか!?方法って、何をすれば・・・」
「ただ」
水を差すようで申し訳ないが、これはとても不確実で、成功すればそれこそ奇跡のようなもの。
「その方法を成功させるための大前提が、まだない。」
まだ、その段階ではない。
「その方法を成功させるために、今僕にできることはないんですね?」
鋭く、的確についてくる彼が何を言わんとしているのか予想がついたけど、僕はそれを止めようとは思わなかった。
「そうだね。君にできることはない。」
僕たちの会話から何かを察したのか、他の2人がハッと息を呑んで彼を凝視した。
「なら。」
漆黒の髪を揺らして、彼は笑った。
微塵もためらいを感じさせない笑みを浮かべて。
「僕が人間界に降りましょう。そして時が来るまで、エリンを守る。」
エリン、僕の可愛い娘。大切な、唯一の宝。
彼が君のところへ行くまで、どうか、無事で。
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