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高校生編 7月
覚悟を決める者、歓迎する者
しおりを挟む「それで蒼来。お前はこれから、どうしたいんだ?」
富金歯原先輩の問いかけに、ゴクリと喉をうごかす。
そう、そこなのだ。
問題は、そこ・・・
思案しながらも、とりあえずと口を開きかけた、そのとき。
「それについては、俺の決定に従ってもらおう。」
「・・・え。」
私たちしか、いないと思っていたこの空間に。
聞き覚えのある声が割り込んできた。
この、声は・・・
「ふじさわ、せんせい・・・」
かすれた声で、その名を呼ぶ。
それに応えるように、いつものつかみどころのない笑みを浮かべた先生は、ぐるりとその場にいるメンバーを見渡した。
「紫月以外、全員そろってるな。青竹ーお前も入ってきていいぞ。」
青竹って、青竹くんのことではない、よね。
静かに入ってきたのは、青竹くんの兄であり、もう一人の光陰部顧問、青竹翔先生だった。
「青竹先生まで・・・」
カイお兄ちゃんのうめきが聞こえる。
ばれた、よね。
ばれちゃった・・・!
私はともかく、これでカイお兄ちゃんも、紫月先輩も、銀先輩も、青竹くんも罰せられるかもしれない。
サアーっと血の気がひいていく。
これは、マズい。
「蒼来。」
「は、はい・・・!」
最悪の展開を覚悟して、ギュっと目を瞑った。
けど、聞こえてきたのは意外な言葉で。
「あー、悪いけどな、俺も勘付いてた。」
「え?」
「は?」
『・・・ええ!?』
私と、青竹先生と、みんあが声をあげる。
勘付いてたって、え、なんで・・・?
「朱雲弟も言ってただろ?んなもん、見るヤツが見れば分かるんだって。隠したいんなら整形でもして、髪と目の色かえて、成績おとして、もっといろいろ平均的にしてやっとこさ序の口ってとこだ。」
えええええ・・・
そんなに分かりやすいの?この容姿。
いやでも、色とかは朱雲家にもばれてないし、つながりもわかんないはずだけど・・・
「いいか?お前はな、なにもしなくても自分は特別です、みたいなオーラ放ってるんだ。そんなんが常人なわけないだろ。朱雲兄も、そんくらい気づけよ・・・って、お前自身も特別だからそこらへん感覚が鈍ってんのか。」
これだから朱雲の人間はなあ、と大仰にため息をついた先生と、パチリ、目が合った。
にやり、と藤沢先生が笑う。
あ、嫌な予感。
「それに、なあ蒼来。お前の瞳はこれだからなあ。」
ツンツン、と自分の瞳を示しながらゆっくりと近づいてくる先生。
これ、って、同じ、紫の瞳のこと・・・?
ううん、というよりも・・・
「水の主、紫月だって?まあなかなかいい人選じゃねえか。」
ぼそり、と耳元で私にしかきこえないようにして呟かれた言葉に、私はそっと目をふせた。
ああ、やっぱり。
この先生は、知ってる。
王の器のことも、その資格が、紫の瞳だということも。
どこからそれを知ったのか?
先生はそれについてどう思っているのか?
先生はすでにだれかを主にしたのか?
疑問は尽きない。
けど。
「蒼来には光陰部に入ってもらう。・・・秘密裏に、な。」
それを考えるのは、後でいいと思う。
「秘密裏に、っていうのは?」
「そのまんまだ。蒼来の正体全部ひっくるめて、ここだけの秘密ってことだ。そのかわり、蒼来には妖怪の退治に力を貸してもらう。」
願ってもない条件。
秘密が保たれるのならば、それでいい。
こくりとうなずき、覚悟を決めた。
窓の外で、セミの鳴き声がする。
「じゃあ、改めて。歓迎するよ、ソラ。」
カイお兄ちゃんの、ううん、光陰部部長、朱雲海の言葉に笑みを返し、差し出された手に、自らの手を重ねた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
7月が終わる。
波乱万丈になることは間違いないであろう8月に思いを馳せ、私はギュっとその手を握った。
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